この制度が何であるかは、会社が書き替えた条文の場所に出ている。直したのは内部統制システムの基本方針のうち、取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制を定めた条であった。人材の育成や処遇を述べた箇所ではない。一人ひとりの収支を見えるようにすることは、取締役が経営方針と経営計画を最良の方法で実践するための仕組みとして位置づけられている。ただし社員の側から見れば、変わったのは仕事の来かたのほうである。割り当てられるものだった仕事が、値の付いた案件のなかから選ぶものになった。
もっとも、この仕組みが業績を作ったとまでは言いにくい。2011年3月期から2016年3月期にかけて売上高は1,278億円まで伸びたが、この間の半導体需要そのものの拡大に負うところが大きく、2013年3月期の経常利益は116億円と個人Will会計を始めた期を下回っている。効き目が見えるのはむしろ人で、リーマン・ショック下でも減らさなかった人員はその後も増加し続けた。個人Will会計が支えたのは利益の額というより、市況が振れても社員が自分の持ち場の収支を見続ける習慣だと思われる。制度の派手さと、効いている場所は必ずしも一致しない。