商船三井自動車船カルテルで課徴金減免申請:立入検査より前に違反行為を止め、自ら申告する側に回って命令を免れた選択
更新:
- 概要
-
2012年9月6日、公正取引委員会が自動車・車両系機械等の貨物の輸送に関する独占禁止法違反の疑いで立入検査に入った。2014年3月18日、同委員会は特定自動車運送業務の取引に関連して複数の事業会社へ排除措置命令と課徴金納付命令を発表している。商船三井は立入検査より前に違反のある行為を取り止めていたことと、同委員会に対し課徴金減免制度の適用を申請してこれが認められたことにより、いずれの命令も受けていない。
連結子会社の日産専用船も同じ制度の適用を申請したが、認められたのは課徴金の減額にとどまり、排除措置命令と課徴金納付命令の両方を受けた。
- 背景
-
立入検査を受けた2013年3月期、商船三井は経常損益286億円の赤字、最終損益1,788億円の赤字に沈んでいた。リーマンショック以降の市況悪化期に過大な市況エクスポージャーを持ってしまったことと、自動車輸送に関連する独占禁止法違反行為が存在したことの二つが、経営基盤の再強化を要する喫緊の課題に並んで掲げられている。
自動車船部門は、自動車メーカーの地産地消方針と出荷拠点の分散化により日本出し完成車輸送が減少傾向にあった。2009年9月に子会社化した日産専用船は、この部門を担う完成車輸送の船社である。
- 内容
-
選んだのは、自ら公正取引委員会へ申告する側に回ることだった。立入検査より前に違反のある行為を取り止め、課徴金減免制度の適用を申請してこれが認められた結果、2014年3月18日の発表で排除措置命令も課徴金納付命令も受けていない。ただし同委員会は商船三井についても独占禁止法に違反する行為があった旨に言及しており、2014年に独占禁止法第3条に違反する行為があったと認定されている。
日産専用船が受けたのは課徴金の減額までで、排除措置命令と課徴金納付命令は免れなかった。課徴金の額は会社の公表資料に記載がない。
- 含意
-
本件はまだ終わっていない。2012年以降、米国等海外の当局による調査の対象であり続け、損害賠償と対象行為の差止めを求める集団訴訟は米国等からカナダ・英国・チリへと場所を変えながら続いている。これらの調査・訴訟による金額的な影響は合理的に予測することが困難で、業績に与える影響は不明のままである。
対応は体制に出た。2015年2月18日の取締役会で内部統制システム構築の基本方針を改定し、チーフコンプライアンスオフィサーを委員長とするコンプライアンス委員会に改めたうえ、役職員の行動基準に各国競争法の遵守を明記している。
申告する側に回るということ
この判断の芯は、違反をどう弁明するかではなく、誰よりも先に申告する側へ回るかどうかにあった。立入検査より前に違反のある行為を取り止め、課徴金減免制度の適用を申請するという手順を踏んだ結果、商船三井は排除措置命令も課徴金納付命令も受けていない。違反があったと認定されながら命令を免れるという結末は、制度が設計どおりに働いた証しであると同時に、同じ事件で連結子会社の日産専用船が減額どまりで両命令を受けたという事実と並べたとき、申告の早さそのものが処分の重さを決めたことを示している。
もっとも、免れたのは日本の命令だけである。2012年以降の海外当局の調査は十年を超えて続き、集団訴訟の係属先は米国等からカナダ・英国、そしてチリへと移りながら、2026年3月期の時点でもなお決着していない。金額的な影響は合理的に予測することが困難とされ、業績に与える影響は不明のままである。国内で先に手を挙げたことが海外での負担をどれだけ軽くしたのかは、開示された数字からは読み取れないままだといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 立入検査 | 2012年9月6日 | 自動車・車両系機械等の貨物の輸送に関する独占禁止法違反の疑いによる |
| 検査を行った当局 | 公正取引委員会 | 対象となった取引は特定自動車運送業務 |
| 違反行為の取り止め | 立入検査より前 | 命令を受けなかった理由として会社が挙げた二点のうちの一つ |
| 課徴金減免制度の適用申請(当社) | 申請し、認められた | 申請の時期は会社の公表資料に記載がない |
| 命令の発表 | 2014年3月18日 | 特定自動車運送業務の取引に関連して複数の事業会社へ発せられた |
| 当社が受けた命令 | なし | 排除措置命令・課徴金納付命令のいずれも受けていない |
