100円均一を動かさない——値上げをせず「残存者利益」を狙う

円安と原価高が業態を揺らすなか、セリアはなぜ100円という価格を守り続けたのか

更新:

時期 2024年7月
意思決定者 河合映治 社長
論点 価格戦略と業態の持続性
概要
2022年以降の円安と原材料高が100円均一の採算を圧迫するなか、河合映治社長は値上げに動かず100円という均一価格を守る戦略を選んだ。競合が300円・500円へ多価格帯化するのに対し、セリアは同業の撤退・縮小で生じる「残存者利益」を狙う道を2024年に鮮明にした。
背景
商品の大半を海外から調達するセリアにとって、円安と素材高は直接の原価上昇となる。100円均一は価格を調整弁に使えないため、営業利益率は2021年3月期の約10.6%から2023年3月期の約7.3%へ下がり、減益が続いた。
内容
河合映治社長は「我慢し残存者利益」を取る方針を掲げ、値上げの代わりに梱包資材の見直しや品揃えの入れ替えで原価を抑えた。投資の向きを営業所網から物流とシステムへ移し、2025年には5営業所を物流センターへ集約した。
含意
利益率は下がったものの、セリアは100円という他社にない価格を守り抜いた。価格を動かせない制約を、競合が離脱したあとに残る顧客を取り込む戦略へ読み替えた判断であり、業態の持続性を賭けた選択となった。
筆者の見解

制約を、戦略へ読み替える

100円均一は、価格を動かせないという制約の上に成り立つ業態である。円安と原価高は、その制約を弱みとして突いた。河合映治社長の判断の核心は、弱みをそのまま戦略の前提に据えた点にある。値上げに逃げれば、100円という唯一の看板を失う。守り抜けば採算は細るが、同じ苦境で価格を上げた店から客が流れ、耐えきれず退く同業の跡地に需要が残る。「残存者利益」という言葉は、この読み替えを一言で言い表している。

賭けの成否は、原価高がどこまで続くかにかかっている。上昇が恒常化すれば、100円の内側で吸収できる幅にはいずれ限りが来る。それでもセリアは、規模でも価格帯でもなく、データで品揃えを絶えず入れ替える力を頼りに、100円の一点で踏みとどまろうとしている。かつて規模を追わずに情報の精度で競う道を選んだ会社が、今度は価格を動かさずに中身を変え続ける道を選んだ。制約を逆手に取る同じ発想が、四半世紀を隔てて繰り返されている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

円安が突きつけた原価上昇

2022年以降の円安は、商品の大半を海外から調達するセリアの原価を押し上げた。樹脂原料をはじめとする素材の値上がりと円安が採算を圧迫し、セリアは段ボールの梱入り数を増やして輸送効率を上げ、品質に直結しない梱包資材を見直して原価を抑えにかかった。上昇圧力は資材にとどまらず、海外の人件費や物流費にも及んだ[1][2]

100円均一という業態は、価格を調整弁に使えない。仕入れが高くなっても店頭では100円のまま売るしかなく、原価上昇はそのまま利益を削る。セリアの営業利益率は2021年3月期の約10.6%から2023年3月期には約7.3%へ下がり、2024年3月期まで減益が続いた。円高のときに質の高い輸入雑貨を安く仕入れられた強みが、円安では逆の負荷に変わった[3]

多価格帯へ動く同業

原価高に直面した100円ショップ各社は、価格の縛りを緩める方向へ動いた。ダイヤモンド・チェーンストアの2022年6月の記事によれば、競合他社はすでに300円・500円、さらに1000円へと価格帯を広げ、客単価の引き上げで収益を確保しようとしていた。100円均一そのものの持続性が業界の論点となり、固定価格を守るか多価格帯へ移るかで各社の戦略が分かれた[4]

決断

100円を動かさないという選択

競合が多価格帯へ動くなか、河合映治社長は逆の道を選んだ。2024年7月、日本経済新聞のインタビューで「我慢し残存者利益」を取る方針を示し、値上げをせず100円均一を守ると明言した。100円という一点を動かさないことで、価格が上がった他店から離れた客を引き寄せ、採算に耐えられず縮小・撤退する同業のあとに残る需要を取り込む——それが河合映治社長の描いた戦略である[5]

値上げをしない以上、原価を抑える工夫は商品と調達に向かった。セリアは梱包資材や輸送効率を見直して1品あたりのコストを削り、100円で採算の合う品へ品揃えを入れ替えていった。河合映治社長は以前から、POSデータをもとに2万点の商品のうち月500点を入れ替える運用を続けてきた。同じ100円でも中身を絶えず替えることが、価格を動かさない戦略を支えた[6]

結果

投資の向きの変化

100円を守る戦略は、投資の向きも変えた。新規出店を続ける一方で、セリアは物流とシステムへの支出を厚くした。投資活動によるキャッシュフローの支出は2024年3月期の約62億円から2025年3月期には約123億円へほぼ倍増し、物流センターの増強やPOSの刷新に充てられた[7]

2025年4月には、千葉・愛知・大阪・中四国・福岡の5営業所を閉じ、物流センター主導の運営へ切り替えた。地域ごとの営業所に担わせてきた機能を集約し、データと物流で全国を回す体制へ寄せた形である。利益率は円安前の水準を下回ったまま推移したが、セリアは100円という他社にない価格を守り抜いた[8]

出典・参考