自動車船カルテルの課徴金受諾(2014年・日本郵船の決断)

論点独禁法違反の処分を争うか受け入れるか
日本郵船:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
排除措置命令を争わず131億円を納め、対応の軸を海外当局へ移した選択2012年9月、自動車等の貨物輸送に関して独占禁止法違反の疑いがあるとして、日米の当局からそれぞれ調査を受けた。欧州当局からは質問状が届いている。日本の公正取引委員会は2014年3月18日、排除措置命令と課徴金納付命令を発し、課徴金の額は13,101百万円となった。

何をなぜ決めたか:排除措置命令を争わず131億円を納め、対応の軸を海外当局へ移した選択

概要

2012年9月、自動車等の貨物輸送に関して独占禁止法違反の疑いがあるとして、日米の当局からそれぞれ調査を受けた。欧州当局からは質問状が届いている。日本の公正取引委員会は2014年3月18日、排除措置命令と課徴金納付命令を発し、課徴金の額は13,101百万円となった。

取締役会は2014年4月30日、各命令に係る審判の請求を行わないことを決議し、同年6月19日に課徴金を納めた。2014年3月期には独禁法関連引当金繰入額13,101百万円を特別損失に計上している。

背景

グループが競争法違反の処分を受けたのは、これが初めてではない。連結子会社の郵船航空サービス(後の郵船ロジスティクス)は、国際航空貨物利用運送に係る本体運賃と燃油サーチャージをめぐり2008年4月から調査を受け、2009年3月18日に排除措置命令と課徴金納付命令を受けている。

同じ時期、日本貨物航空も航空貨物輸送に関わる価格カルテル等で米国・欧州委員会・韓国の各当局の調査対象となり、2009年4月に米国司法省と罰金を支払うことに同意した。2009年3月期の独禁法関連引当金繰入額は10,246百万円である。

内容

郵船航空サービスは2009年4月の臨時取締役会で、命令の内容には承服できないものがあるとして、公正取引委員会に審判手続の開始を請求すると決めた。審判は2010年7月2日の第6回期日で終結している。これに対し自動車船の件では、処分から1か月半で争わない道を選び、課徴金を納付した。

海外当局の調査はその後も続いた。2017年3月期には欧州当局への制裁金と豪州における罰金の支払いに伴う損失に備え、独禁法関連引当金繰入額として約195億円を特別損失に計上している。

含意

独禁法関連の支払額は2015年3月期の24,782百万円が最も大きく、2014年6月に納めた課徴金13,101百万円はこの期に含まれる。次いで大きいのが2019年3月期の18,997百万円で、独禁法関連引当金の残高はこの期にゼロとなった。

一方、完成自動車車両等の海上輸送について主要自動車船社と共同して運賃を設定したとする集団民事訴訟は、請求金額を特定しないまま米国その他の地域で提起され、結果を合理的に予測することが困難な状態が2023年3月期まで続いている。

いつ何が起きたか8件
考察:争わずに納めるという選択
考察

考察:争わずに納めるという選択

同じグループが5年の間に二度、独占禁止法違反の処分を受け、二度とも別の道を選んだ点にこの案件の芯がある。子会社の郵船航空サービスは命令に承服せず審判を請求し、審理は1年3か月に及んだ。本体は処分から1か月半で争わないと決め、13,101百万円を納めている。争って勝つ見込みよりも、まだ結論の出ていない海外当局の調査と集団民事訴訟にどれだけ資源を残せるかを重く見た判断だったと推察される。日本での決着を先に確定させたことで、その後の交渉相手は欧州と豪州に絞られた。

もっとも、日本の決着が早かったため海外の重さが際立つことになった。2017年3月期に欧州当局への制裁金と豪州における罰金へ備えて積んだ約195億円は、日本の課徴金のおよそ1.5倍にあたる。カルテルの舞台が国境を越える以上、一国の当局との決着は幕引きではなく、各国の当局が順に同じ行為を裁いていく過程の一区切りにすぎない。引当金の残高が消えた2019年3月期をもって当局との清算は一巡したが、請求金額すら特定されない集団民事訴訟は残されたままである。

