日本郵船・商船三井・川崎汽船によるコンテナ船事業統合とONE発足

2017年成立

なぜ宿命のライバル邦船3社は、中核のコンテナ船事業“だけ”を切り出して1社に束ねたのか?

更新:

時期 2016年10月
概要
2016年10月、日本郵船・商船三井・川崎汽船の邦船3社が、各社の定期コンテナ船事業のみを切り出して統合すると発表。2017年7月に共同出資の新会社オーシャン ネットワーク エクスプレス(ONE)を設立し、2018年4月にサービスを開始した。
背景
海運市況の長期低迷に韓進海運の破綻が重なり、コンテナ船は世界的に再編が加速。マースクや中国系の大型化・買収が進むなか、邦船3社は単独では規模競争に耐えられない局面に置かれていた。
内容
会社全体を合併するのではなく、コンテナ船事業(海外ターミナル含む)だけを統合。出資比率は日本郵船38%、商船三井・川崎汽船が各31%で、不定期船など他事業は各社に残す異形のスキームとなった。
含意
立ち上げ直後は混乱で初年度赤字に沈んだが、コロナ禍の運賃高騰でONEは巨額の利益を稼ぎ、親会社3社の業績を一変させた。中核事業のみを括り出す部分統合が、規模と各社の独自性を両立させた事例とみられる。
筆者の見解

部分統合という解

この案件が示すのは、会社全体を一つにする合併だけが業界再編の答えではない、という視点であろう。市況の振れが大きく規模がものをいうコンテナ船だけを切り出して共同の器に移し、各社が独自性を保つ事業は手元に残す——この部分統合の設計は、宿命のライバルだった3社が合意に至る現実的な落としどころだったとみられる。全社合併であれば社名や雇用、ガバナンスをめぐる調整が重くのしかかったはずだが、対象を絞ったことで合意のハードルは下がった面がある。

他方で、立ち上げ直後の混乱が示すように、異なる企業文化とシステムを持つ3社の事業を一夜にして束ねる作業には相応の困難が伴った。その後の巨額の利益は統合の巧拙そのものというより、コロナ禍という外部要因に多くを負った面も否めず、市況が反転すれば収益が大きく振れるコンテナ船の本質は変わっていない。中核事業を切り出して規模を得つつ、各社が次の収益源をどう描くかという問いは、統合の成功とは別に残されているとみることもできる。

Yutaka Sugiura

統合の背景

マクロ環境——海運不況と韓進海運の破綻

2010年代半ばの定期コンテナ船事業は、構造的な供給過剰と運賃低迷のなかにあった。リーマン・ショック後の物量回復が緩やかにとどまる一方、各社が競って大型船を投入したため船腹は膨らみ続け、運賃は採算を割る水準に沈んだ。2016年8月には、韓国最大の海運会社であった韓進海運が経営破綻し[1]、東西基幹航路のアライアンス加盟船社の破綻という史上初の事態が起きた。世界各地の港で同社の船が足止めとなり、コンテナ物流の混乱が広がったことは、不況がもはや一過性ではないことを業界に印象づけたとみられる。生き残りには規模の確保が不可欠だという認識が、各国の有力船社に共有されていった。

再編は世界規模で連鎖していた。首位のA.P.モラー・マースク(デンマーク)はドイツのハンブルク・スードの買収に動き、フランスのCMA-CGMはシンガポールのNOLを傘下に収め、中国では国有2社が合併して中国遠洋海運(COSCO)が誕生していた。基幹航路の運航を共同で担うアライアンスも、2017年4月からは2M・オーシャンアライアンス・ザ アライアンスの3グループ体制へ集約されていく。シェア10%以上を握る巨大勢力が複数並び立つなかで[2]、単独では世界10位前後にとどまる邦船3社は、規模の劣後を意識せざるをえない立場に置かれていた。

ミクロ環境——邦船3社のコンテナ船依存度

国土交通省がまとめた資料によれば、2016年3月期において、コンテナ船事業が売上高に占める割合は日本郵船で約44%、商船三井で約46%、川崎汽船で約52%にのぼっていた[3]。3社のコンテナ船事業の売上高を単純合算すると約2兆円規模となり、それぞれが本業の一角として無視できない比重を抱えていたことがわかる。とりわけ最も規模の小さい川崎汽船は依存度が最も高く、市況低迷の直撃を受けやすい構造にあった。市況が好転しないまま各社が単独で抱え続けるには重すぎる事業であった点が、3社を統合へ向かわせた基底にあったとみられる。

