ゼンショーホールディングス すき家ワンオペ問題 過重労働の露呈と第三者委員会の設置による労務体制の見直し

更新:

時期 2014年10月
当時の社長 小川賢太郎
論点 労務・レピュテーションと是正の統治
何をなぜ決めたか
概要

2014年春、牛丼チェーン「すき家」の店舗で従業員の負担増が深刻化し、ゼンショーホールディングスは店舗の労働環境改善を経営の最重要課題に設定した。4月に地域分社化と第三者委員会の設置を決め、委員長の久保利英明弁護士に委員の選定まで一任。7月末の提言に沿って深夜帯の一人勤務体制を廃止し、10月1日から複数勤務体制の整わない1,167店で深夜営業を一時休止した。

背景

2014年2月から3月にかけて、流通産業全体に及ぶ人手不足と、仕込みに手間のかかる新商品の導入が重なり、従業員の負担増が深刻化した。3月の公募増資に伴う店舗改装で167店が一時休止するなか、最大123店が一時休業や時間帯休業に追い込まれ、これとは別に124店が深夜・早朝営業を休止していた。

内容

提言に沿って実施したのは、長時間労働を禁止するルールと「時間管理委員会」による労務管理、深夜帯の一人勤務体制の廃止、すき家本部への社外取締役および常勤監査役の設置である。並行して6月2日にすき家事業を地域別7社へ新設分割し、東京の本社が約2,000店を統括する体制を1社あたり約300店へ割った。

含意

深夜営業の休止と人件費の増加で2015年3月期は当期純損失111億38百万円となり、中間・期末とも無配、会長兼社長は月額報酬を30%減額した。2015年3月には正社員911名とパート・アルバイト約95,000名の賃上げに踏み切り、翌期は深夜営業の再開が進んで黒字へ戻った。

いつ何が起きたか 11件
筆者の見解
筆者の見解

権限をどこに置くかという問い

この判断は、深夜の店を閉めるかどうかの損得ではなく、店舗運営の権限をどこに置くかの組み替えであった。第三者委員会の提言を受けて会社がまず重要だと受け止めたのは労働時間の管理ではなく、持株会社と事業会社のあいだの権限の問題である。東京の本社が約2,000店をひとつの号令で動かす仕組みを7つの地域会社へ割り、あわせてすき家本部に社外取締役と常勤監査役を置いた。深夜の一人勤務は、その仕組みの末端に現れた症状にすぎず、1,167店の深夜営業を畳んだのは症状ではなく仕組みのほうに手を入れた結果なのだろう。

もっとも、この組み替えがそのまま定着したわけではない。深夜営業の再開は想定を上回るペースで進み、赤字は一期で終わったが、その回復を支えたのは分権そのものよりも、正社員とパート・アルバイト約95,000名に及んだ賃上げだったのだろう。地域分社化は6年後、9社の吸収合併で巻き戻された。労働集約の運営を誰が握るのかという問いは、深夜の灯を消した判断のあとも、分権と集権のあいだで置き直され続けている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
労働環境問題への対応の経緯

