株主提案による取締役刷新の否決(2020年・積水ハウスの決断)

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論点前会長の取締役刷新案に応じるか
積水ハウス:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
地面師事件の責任を問う前会長の提案と総会での決着2020年4月23日の第69回定時株主総会に、第8号議案「取締役11名選任の件」が株主提案として上程された。提案したのは勝呂文康氏と、2018年2月に退いた前会長の和田勇氏で、提案株主の有する議決権の数は2,162個である。会社提案の取締役選任議案とは別議案として、独立社外取締役候補7名と現任の取締役4名を一括して選任するよう求めた。

何をなぜ決めたか:地面師事件の責任を問う前会長の提案と総会での決着

概要

2020年4月23日の第69回定時株主総会に、第8号議案「取締役11名選任の件」が株主提案として上程された。提案したのは勝呂文康氏と、2018年2月に退いた前会長の和田勇氏で、提案株主の有する議決権の数は2,162個である。会社提案の取締役選任議案とは別議案として、独立社外取締役候補7名と現任の取締役4名を一括して選任するよう求めた。

取締役会は反対の意見を表明し、議案は否決された。会社提案の第1号から第7号までの7議案はいずれも原案どおり承認可決され、取締役12名が選任されている。

背景

提案の理由は3点に分かれる。第一に、2017年の地面師事件を「単なる詐欺被害事件ではなく不正取引」と位置づけ、リスク情報を無視して決済を強行した現経営陣は上場会社の経営者としての資質を有しないとした。第二に、社外役員で構成された調査対策委員会の調査報告書が阿部俊則氏に「経営上、重い責任がある」としたにもかかわらず、株主代表訴訟で報告書の開示に抵抗し事実解明を拒んでいるとした。

第三に、人事・報酬諮問委員会が阿部俊則氏を代表取締役および社長から解職すべきと判断したのに無視され、社内に「ものが言えぬ状況」が生じているとした。提案株主は第三者委員会による徹底解明を掲げている。

内容

取締役会は反対し、委員の半数以上を独立社外取締役または独立社外監査役とする人事・報酬諮問委員会の審議でも、全会一致で11名の候補者全員に反対の意見が表明された。反対理由の中核は、会社提案の取締役候補者12名の選任こそが企業価値と株主共同の利益の向上にとって最良の選択肢だという判断で、第4次中期経営計画の最終年度である2020年1月期に売上高2兆4,151億86百万円、営業利益2,052億56百万円の過去最高業績を達成したことを挙げた。

候補者の構成についても、社外取締役候補7名に住宅・不動産ビジネスの知識・経験がうかがわれる者が一人も含まれていないと指摘している。

含意

否決により、阿部俊則会長と仲井嘉浩社長の体制は続き、総会後の取締役会で代表取締役4名がそれぞれ再選された。同じ総会では会社提案の定款変更が可決され、取締役の任期は選任後2年以内から1年以内へ短縮され、取締役会の決議で相談役を置ける規定は削除された。

提案株主が求めた事実解明そのものは、形を変えて進む。2020年9月に取締役会が総括検証を決め、外部の専門家に委嘱した総括検証委員会が同年12月7日に総括検証報告書を提出し、同日公表された。

いつ何が起きたか6件
当時の取締役12名

当時の取締役(2020年4月株主総会決議)

考察:前会長が問うたもの
考察

考察:前会長が問うたもの

この株主提案が問うたのは、取締役の顔ぶれというより、事実をどこまで開示するかという一点であったと推察される。提案株主が掲げた三つの理由は、事件そのものの是非ではなく、調査報告書の扱いと人事・報酬諮問委員会の答申の扱いに集中している。求めたのは第三者委員会による解明であり、そのために取締役会の全員を入れ替えるという要求であった。議決権2,162個の提案株主が、11名の候補者を立てて総会に臨んだこと自体が、社内の手続では届かなくなったことの表れだったのだろう。