統合の発端

公表経緯——中核事業だけを切り出す異形のスキーム

2016年10月31日、日本郵船・商船三井・川崎汽船の3社は、関係当局の許認可を前提に、定期コンテナ船事業を統合する合弁会社を設立すると発表した[4]。注目されたのは、会社丸ごとの合併ではなく、各社の定期コンテナ船事業(海外ターミナル事業を含む)のみを切り出して1社に束ねるという仕立てであった。新会社の出資額は約3000億円、出資比率は日本郵船が38%、商船三井と川崎汽船が各31%とされた[5]。統合後の運航規模は約140万TEU、グローバルシェアは約7%で世界6位に相当する陣容になると説明された[6]。不定期船やLNG船といった他事業は各社に残し、最も市況の振れの大きいコンテナ船だけを統合する設計であった。

この異形のスキームには、宿命のライバル同士であった3社の事情が反映されていたとみられる。コンテナ船は規模がものをいう装置産業であり、統合による効率化の余地が大きい。一方で、不定期船やエネルギー輸送など各社が独自に強みを持つ事業まで一つにする必要はなく、むしろ各社の独立性を残すことが合意のハードルを下げた面もあったとみられる。市況の振れが最も大きく、単独では重荷となっていたコンテナ船だけを共同の器に移し、他事業は各社が握り続ける[7]——規模の追求と各社の自律性の両立を狙った設計だったと読める。

日本郵船

日本郵船の視点——「親会社をしのぐ存在に」

筆頭株主となった日本郵船は、新会社に最も大きな期待を寄せていた。2017年7月のONE発足にあたり、同社の内藤忠顕社長は新会社が「将来は親会社をしのぐようになってほしい」との趣旨を語ったと報じられている[8]。出資比率38%という数字は、運航規模や収益力など複数の要素を勘案して3社間の協議で決められたとされ、3社のなかで日本郵船が最大の存在感を持つことを反映していた。最も規模の大きい日本郵船にとって、コンテナ船という重い事業を切り離しつつ、その帰趨に最大の持分で関与し続ける構図であった。

統合の経過

設立——各国の競争当局審査と数日の遅れ

統合の実行には、世界各国の競争当局による承認が前提となった。2017年7月、3社は持株会社オーシャン ネットワーク エクスプレス ホールディングス(東京)と、事業運営会社Ocean Network Express Pte. Ltd.(シンガポール)を設立する。もっとも、当初予定していた7月1日の設立は、南アフリカの競争当局が統合に難色を示したことを受けて数日後ろ倒しとなった[9]。3社は「南ア以外の独禁法関係の手続きは順調に進んでいる」とし、設立の遅れがサービス開始に影響することはないと説明した。発足時の事業会社CEOには、邦船出身ではない英国人のジェレミー・ニクソン氏が起用され[10]、純粋持株会社の下に運航を集約する体制が組まれた。

立ち上げ——サービス開始直後の混乱と初年度赤字

2018年4月、ONEは世界各国で同時にサービスを開始した。だが立ち上げは順調とはいかなかった。出航直後にはシステムやオペレーションの混乱が生じ、荷主からのブッキング(予約)が想定を下回り、積み荷が計画に届かない事態となった[11]。コンテナの積載効率を示す消席率は北米往航・欧州往航ともに軟調で、73%程度にとどまったと報じられている。運賃収入の落ち込みに燃料価格の高騰が重なり、ONEは初年度から損失を出す。2018年10月時点では、2019年3月期に6億ドル規模の赤字が見込まれると伝えられ[12]、出資する3社の業績にも下振れが波及した。

統合の帰結

コロナ禍の運賃高騰とONEの巨額利益

逆風の初年度を越えると、ONEの収益は劇的に転じた。立ち上げ翌期に黒字へ転換したのち、2020年以降は新型コロナウイルス禍による物流停滞でコンテナ船の運賃が世界的に高騰し[14]、ONEは空前の利益を稼ぎ出すようになる。2023年3月期の税引き利益は前の期比10%減ながら149億ドルにのぼり、運賃が高騰する前の2021年3月期の4.3倍に達したと報じられている[13]。統合によって規模と効率を確保した新会社が、巣ごもり需要に伴う運賃急騰の波をとらえた格好であった。発足時に「親会社をしのぐ」と語られた期待は、業績の面では現実のものとなったとみることができる。

親会社3社への還元——配当収入2770億円

ONEの利益は、持分法を通じて出資する3社の連結業績を大きく押し上げた。コンテナ船を切り離したはずの3社が、その切り離した会社の好業績で過去最高益を更新するという逆説的な状況が生じる。2023年3月期には、3社合計でONEから約19億8700万ドル、日本円にしておよそ2770億円の配当を受け取った[15]と報じられた。内訳は日本郵船が7億5500万ドル、商船三井と川崎汽船が各6億1600万ドルとされ[16]、出資比率に対応する形であった。とりわけ3社で最も規模の小さい川崎汽船にとっては、コンテナ船依存度の高さがONEの利益として跳ね返り、経営を支える柱になったとみられる。

出典・参考

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