都心型価格の導入と全国一律価格の放棄
全国どこでも同じ値段か、立地ごとの価格か——相次ぐ値上げのなかでの一物一価の見直し
更新:
- 概要
- 2023年7月、日本マクドナルドは全国の店で同じだった店頭価格を、立地に応じて分ける方式へ改めた。賃料や人件費の重い都心部の184店に「都心型価格」を設け、通常店・準都心店・都心店・特殊立地店の4区分とした。都心店のビッグマックは通常店より50円高い500円で、商品ごとに10〜50円の差をつけた。相次ぐ値上げのなかで、長く続けてきた全国一律価格を手放す転換となった。
- 背景
- 2022年以降、円安と原材料の高騰が続き、同社はハンバーガーを110円から段階的に引き上げ、2023年1月には約8割の品目を値上げして170円とした。全国どこでも同じ値段という原則のもとでは、地代と人件費の重い都心部ほど採算が薄い。空港やサービスエリアなど特殊立地では、以前から通常店と異なる価格を設けていた。
- 内容
- 日本マクドナルドは、特殊立地に限っていた別価格を都心部の店へ広げた。全国約3,000店の約6%にあたる184店を都心型価格の対象とし、東名阪の都市部を中心に、通常店より高い準都心店・都心店を設けた。看板商品のビッグマックは通常店450円・準都心店470円・都心店500円で、通常店と都心店の差は最も開く商品でも40円ほどにおさまる。
- 含意
- 値上げを重ねても客数の落ち込みは小さく、2024年12月期の全店売上高は8,291億円と過去最高を更新した。2020年12月期比で客単価は23.7%、客数は9.8%増えた。1994年に藤田田社長が「価格破壊」で全国一律の低価格を掲げてから約30年、日本マクドナルドは価格戦略を反対向きに引き直し、増収のうちに一物一価を手放した。
「価格破壊」から30年、価格哲学の反転
この判断の核心は、日本マクドナルドが自ら築いた価格の原則を、30年をへて反対向きに引き直した点にある。1994年、藤田田社長は「価格破壊」を掲げてハンバーガーを段階的に値下げし、全国どこでも同じ安さで買えることをブランドの土台に据えた。デフレの進む外食で、一律の低価格は集客の柱となり、平日半額のような施策とともに客数を積み上げた。全国一律・低価格という思想は、そのころに固まった。都心型価格の全面導入は、その思想を裏返す。安さと一律をやめ、立地に応じて値段を上げていく方向へ、価格の設計を組み替えた。
値下げで客数を稼いだ時代と、値上げで客単価を稼ぐ現在とを分けるのは、外食を取り巻く物価の流れである。円安と人件費高のもとでは、安さを競うだけでは店が立ちゆかない。全国一律という分かりやすさを捨て、立地ごとにコストを価格へ映すやり方は、デフレを前提にした外食からの離脱を映している。もっとも、立地で値段が変わる仕組みは、同じ商品が店によって違う値段だという分かりにくさも生む。値上げに客がついてくるうちは成り立つこの均衡を、物価や競争が変わったときにも保てるかどうかは、これからに委ねられている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
相次ぐ値上げ
日本マクドナルドの値上げは、2022年から間を置かずに続いた。急速に進む円安と、牛肉をはじめとする原材料の高騰が、輸入に頼る同社のコストを押し上げた。2022年に110円だったハンバーガーは、130円、150円と上がり、2023年1月16日には全体の約8割の品目を10〜150円値上げして、ハンバーガーを170円、ビッグマックを450円とした。1年足らずのあいだに、主力商品の店頭価格は5割上がった[1]。
全国一律価格という前提