もっとも、株主が選んだのは会社提案のほうであった。取締役会が反対の根拠に据えたのは、売上高2兆4,151億86百万円という過去最高の業績と、2018年から積み上げたガバナンス改革の項目である。結果としては、提案が求めた事実の解明も別の経路で進む。同じ総会で取締役の任期は1年へ短縮され、相談役の規定は消え、同年12月には総括検証報告書が公表された。外からの要求は退けられたが、その中身の一部は会社の手で実現していったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
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図と表

積水ハウス:業績と1株当たり配当額の推移

売上高(百万円)1株当たり配当額(円)
積水ハウス:業績と1株当たり配当額の推移
(百万円)売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益1株当たり配当額(円)備考
2015年1月期1,912,721146,59590,22450
2016年1月期1,858,879149,64584,30254
2017年1月期2,026,931184,164121,85364
2018年1月期2,159,363195,540133,22477分譲マンション用地の取引事故により貸倒損失5,559百万円を特別損失に計上した期
2019年1月期2,160,316189,223128,58279
2020年1月期2,415,186205,256141,25681第4次中期経営計画の最終年度。取締役会は反対の理由にこの過去最高業績を挙げた
2021年1月期2,446,904186,519123,54284賃貸等不動産の減損損失12,811百万円を計上した前期に続き、増配を続けた
2022年1月期2,589,579230,160153,90590
2023年1月期2,928,835261,489184,520110
2024年1月期3,107,242270,956202,325123
2025年1月期4,058,583331,366217,705135
出所:積水ハウス 有価証券報告書 第64〜74期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)
出所:積水ハウス 有価証券報告書 第64〜74期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)

株主提案の条件

株主提案の条件
科目概要備考
提案株主勝呂文康氏と和田勇氏和田勇氏は2018年2月に代表取締役会長を退き、同年4月に取締役相談役を退任した
提案株主の有する議決権2,162個発行済株式の総数は690,683,466株(2020年1月31日現在)
対象の総会第69回定時株主総会2020年4月23日開催。第69期は2019年2月1日から2020年1月31日まで
株主提案の議案第8号議案 取締役11名選任の件会社提案とは別議案として11名を一括して選任するよう求めた
候補者の構成独立社外取締役候補7名と現任の取締役4名社外候補には米国の投資会社経営者、弁護士、大学名誉教授などが挙がった
会社と重なる議案第3号議案 取締役12名選任の件うち4名が独立社外取締役候補。9名が再選、3名が新任
提案の理由(不正取引)地面師事件は不正取引であるリスク情報を無視し決済を強行しており、経営者としての資質を有しないとした
提案の理由(情報の隠蔽)調査報告書の開示への抵抗株主代表訴訟で開示に抵抗し、事実解明を拒み続けているとした
提案の理由(ガバナンス不全)人事・報酬諮問委員会の判断の無視阿部俊則氏を代表取締役および社長から解職すべきとの判断が無視されたとした
取締役会の意見反対人事・報酬諮問委員会の審議でも全会一致で11名の候補者全員に反対の意見が出た
反対の理由(業績)会社提案が最良の選択肢である2020年1月期は売上高2兆4,151億86百万円、営業利益2,052億56百万円の過去最高業績
反対の理由(候補者)適切な構成となっていない社外取締役候補に住宅・不動産ビジネスの知識・経験がうかがわれる者がいない
議決の結果否決会社提案の第1号から第7号までの7議案はいずれも原案どおり承認可決された
同じ総会の定款変更取締役の任期を2年以内から1年以内へ第2号議案。取締役会の決議により相談役を置ける規定も削除された
出所:積水ハウス 第69回定時株主総会 招集ご通知(2020年4月)【株主提案(第8号議案)】【本株主提案に対する当社取締役会の意見】・決議ご通知(2020年4月23日)
出所:積水ハウス 第69回定時株主総会 招集ご通知(2020年4月)【株主提案(第8号議案)】【本株主提案に対する当社取締役会の意見】・決議ご通知(2020年4月23日)
当時の取締役12名

当時の取締役(2020年4月株主総会決議)

参考文献

次に読む決断

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