横浜ゴム監査等委員会設置会社への移行:監査を担う者を議決権のある取締役として取締役会に迎えた機関設計の転換

更新:

時期 2023年3月
当時の社長 山石昌孝
論点 取締役会の監督機能と意思決定の速さ
概要

2023年3月30日の第147回定時株主総会における定款の変更決議により、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。取締役の職務執行の監査等を担う監査等委員を取締役会における議決権を持つ構成員とすることで、取締役会の監督機能を強化し、更なる監視体制の強化を図ることが移行の理由である。

移行の直後、取締役会は監査等委員である取締役5名を含む16名となり、うち8名が社外取締役、7名が独立社外取締役となった。本店も同じ3月30日に東京都港区新橋から神奈川県平塚市へ移している。

背景

移行前の取締役会は取締役11名(うち社外取締役5名)で、監査役5名(うち社外監査役3名)が議決権を持たないまま監査にあたる体制だった。定款が定める取締役の員数は15名以内である。

2022年度の経営課題では、コーポレートガバナンスの強化の取り組みとして、取締役会の監督機能の強化と経営の意思決定の迅速化のため監査等委員会設置会社へ移行すると掲げていた。役員の人事と処遇の透明性を確保する役員人事・報酬委員会は移行前から置かれており、2022年度は6回開催されている。

内容

定款の員数枠は、取締役(監査等委員である取締役を除く)15名以内と、監査等委員である取締役5名以内の二枠に組み替えられた。報酬も二つに分けられ、監査等委員を除く取締役の報酬限度額は年額570百万円以内、監査等委員である取締役は年額100百万円以内と第147回定時株主総会で定められている。中長期の業績連動報酬である譲渡制限付株式報酬は限度額とは別枠の年額300百万円以内で、移行に伴い同一の内容を決議し直した。

監査等委員会は5名のうち3名を社外取締役とし、常勤の監査等委員を選定したうえで監査等委員会事務局に従業員を配置している。

含意

役員人事・報酬委員会の運営も移行に合わせて変わった。株主総会に上程する取締役候補者について、監査等委員である取締役は監査等委員会の同意を、それ以外の取締役は監査等委員会の意見を得たうえで、取締役会が決定する。執行役員制度により、取締役会規則に定める決議事項以外の権限は経営会議等の下位の会議体と担当役員へ委譲されている。

移行後の取締役会は2023年度に14回、2024年度に15回開かれた。員数は2023年末の15名から2025年には12名へ絞られ、監査等委員である取締役の報酬限度額は2024年3月28日の第148回定時株主総会で年額130百万円以内へ改められている。

筆者の見解

監督の席を取締役会の内側へ

この移行で入れ替わったのは監査の担い手ではなく、監査の席が置かれた場所である。監査役は取締役会に出席しても議決権を持たない。監査等委員となれば取締役として議案に賛否を投じ、監査等委員でない取締役の選解任と報酬について株主総会で意見を述べる権限まで併せ持つ。掲げられた「取締役会の監督機能の強化」は、監督する者を監督される側の会議体へ入れるという、一見ねじれた設計によって果たされた。定款の員数枠を15名以内から取締役15名・監査等委員5名の二枠へ組み替えたのは、その席を制度として確保する手当てだったとみられる。

もっとも、機関設計を替えたことがそのまま取締役会の実効性を高めるとは限らない。移行直後の16名という規模は定款の上限である20名に迫るもので、議論の密度という点では重い。事実その後の取締役会は15名、12名と絞られ、監査等委員である取締役も5名から3名へ減っている。監督の器を広げてから中身を削っていく過程は、機関設計の選択が到達点ではなく、取締役会を誰でどう構成するかという問いの入口にすぎなかったことを示しているのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
移行の決議 2023年3月30日 第147回定時株主総会の定款変更決議により監査役会設置会社から移行した
移行の理由 取締役会の監督機能の強化 監査等委員を取締役会における議決権を持つ構成員とし、監視体制を強化する
取締役の定数(定款) 取締役15名以内・監査等委員5名以内 移行前は取締役15名以内。監査等委員である取締役を別の枠として設けた
移行直後の取締役会 16名(うち社外取締役8名) 移行前は取締役11名(うち社外5名)と、議決権を持たない監査役5名
監査等委員会の構成 5名(うち社外取締役3名) 常勤の監査等委員を選定し、監査等委員会事務局に従業員を配置している
取締役の報酬限度額 年額570百万円以内 監査等委員である取締役を除く。第147回定時株主総会で定められた
譲渡制限付株式報酬 年額300百万円以内 報酬限度額とは別枠。移行に伴い2018年と同一の内容を決議し直した
監査等委員の報酬限度額 年額100百万円以内 2024年3月28日の第148回定時株主総会で年額130百万円以内へ改めた
業務執行の委任 執行役員制度 取締役会規則の決議事項以外は経営会議等の会議体と担当役員へ委譲する
指名と報酬の審議 役員人事・報酬委員会 監査等委員候補は監査等委員会の同意、それ以外は同委員会の意見を得る

出所:横浜ゴム 有価証券報告書 第147期(2022年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第148期(2023年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】

横浜ゴム:取締役会と監査機関の員数

(人) 取締役社外取締役監査役・監査等委員うち社外 備考
2018年12月期 9453 各期の値は有価証券報告書の提出日現在。監査役は取締役会の議決権を持たない
2019年12月期 11553
2020年12月期 11553
2021年12月期 11553
2022年12月期 16853 2023年3月30日に移行した後の体制。監査等委員5名は取締役16名の内数
2023年12月期 15753
2024年12月期 12653
2025年12月期 12632 監査等委員である取締役が3名となり、うち社外取締役は2名
2026年12月期 第151期は未到来
2027年12月期
2028年12月期
取締役会の員数
社内取締役(人)社外取締役(人)

出所:横浜ゴム 有価証券報告書 第143〜150期(役員の状況・コーポレート・ガバナンスの状況等)

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出典・参考

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