亀田製菓売上成長から利益重視への方針転換と、主力4ブランドへの集中
シェアを削ってでも利幅を取るか——米菓首位が価格競争から降りるまで
- 概要
- 2023年8月、亀田製菓が中長期成長戦略2030を公表し、2030年度の連結営業利益率10%を掲げた経営判断。翌2023年度から国内米菓事業の方針を売上成長から利益重視へ切り替え、値上げと不採算商品の整理、主力4ブランドへの集中を進めた。市場シェアの低下はその方針に沿った結果として受け入れている。
- 背景
- 2022年に同業他社の操業停止で供給要請が集中したものの、生産能力が追いつかず、他社の復帰後に売り場を失った。加えて原材料とエネルギーの価格高騰、海外子会社の減損が重なり、2023年3月期の連結営業利益は前期比26%減の35億円へ落ち込んだ。
- 内容
- 2030年度に連結営業利益率10%、亀田製菓単体の米菓事業は2026年度を目途にコロナ禍前の収益水準へ回復させる目標を置いた。価格改定と規格変更、不採算商品と製造ラインの整理を進め、亀田の柿の種・ハッピーターン・つまみ種・無限エビの4ブランドの売上構成比を約50%から2026年度に60%へ引き上げる。
- 含意
- 米菓市場で45年以上首位を保ってきた会社が、シェアの維持より利幅の確保を先に置いた。説明会では価格競争には後戻りをしないと述べ、シェア低下を利益重視の方針に沿った営業活動の結果と説明している。首位企業が数量を追わない選択にあたる。
首位企業が数量を手放すとき
1975年から45年以上、亀田製菓は国内米菓の首位を守ってきた。首位企業にとって数量は市場への影響力そのもので、売り場を減らすことは棚の交渉力を弱める。にもかかわらず利幅を先に置けたのは、2022年に供給が追いつかず売り場を失った経験が先にあったからだとみられる。数量を取りにいっても供給できなければ売り場は守れない——その順序を実地で確かめたあとでは、価格で競う土俵に戻る理由が薄かった。
ただし、この選択が正しかったと言い切るには早い。2024年度の単体米菓は売上高こそ2022年度の水準へ戻したが、市場シェアは下がったままで、同社自身も要因を確認中としている。利益率10%という目標は2030年度に置かれており、達成の可否はまだ先にある。首位を保つことと利幅を取ることのどちらを優先するかという問いに、この会社が出した答えの成否は、シェアがどこで下げ止まるかによって見え方が変わってくるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
供給要請に応えきれず売り場を失った2022年
2022年、同業他社の操業停止によって流通からの供給要請が亀田製菓に集中した。同社は主力ブランドを中心に工場をフル稼働させたが、既存の人員と生産能力では足りない。供給を優先するあまり新商品の発売や特売提案の再開が遅れ、同業他社が復帰したとき、いったん確保した売り場を明け渡した[1][2]。
業績はこの年に落ち込んだ。2023年3月期の連結営業利益は35億円で、前期の48億円から26%減っている。親会社株主に帰属する当期純利益も44億円から18億円へ半減した。原材料とエネルギーの価格高騰に加え、海外子会社の固定資産で減損を計上したことが響いている。株主総会では、将来性を株式市場へ示しきれなかったと経営陣自身が認めた[3][4]。
安売りと距離を置いてきた米菓市場での位置
亀田製菓はもともと価格で競う立場を取っていない。2018年の決算説明会で同社は、ブランドを維持するため安売りとは一線を画してきたと述べ、自社は価格を下げていない一方で米菓の店頭価格は下落傾向にあるとの認識を示した。同業には非上場の企業もあり、収益性を犠牲にした値下げで売上を取りにいく動きがあるのではないか、とも語っている[5]。
