日本精工ベアリングカルテルの各国制裁:国内の課徴金納付命令には審判で争い、米欧中の罰金と制裁金は早期に受け入れた対応

更新:

時期 2013年3月
当時の社長 大塚紀男
論点 軸受カルテルに対する各国当局の処分と、課徴金納付命令に争うかどうかの判断
概要

2011年7月26日と27日、ベアリング(軸受)製品の取引に関する独占禁止法違反の疑いで、本社と関係営業所が公正取引委員会の立入検査を受けた。2012年6月14日には公正取引委員会の刑事告発を受けた東京地方検察庁が、会社と元役員・元従業員を東京地方裁判所へ起訴している。

2013年2月、東京地方裁判所は会社に罰金3億80百万円、元役員と元従業員に執行猶予付きの懲役刑を言い渡した。翌3月には公正取引委員会から排除措置命令と課徴金納付命令56億25百万円を受けている。

背景

立入検査は日本だけではなかった。2011年11月8日にドイツの販売子会社が欧州委員会の立入検査を受け、翌9日には米国子会社が取引情報の提供を求める召喚状を米国司法省から受領している。韓国公正取引委員会は2012年7月、シンガポール競争法委員会は2013年2月に、それぞれ現地子会社へ立入検査に入った。軸受は自動車と産業機械に共通して組み込まれる部品で、取引も調査もそのまま国境をまたいだ。

内容

各国の処分は2013年9月から2014年8月までの1年に集中した。米国司法省とは6,820万ドルの罰金を支払う司法取引に合意し、カナダのケベック州裁判所から450万カナダドル、欧州委員会から6,240万6千ユーロ、オーストラリア連邦裁判所から300万オーストラリアドル、シンガポール競争委員会から128万6,375シンガポールドル、中国国家発展改革委員会から1億7,492万人民元の支払いを命じられている。韓国公正取引委員会は違反があったとする決定を出しながら、調査への全面的な協力を理由に是正命令・課徴金・刑事告発をいずれも免除した。

含意

国内の課徴金納付命令に対しては2013年5月に審判請求を行ったが、2017年3月に棄却する審決を受け、審決取消訴訟を提起しないことを決めて命令が確定した。米国の集団訴訟では2016年7月に間接購入者と3,450万米ドル、2017年5月にさらに326万米ドルで和解し、英国競争審判所でPeugeot S.A.ほか18社から4億3,770万ユーロ(暫定額)を請求された訴訟も2018年3月に和解している。損害賠償に備えた引当金は2024年3月期末に取り崩された。

筆者の見解

争う国と、払う国

この件で日本精工が選んだのは、国内では争い、国外では早く払うという二本立ての構えだったとみられる。国内の課徴金納付命令には審判請求で4年争い、米国司法省とは立入検査から2年足らずで罰金の司法取引に合意している。刑事罰と行政処分が別々に走る日本と、司法取引で一度に区切りをつけられる米国とでは、争う費用も時間も釣り合わない。もっとも、争った国内の命令は棄却審決で確定し、課徴金相当額は最初に計上した2013年3月期の特別損失から動かなかった。

重かったのは、しかし国内ではない。独占禁止法関連損失は3期で253億円に積み上がり、その6割強は各国の罰金と制裁金を見込んだ2014年3月期に寄っている。同じ期の当期純利益を半分以上食う額である。処分が出そろっても米国とカナダの集団訴訟は残り、損害賠償に備えた引当金が消えたのは2024年3月期末だった。カルテルの代償は命令の額ではなく、それを引きずる年数で測るべきものなのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
公正取引委員会の立入検査 2011年7月26日・27日 本社と関係営業所。ベアリング(軸受)製品の取引に関する独占禁止法違反の疑い
欧州委員会の立入検査 2011年11月8日 ドイツの販売子会社。EU競争法違反の疑い(現地時間)
米国司法省の召喚状 2011年11月9日 米国子会社が取引情報の提供を求める召喚状を受領した(現地時間)
コンプライアンス委員会の設置 2012年3月15日 社長と担当役員の直接の指揮下に置き、社外有識者をアドバイザーに招いた
東京地検特捜部と公正取引委員会の捜索 2012年4月20日 独占禁止法違反の容疑による
刑事告発と起訴 2012年6月14日 公正取引委員会が告発し、東京地方検察庁が会社と元役員・元従業員を起訴
コンプライアンス推進室の設置 2012年7月1日 法務部と連携し、グループ全体のコンプライアンス強化の推進を専任する
東京地方裁判所の判決 2013年2月 会社に罰金3億80百万円、元役員と元従業員に執行猶予付きの懲役刑
排除措置命令・課徴金納付命令 56億25百万円 2013年3月に公正取引委員会から受けた。課徴金の額
課徴金納付命令への審判請求 2013年5月 公正取引委員会に対して行った
米国司法省との司法取引 6,820万ドル 2013年9月に合意。特定の顧客への軸受販売の一部が米国独占禁止法違反にあたるとした
カナダの罰金 450万カナダドル 2014年1月にケベック州の裁判所が自動車用軸受の取引の一部について命じた
欧州委員会の制裁金 6,240万6千ユーロ 2014年3月19日。自動車用軸受の取引で欧州競争法に違反したとされた
オーストラリアの制裁金 300万オーストラリアドル 2014年5月に同国連邦裁判所が軸受の取引の一部について命じた
シンガポールの制裁金 128万6,375シンガポールドル 2014年5月に同国競争委員会が軸受の取引の一部について命じた
中国の制裁金 1億7,492万人民元 2014年8月に国家発展改革委員会が過去の軸受取引について命じた
韓国公正取引委員会の決定 是正命令・課徴金・刑事告発を免除 2014年11月。違反があったとする決定を受けたが調査へ全面的に協力した結果
審判請求の結末 2017年3月に棄却 審決取消訴訟を提起しないことを決め、課徴金納付命令が確定した
米国の集団訴訟の和解 3,450万米ドル 2016年7月22日。間接購入者のうちカーディーラーと車両の最終購入者と和解
米国の集団訴訟の追加和解 326万米ドル 2017年5月26日。商業用車両・中大型トラック等のディーラーと和解
英国の損害賠償請求訴訟 2018年3月15日に和解 Peugeot S.A.ほか18社が4億3,770万ユーロ(暫定額)を連帯して請求していた
損害賠償引当金の取崩し 2024年3月期末 損失が発生する可能性は低いと判断し、戻入益を独占禁止法関連費用に含めた
再発防止 「競争法遵守規則」の制定 NSK企業倫理規則・コーポレートガバナンス規則・コンプライアンス規則も改定した