数字で見る2表

数字で見る

図と表

日本郵船:独禁法関連の引当金・損失・支払額の推移

独禁法関連引当金(百万円)
日本郵船:独禁法関連の引当金・損失・支払額の推移
(百万円)独禁法関連引当金独禁法関連損失独禁法関連の支払額備考
2009年3月期10,24610,246−郵船航空サービスと日本貨物航空の航空貨物カルテルに係る引当。流動8,518・固定1,728
2010年3月期6,307−−流動4,579・固定1,728
2011年3月期1,927−−流動199は翌期有報の組替後の値。特別利益に独禁法関連引当金戻入額3,883を計上
2012年3月期3,164−−流動1,436・固定1,728
2013年3月期1,632−−固定負債の独禁法関連引当金がこの期に消えた
2014年3月期13,30713,101△2,252公正取引委員会の課徴金13,101を独禁法関連引当金繰入額として特別損失に計上
2015年3月期7,17513,734△24,7822014年6月19日に納めた課徴金13,101がこの期の支払額に含まれる
2016年3月期0364△2,898独禁法関連損失は金額的重要性が乏しく特別損失の「その他」へ組み替えられた
2017年3月期19,51519,515△862欧州当局への制裁金と豪州における罰金に備え約195億円を特別損失に計上
2018年3月期4993,100△2,975引当金の取崩しが進み、残高は499まで減少した
2019年3月期0−△18,997支払額18,997により引当金の残高が消えた
出所:日本郵船 有価証券報告書 第122〜132期(連結貸借対照表・連結損益計算書・連結キャッシュ・フロー計算書)
出所:日本郵船 有価証券報告書 第122〜132期(連結貸借対照表・連結損益計算書・連結キャッシュ・フロー計算書)

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
調査の開始2012年9月自動車等の貨物輸送をめぐり日米の当局がそれぞれ調査。欧州当局からは質問状を受領した
公正取引委員会の処分2014年3月18日排除措置命令及び課徴金納付命令。対象は自動車等の貨物輸送に関する独占禁止法違反
課徴金の額13,101百万円同額を2014年3月期に独禁法関連引当金繰入額として特別損失へ計上した
審判請求の可否2014年4月30日取締役会で、各命令に係る審判の請求を行わないことを決議した
課徴金の納付2014年6月19日決議から1か月半後に納付。2015年3月期の独禁法関連の支払額24,782百万円に含まれる
米国当局の処分有価証券報告書に記載なし2012年9月から調査を受けたが、処分の有無と金額は記載されていない
欧州・豪州向けの引当約195億円2017年3月期。欧州当局への制裁金と豪州における罰金の支払いに伴う損失に備えた
集団民事訴訟請求金額の特定なし完成自動車車両等の海上輸送で共同して運賃を設定したとして米国その他の地域で提起
子会社の先行事案2009年3月18日郵船航空サービスが国際航空貨物利用運送で排除措置命令及び課徴金納付命令を受けた
子会社の対応審判手続の開始を請求2009年4月の臨時取締役会で決議。審判は2010年7月2日の第6回期日で終結している
出所:日本郵船 有価証券報告書 第122期(2009年3月期)【事業等のリスク】・第126期(2013年3月期)【偶発債務】・第127期(2014年3月期)【事業等のリスク】【追加情報】・第130期(2017年3月期)【事業等のリスク】
出所:日本郵船 有価証券報告書 第122期(2009年3月期)【事業等のリスク】・第126期(2013年3月期)【偶発債務】・第127期(2014年3月期)【事業等のリスク】【追加情報】・第130期(2017年3月期)【事業等のリスク】
参考文献

参考文献

参考
  • 日本郵船 有価証券報告書「第122期(2009年3月期)【事業等のリスク】」
  • 日本郵船 有価証券報告書「第126期(2013年3月期)【偶発債務】」
  • 日本郵船 有価証券報告書「第127期(2014年3月期)【事業等のリスク】【追加情報】」
  • 日本郵船 有価証券報告書「第128期(2015年3月期)【連結損益計算書】【連結キャッシュ・フロー計算書】」
  • 日本郵船 有価証券報告書「第130期(2017年3月期)【事業等のリスク】」
  • 日本郵船 有価証券報告書「第136期(2023年3月期)【事業等のリスク】【偶発債務】」

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