それでも2018年度に発表した中期経営計画は、初年度から数字に届かなかった。主力12ブランドのうち上位4ブランドが減収となり、翌年の説明会で経営陣は打ち手が結果につながらず後手を踏んだと述べている。価格を下げずに数量を確保する構えは、この時点ですでに揺らいでいた[6]。
決断
中長期成長戦略2030と「価格競争には後戻りをしない」
2023年8月28日、亀田製菓は中長期成長戦略2030の説明会を開いた。会長CEOのジュネジャ・レカ・ラジュ氏、社長COOの髙木政紀氏、CFOの小林章氏が並び、2030年度に連結営業利益率10%を置く目標を示している。国内米菓市場で価格競争が再燃する可能性を問われた同社は、商品の独自性を高めて付加価値を創造することで収益力を強化すると答え、業界として価格競争に陥る場面が見られたとしても後戻りはしないと明言した[7][8]。
実務の側では、値上げと品目の絞り込みを同時に進めた。2023年1月と2月に価格改定と規格変更を実施し、7月にも米菓の一部で値上げを予定している。同社はこれを原燃料高の転嫁だけでなく、品質改良と販売価格帯の見直しを含むものと説明した。あわせて商品アイテムと不採算の製造ラインを整理・集約し、亀田の柿の種・ハッピーターン・つまみ種・無限エビの4ブランドへ資源を寄せている[9][10]。
シェアを追わないという選択
この転換で難しいのは、首位企業が数量を手放す点にある。2024年5月の説明会で同社は、業界をリードするうえで一定のシェア確保の必要性は認識しているとしたうえで、そこに固執するのではなく価値創造によって収益を確保することを重要視すると述べた。翌2025年5月には、市場シェアの低下を利益重視の方針に沿った営業活動の結果と説明している。数量の減少を失点ではなく方針の帰結として説明した発言である[11][12]。
数量を手放せたのは、絞り込みと収益改善が同じ施策の裏表になっていたためでもある。同社は約350あったSKUを毎年20ほど削り続けており、単に売上をつくるだけの商品は落として本当に求められている商品に注力する方針を示していた。品目を減らせば製造ラインの稼働がまとまり、切り替えのロスも減る。売る品数を絞ることと利幅を取ることが、この会社では別の話ではなかった[13]。
結果
利益は戻り、シェアは戻らなかった
収益は方針どおりに回復した。2025年3月期の連結営業利益は55億円で、2023年3月期の35億円から56%増えている。親会社株主に帰属する当期純利益も54億円まで戻った。国内米菓セグメントの利益は44億円で、値上げと品目整理、製造ラインの集約が数字に表れた形となる。2026年3月期の営業利益は75億円まで伸びた[14][15]。
一方、売り場は戻っていない。2025年5月の説明会で同社は、単体米菓の2024年度売上高が2022年度と同程度まで回復したものの市場シェアは低下していると認め、要因については改めて確認を進めていくと述べた。トップメーカーとして市場への影響力を保つ観点から、シェアの動向は注視するとも付け加えている。利益を優先した選択の代償が、どこまで許容できるものかを測りかねている状態がうかがえる[16]。
- 亀田製菓 2017年度 決算説明会及び中期経営計画発表会 質疑応答(2018年5月21日)
- 亀田製菓 2018年度 決算説明会 質疑応答(2019年5月20日)
- 亀田製菓 2022年度 決算説明会 質疑応答(2023年5月22日)
- 亀田製菓 第66期定時株主総会 質疑応答(2023年6月14日)
- 亀田グループ中長期成長戦略説明会 質疑応答(2023年8月28日)
- 亀田製菓 2024年3月期 第2四半期決算説明会 質疑応答(2023年11月16日)
- 亀田製菓 2023年度 決算説明会 質疑応答(2024年5月27日)
- 亀田製菓 第67期定時株主総会 質疑応答(2024年6月18日)
- 亀田製菓 2024年度 決算説明会 質疑応答(2025年5月26日)
- 亀田製菓 有価証券報告書(2023年3月期・2025年3月期・2026年3月期/連結)