出所:日本精工 有価証券報告書 第151期(2012年3月期)【対処すべき課題】・第152期(2013年3月期)【対処すべき課題】【偶発事象】・第153期(2014年3月期)【事業等のリスク】・第154期(2015年3月期)【事業等のリスク】・第156期(2017年3月期)【事業等のリスク】【偶発事象】・第157期(2018年3月期)【偶発事象】・第164期(2025年3月期)【その他の営業費用】

日本精工:独占禁止法関連損失とその支払額

(百万円) 独占禁止法関連損失独占禁止法関連損失の支払額当期純利益(日本基準)当期利益(IFRS) 備考
2008年3月期 42,613
2009年3月期 4,561
2010年3月期 4,765
2011年3月期 26,110
2012年3月期 28,514 2011年7月に公正取引委員会の立入検査を受けた期
2013年3月期 6,00515,739 罰金380と課徴金5,625の合計。排除措置命令と課徴金納付命令を受けた
2014年3月期 16,2696,42231,167 米国司法省と欧州委員会をはじめ各国の罰金・制裁金の支払見込み額
2015年3月期 3,02518,87861,96259,383 中国の制裁金。国際会計基準では当期利益が59,383に組み替えられた
2016年3月期 65,719 特別損失の計上も支払もなし。この期から国際会計基準で開示している
2017年3月期 45,560 集団訴訟の和解等に関連する損失はその他の営業費用に含まれる
2018年3月期 69,312
独占禁止法関連損失
独占禁止法関連損失(百万円)

出所:日本精工 有価証券報告書 第152期〜第154期(連結損益計算書、連結キャッシュ・フロー計算書) / 日本精工 有価証券報告書 第150期・第154期・第157期(主要な経営指標等の推移)

同じ問いに直面した会社

不祥事後の取締役会改革2014年日本郵船排除措置命令を争わず131億円を納め、対応の軸を海外当局へ移した選択独占禁止法違反の処分を争うか、受け入れるか
2014年商船三井立入検査より前に違反行為を止め、自ら申告する側に回って命令を免れた選択自社と子会社のカルテル関与への向き合い方
2012年沖電気工業5期分の有価証券報告書を訂正して純資産を262億円削り、当該子会社を営業休止させた処理海外連結子会社の会計不正と、過年度決算の訂正範囲の決め方
2011年オリンパス損失飛ばしの粉飾決算と、それを追及した社長の排除会計不正の隠蔽と告発者の排除
2016年富士通東京電力事案の発覚後に自ら社内調査を起こし、中部電力事案を課徴金減免申請で自主申告した独占禁止法違反の発覚と再発防止
出典・参考
  • 日本精工 有価証券報告書「第151期(2012年3月期)【対処すべき課題】」
  • 日本精工 有価証券報告書「第152期(2013年3月期)【対処すべき課題】【連結損益計算書】【偶発事象】」
  • 日本精工 有価証券報告書「第153期(2014年3月期)【事業等のリスク】【連結損益計算書】【連結キャッシュ・フロー計算書】」
  • 日本精工 有価証券報告書「第154期(2015年3月期)【事業等のリスク】【連結損益計算書】【連結キャッシュ・フロー計算書】」
  • 日本精工 有価証券報告書「第156期(2017年3月期)【事業等のリスク】【偶発事象】」
  • 日本精工 有価証券報告書「第157期(2018年3月期)【偶発事象】」
  • 日本精工 有価証券報告書「第164期(2025年3月期)【その他の営業費用】」

免責事項およびポリシー