監査等委員会設置会社への移行(2023年・日本郵船の決断)

論点取締役会に何を残し、何を執行へ委ねるか
日本郵船:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
業務執行の決定の執行への委任と社外比率の半数への引き上げ2023年6月21日の第136期定時株主総会において、監査等委員会設置会社への移行を内容とする定款の変更が決議され、同日をもって監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。

何をなぜ決めたか:業務執行の決定の執行への委任と社外比率の半数への引き上げ

概要

2023年6月21日の第136期定時株主総会において、監査等委員会設置会社への移行を内容とする定款の変更が決議され、同日をもって監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。

掲げた狙いは二つある。重要な業務執行の決定権限を業務執行取締役へ委任することによる意思決定の迅速化と、取締役会における議決権等を持つ監査等委員である取締役で監査等委員会を構成することによるモニタリング機能の強化である。取締役会は中長期経営戦略、経営資源の配分、事業ポートフォリオ、サステナビリティ、重大リスクへの対処を重点的に審議する。

背景

移行前は監査役会設置会社を選択していた。事業が高度に専門的であることから会社業務に精通した社内取締役を主体とする経営が事業運営に最適であり、また監督機能の充実には重要な業務執行の決定も必要である、という考えに沿った体制である。

その体制のもと、取締役会は2018年3月期の9名から翌期以降は8名で推移し、社外取締役は3名にとどまっていた。監査役会は社外監査役2名を含む4名で、取締役会に議決権を持たない監査役が監査を担っていた。

内容

取締役会は12名となり、うち6名を独立性基準に則った社外取締役とした。事業に精通する社内取締役と、企業経営に資する高い専門的知見を有する独立社外取締役を半数ずつ置くのが適当である、という構成の考えによる。監査等委員会は取締役5名で構成し、過半数の3名が社外取締役、うち2名が常勤である。

定款の員数枠は、取締役12名以内から、取締役(監査等委員である取締役を除く)9名以内と監査等委員である取締役7名以内の二本立てに改めた。監査等委員会の職務を補助する監査等委員会室を設置し、専任の使用人を置いている。

含意

報酬の枠も同時に組み替えた。移行前の取締役の基本報酬額は2005年6月の総会決議による月額総額69百万円以内、監査役の報酬額は1994年6月の決議による月額総額9百万円以内で、いずれも長く据え置かれていた。移行に伴い、取締役(監査等委員である取締役を除く)の基本報酬額は年額510百万円以内、うち社外取締役は年額150百万円以内、監査等委員である取締役は年額220百万円以内と決議し直している。

取締役会の決定権限の一部を業務執行取締役へ委任する運用は、2024年3月期に実現したものとして記載されている。

いつ何が起きたか5件
当時の取締役12名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

考察:取締役会に何を残すか
考察

考察:取締役会に何を残すか

この移行の芯は、監査の機関設計を替えたことよりも、取締役会が扱う議題を絞り込んだことにあるだろう。監査役会設置会社を選んでいた理由として挙げていたのは、監督機能の充実には重要な業務執行の決定も必要だという考えであった。移行はその前提を裏返し、重要な業務執行の決定を執行側へ委ねたうえで、取締役会には中長期経営戦略と経営資源の配分、事業ポートフォリオ、サステナビリティ、重大リスクへの対処を残した。監査等委員が取締役会で議決権を持つことは、その絞り込みを支える仕掛けでもある。

もっとも、社外取締役を3名から6名へ倍にして半数構成としたことの重みは、機関設計の変更に劣らない。海運は市況の振れが極端に大きく、2023年3月期の経常利益1兆1,097億円という数字も、コンテナ船事業の合弁を通じた持分法の利益が押し上げたものである。好況の只中で監督の側を厚くした判断が実を結ぶかどうかは、市況が反転したときの資源配分の議論にこそ表れるとみられる。

数字で見る2表

数字で見る

図と表

日本郵船:取締役会と監査機関の員数

日本郵船:取締役会と監査機関の員数
(名)取締役(監査等委員を除く)監査等委員である取締役監査役社外役員備考
2018年3月期9−45社外取締役3名と社外監査役2名。取締役会は9名で構成されていた
2019年3月期8−45
2020年3月期8−45
2021年3月期8−45
2022年3月期8−45移行直前の体制。取締役8名に対し社外取締役は3名
2023年3月期75062023年6月21日の移行後の体制。期末時点では取締役8名・監査役4名であった
2024年3月期7506取締役12名のうち半数の6名が独立社外取締役
2025年3月期7506
2026年3月期7506
出所:日本郵船 有価証券報告書 第131〜139期【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】 / 日本郵船 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月21日〜2026年6月1日)
出所:日本郵船 有価証券報告書 第131〜139期【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】 / 日本郵船 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月21日〜2026年6月1日)

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
移行の決議2023年6月21日第136期定時株主総会で、監査等委員会設置会社への移行を内容とする定款の変更を決議
移行の狙い(執行)重要な業務執行の決定権限の委任業務執行取締役へ委任することで意思決定を迅速化する
移行の狙い(監督)モニタリング機能の強化取締役会における議決権等を持つ監査等委員である取締役で監査等委員会を構成する
取締役会が重点的に審議する事項中長期経営戦略ほか4分野経営資源の配分、事業ポートフォリオ、サステナビリティ、重大リスクへの対処
移行前に選択していた体制監査役会設置会社事業が高度に専門的で、社内取締役を主体とする経営が事業運営に最適との判断による
取締役会の構成12名(うち社外6名)事業に精通する社内取締役と独立社外取締役を半数ずつ置くのが適当との考えによる
監査等委員会の構成取締役5名(うち社外3名)常勤2名を置き、員数を欠く場合に備え補欠の監査等委員である取締役1名を選任
定款の員数枠9名以内と7名以内の二本立て取締役(監査等委員を除く)9名以内、監査等委員である取締役7名以内。移行前は12名以内
取締役の選任決議の要件監査等委員とそれ以外を区別議決権の3分の1以上を持つ株主が出席した総会を要し、出席株主の議決権の過半数で決議する
取締役の基本報酬枠年額510百万円以内うち社外取締役は年額150百万円以内。移行前は取締役が月額総額69百万円以内
監査等委員の報酬枠年額220百万円以内移行前の監査役の報酬額は1994年6月の総会決議による月額総額9百万円以内
監査等委員会室の設置専任の使用人を配置人事異動・評価等は監査等委員の意見を最大限尊重し、執行部門からの独立性を確保
出所:日本郵船 有価証券報告書 第136期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【監査の状況】【役員の報酬等】・第137期(2024年3月期)【対処すべき課題】・コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2023年6月15日)
当時の取締役12名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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