日本マクドナルドは、全国のどの店でも同じ商品を同じ値段で売ることを長く続けてきた。都市の中心でも郊外の幹線道路沿いでも、ハンバーガーの値段は変わらない。ただし例外はあり、空港やサービスエリア、遊園地といった客層や賃料の特殊な立地では、以前から通常の店とは異なる価格を設けていた。全国一律を原則としつつ、限られた場所だけを別扱いにする仕組みが、今回の見直しの前から動いていた[2]。
値上げを繰り返しても、全国一律の価格には無理が生じつつあった。マクドナルドの都心部の店は、賃料も人件費も郊外より高い。同じ値段で同じ商品を売っても、地代の重い立地では利益が残りにくい。値上げ幅を全店でそろえれば、地方の客には割高に映る一方、東名阪の都市部では負担の差が埋まらない。全国どこでも同じ値段という原則と、立地ごとに異なるコストとのあいだに、開きが広がっていた[3]。
決断
都心型価格の導入
2023年7月19日、日本マクドナルドは都心型価格を都心部の店へ広げた。空港やサービスエリアなど特殊立地に限っていた別価格の考え方を、賃料や人件費の重い都市部の店へ及ぼした。対象は全国約3,000店の約6%にあたる184店で、東名阪の都市部が中心となった。全国どこでも同じ値段という原則に、立地の違いを反映させる仕組みを本格的に組み込んだ[4]。
価格は4つの区分に分かれた。従来の通常店に加えて準都心店と都心店を設け、空港などの特殊立地店とあわせて、店ごとに値段を変える。商品ごとの差は10円から50円で、看板商品のビッグマックは、通常店の450円に対し準都心店が470円、都心店が500円となった。通常店と都心店の開きは、最も差の出る商品でも40円ほどにおさまる。全国一律だった主力商品の値段に、立地に応じた段差が広く入った[5][6]。
全国一律からの転換
この判断は、全国一律で値上げするやり方からの転換にあたる。同社はコスト増を全店へ一律に転嫁するのではなく、負担の重い都市部の店だけを選んで引き上げた。立地や店ごとに値段を変える動きは外食に広がり、すかいらーくホールディングスは2022年夏から地域別の価格を導入していた。長く続いたデフレ下の外食では、全国一律の安さが競争の柱だった。マクドナルドの一律価格の見直しは、その前提が変わったことを示す[7]。
結果
値上げでも客数を保ち、最高益へ
値上げは客離れを招かなかった。既存店の客数は2023年に入って前年割れが続いたものの、上がった客単価がこれを補い、既存店売上高は前年を上回って推移した。日本マクドナルドは2023年12月期に営業利益で過去最高を見込み、都心部を選んで値上げする判断は採算の改善に効いた。値上げをすれば客が減るという外食の通念に反し、同社は価格を上げながら売上を伸ばした[8]。
値上げの効果は、その後の業績にはっきり表れた。2024年12月期の全店売上高は8,291億円と過去最高を更新し、2020年12月期比で40.7%増えた。この間に既存店の客単価は23.7%、客数も9.8%増えている。値上げで客単価を上げつつ、客数も減らさずに伸ばした。特殊立地に限っていた別価格を都心へ広げた判断は、増収と最高益に結びついた[9]。
- 日本経済新聞(2023年1月6日)「マクドナルド、商品8割値上げへ ハンバーガー150→170円に」
- 日本マクドナルド 公式リリース(2023年6月19日)「都心型価格の適用店舗再編のお知らせ」
- グルメWatch(2023年6月20日)「マクドナルド『都心型価格』の差額は最大40円程度。担当者に聞いてみた」
- J-CAST(2023年8月14日)「マック、ガスト、スシロー…『地域価格設定』広がる デフレ経済からの脱却につながるか?」
- 日経ビジネス(2023年12月1日)「マクドナルド最高益 『都心値上げ』的中、外食勝ち組はデフレ脱却へ」
- 集英社オンライン(2025年2月13日)「〈マクドナルド最高益〉『3年で100店舗以上の純増』目指すも気になる「本国の失速」とセブン-イレブンとの共通点」