労働環境問題への対応の経緯

科目 概要 備考
2014年4月17日 施策の決定 地域分社化と第三者委員会の設置 店舗の労働環境改善を経営の最重要課題に設定したうえでの決定
決定時点の営業状況 最大123店舗が一時休業・時間帯休業 別に124店舗が夜22時から朝9時までの深夜・早朝営業を休止(4月17日現在)
2014年4月28日 委員 委員長 久保利英明(弁護士) 委員は國廣正(弁護士)と村松邦子。委員の選定は委員長に一任した
委託事項 「すき家」の労働環境改善のための提言 委託期間は2014年5月7日から目的結了まで。社内調査に全面協力すると表明
2014年6月2日 地域分社化 すき家地域会社7社を新設分割で設立 北日本・関東・東京・中部・関西・中四国・九州。1社あたり約300店
2014年7月31日 調査報告書 第三者委員会から受領 持株会社と子会社のあいだの権限の問題が重要であると受け止めた
提言に沿って実施した施策 深夜帯における一人勤務体制の廃止 ほかに長時間労働を禁止するルールと「時間管理委員会」による労務管理
ガバナンス体制の強化 すき家本部に社外取締役と常勤監査役 リスク情報を取締役会と持株会社へすみやかに報告する体制も強化した
2014年10月1日 深夜営業の一時休止 1,167店 24時間型で営業中の1,843店のうち。複数勤務体制の確立は589店、曜日限定87店
2014年11月10日 配当と役員報酬 中間・期末とも無配 会長兼社長の月額報酬30%、その他取締役10%、執行役員7%を減額
2014年11月14日 追加の委員会 職場環境改善促進委員会(社外5名) 委員長は白井克彦。2015年3月31日に報告書を受領した
2015年3月16日 正社員の賃上げ 911名の月例給を平均2.50%引き上げ 一人平均7,700円(うちベースアップ2,000円)。大卒初任給は20.5万円へ
2015年3月31日 パート・アルバイト 約95,000名の時給を一律2.50%引き上げ 国内グループの本部・店舗・工場・物流センターで働く全パート・アルバイト

出所:ゼンショーホールディングス 有価証券報告書 第33期(2015年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】、および同社・株式会社ゼンショーほかのプレスリリース・適時開示

従業員数と平均臨時雇用者数の推移

ゼンショーホールディングス:従業員数と平均臨時雇用者数の推移

(人) 従業員数平均臨時雇用者数 備考
2010年3月期 4,79432,875
2011年3月期 4,85836,331
2012年3月期 4,84141,954
2013年3月期 5,34343,067
2014年3月期 5,92846,232
2015年3月期 6,58445,584 深夜営業の一時休止を挟んだ期。平均臨時雇用者数は前期から648人減った
2016年3月期 7,56348,072
2017年3月期 9,21149,891
2018年3月期 10,87750,837
2019年3月期 12,52152,682
2020年3月期 14,40250,148
従業員数
従業員数(人)

出所:ゼンショーホールディングス 有価証券報告書 第32期(2014年3月期)・第33期(2015年3月期)・第38期(2020年3月期)【主要な経営指標等の推移】

連結業績の推移

ゼンショーホールディングス:連結業績の推移

(百万円) 売上高経常利益当期純利益 備考
2010年3月期 334,17211,1143,506
2011年3月期 370,76915,7914,735
2012年3月期 402,96219,3003,068
2013年3月期 417,57713,8735,058
2014年3月期 468,3777,9571,103
2015年3月期 511,8102,875△11,138 特別損失16,818。うちCatalina Restaurant Group株式の譲渡による126億円
2016年3月期 525,70911,3804,026 第34期以降は「親会社株主に帰属する当期純利益」として開示されている
2017年3月期 544,02818,0618,443
2018年3月期 579,10817,6568,001
2019年3月期 607,67918,2119,924
2020年3月期 630,43519,90311,978
売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:ゼンショーホールディングス 有価証券報告書 第32期(2014年3月期)・第33期(2015年3月期)・第38期(2020年3月期)【主要な経営指標等の推移】

外食事業の売上高と営業利益

ゼンショーホールディングス:外食事業の売上高と営業利益

(百万円) 売上高営業利益 備考
2014年3月期 434,1979,307
2015年3月期 458,3013,529 深夜営業の一時休止と食材価格の上昇により営業利益は62.1%減
2016年3月期 464,25811,979 深夜営業の再開等により営業利益は239.4%増
2017年3月期 474,46417,755
2018年3月期 495,63816,851
2019年3月期 524,63718,695
2020年3月期 547,67720,322
外食事業の売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:ゼンショーホールディングス 有価証券報告書 第32〜38期(2014年3月期〜2020年3月期)【業績等の概要】

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参考文献
出典・参考

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