| 当社への言及 | 独占禁止法に違反する行為があった旨 | 2014年に独占禁止法第3条に違反する行為があったと認定された |
| 日産専用船の申請 | 申請し、課徴金の減額を認められた | 2009年9月に子会社化した連結子会社。減額にとどまった |
| 日産専用船が受けた命令 | 排除措置命令及び課徴金納付命令 | 課徴金の額は会社の公表資料に記載がない |
| 海外当局の調査 | 2012年以降、継続 | 完成自動車車両の海上輸送に関する各国競争法違反の疑い。米国等海外の当局 |
| 海外の制裁金 | 会社の公表資料に記載がない | 罰金・制裁金の額も引当金の計上額も開示されていない |
| 集団訴訟 | 米国等→カナダ・英国→チリ | 損害賠償及び対象行為の差止め等を求めるもの。2026年3月期はチリで係属 |
| 金額的な影響 | 業績に与える影響は不明 | 調査・訴訟による金額的な影響は合理的に予測することが困難とする |
| 内部統制の基本方針の改定 | 2015年2月18日 | 取締役会決議。CCOを委員長とするコンプライアンス委員会に改めた |
| 行動基準の追加 | 各国競争法の遵守 | コンプライアンス規程第5条の行動基準に明記し、研修・e-ラーニングで徹底 |
| 独禁法遵守の取り組み | 独禁法遵守行動指針 | 「DO!s&DON'T!sガイド」等を作成。コンプライアンス委員会は3カ月ごと |
出所:商船三井 有価証券報告書(2013年3月期・2014年3月期・2015年3月期・2026年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【連結財務諸表 その他】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
商船三井:連結業績と特別損失の推移
| (百万円) | 売上高 | 経常損益 | 特別損失 | 親会社株主に帰属する当期純損益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2009年3月期 | 1,865,802 | 204,510 | 27,050 | 126,987 | |
| 2010年3月期 | 1,347,964 | 24,234 | 24,017 | 12,722 | |
| 2011年3月期 | 1,543,660 | 121,621 | 37,415 | 58,277 | |
| 2012年3月期 | 1,435,220 | △24,320 | 23,218 | △26,009 | |
| 2013年3月期 | 1,509,194 | △28,568 | 125,434 | △178,846 | 立入検査を受けた期。特別損失の大半はバラ積み船の評価減による |
| 2014年3月期 | 1,729,452 | 54,985 | 19,325 | 57,393 | 命令の発表があった期。本件に係る損失は区分掲記されていない |
| 2015年3月期 | 1,817,069 | 51,330 | 19,150 | 42,356 | |
| 2016年3月期 | 1,712,222 | 36,267 | 220,665 | △170,447 | 特別損失はドライバルク船の構造改革によるもの |
| 2017年3月期 | 1,504,373 | 25,426 | 37,328 | 5,257 | |
| 2018年3月期 | 1,652,393 | 31,473 | 81,748 | △47,380 | |
| 2019年3月期 | 1,234,077 | 38,574 | 6,214 | 26,875 | コンテナ船事業の統合で売上高の計上区分が変わり、前期からは連続しない |
出所:商船三井 有価証券報告書(2009年3月期〜2019年3月期・連結損益計算書)
同じ問いに直面した会社
- 商船三井 有価証券報告書「2013年3月期【対処すべき課題】」
- 商船三井 有価証券報告書「2014年3月期【対処すべき課題】」
- 商船三井 有価証券報告書「2014年3月期【連結財務諸表 その他】」
- 商船三井 有価証券報告書「2015年3月期【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
- 商船三井 有価証券報告書「2022年3月期【事業等のリスク】」
- 商船三井 有価証券報告書「2026年3月期【連結財務諸表 その他】」