亀田製菓米国子会社 Mary's Gone Crackers の全株式譲渡
商品の方向は正しかった——それでも13年で畳んだのは何が崩れたからか
- 概要
- 2025年4月30日、亀田製菓が米国子会社 Mary's Gone Crackers, Inc.(MGC)の全株式を、カナダの食品会社 Dare Foods 傘下の米国企業へ譲渡すると発表した経営判断。2012年12月に約24億円で77.8%を取得してから13年で、北米の自社ブランド事業から退いた。
- 背景
- MGC はオーガニックかつグルテンフリーのクラッカーを扱い、米国で健康志向の食品が広がる先駆けにあたる会社である。コロナ下では需要が伸びたが、2022年度にオーガニック原材料の調達難と工場の人員不足で欠品が続き、流通への補償と在庫処分費が積み上がって業績が急速に悪化した。
- 内容
- 株式の売却価額は29億5,300万円、株式売却益は5億3,500万円を計上した。譲渡の理由について同社は、米国事業戦略の再構築を検討するなかで、TH FOODS, INC. の成長に経営資源を集中することがシナジー創出につながると判断したためと説明している。
- 含意
- 同社は商品の方向そのものは誤っていなかったとの立場を崩していない。崩れたのは供給の側であり、撤退の判断は商品への評価と切り離して下された。2025年の株主総会では、投資回収を断念することを株主に詫びたうえで、北米構造改革の実行は企業価値の向上に重要だと答えている。
読みは当たり、作れなかった
オーガニックかつグルテンフリーという市場の読みは外れていない。2020年の説明会で亀田製菓自身が、健康志向のもとでオーガニック市場が最も強い伸びを示していると述べ、同じ北米の TH FOODS との差を市場の成長速度の違いで説明していた。読みが当たっていたからこそ、崩れた場所がはっきりする。原材料が調達できず、工場に人が集まらず、注文に対して物が出せない——需要側ではなく供給側で詰まった。買ったのは市場への入口であって、それを作り続ける力ではなかったとみることができる。
ただし、13年を丸ごと失敗と呼ぶには、途中で一度黒字に届いている事実が引っかかる。工場を集約し、人材を送り、経営体制を入れ替えて単月黒字まで戻した時期が実際にあった。それでも定着しなかったのは、亀田製菓の支援が現地の生産を安定させるところまで届かなかったからだとみられる。技術と人を送って立て直せる会社と、そうでない会社がある——同じ北米で TH FOODS には30年以上技術を提供し続けた同社が、MGC では続けなかった。その線引きをどこで引くかが、この判断の芯にあったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
健康志向市場への入口として買った会社
2012年12月、亀田製菓は米国ネバダ州の Mary's Gone Crackers, Inc. を子会社とした。約24億円を投じて77.8%の株式を取得している。同社が扱うのはオーガニックかつグルテンフリーのクラッカーで、米国で健康を意識した食品が広がる先駆けにあたる企業であった。亀田製菓は米国を海外展開の最重要地域と位置づけており、この買収はその市場に自社ブランドで入る手立てであった[1][2]。
買った先の市場は実際に伸びた。2020年の説明会で同社は、コロナ下の健康志向のもとでオーガニック市場が最も強い伸びを示していると述べ、同じ北米でもグルテンフリーのみを扱う TH FOODS との差は市場そのものの成長速度の違いにあると説明している。工場を集約して生産効率も改善しつつあり、当時の生産能力には1年半程度の余力があると見ていた[3][4]。
商品ではなく供給が崩れた2022年度
崩れ方は商品の不振ではなかった。2022年度、MGC はオーガニック原材料の調達難と工場の人員不足という供給側の要因で欠品を出し、大幅な赤字に落ちた。亀田製菓はこれを特殊要因による供給不足と整理し、本社からの支援を強化して正常化を進めたと説明している。同じ年、海外子会社の固定資産では減損を計上した[5]。
立て直しには費用が伴った。2023年度の赤字は、過去の欠品による流通への補償と過剰な原材料在庫の処分費を構造改革費用として処理したことが主因である。同年7月には MGC の経営体制を刷新して生産体制を正常化させ、単月では黒字に転じた。それでも黒字を定着させるには、なお時間を要するとの見方が2024年5月時点で示されている[6][7]。
決断
TH FOODS へ寄せるという整理
2025年4月30日、亀田製菓は MGC の全株式をカナダの食品会社 Dare Foods 傘下の米国企業へ譲渡すると発表した。株式の売却価額は29億5,300万円で、株式売却益5億3,500万円を計上している。付随費用1億6,300万円を差し引いた売却による収入は14億100万円であった。譲渡は5月に実行され、MGC は連結の範囲から外れた[8][9]。
理由として同社が挙げたのは、MGC の不振そのものではなく、米国事業をどう組み直すかという問いであった。米国事業戦略の再構築を検討するなかで、TH FOODS の成長に経営資源を集中することがシナジー創出につながると判断した、というのが有価証券報告書の説明である。背景には、固定資産を積み上げて拡大する従来型から無形資産を軸とする成長へ移るという「KAMEDA 3.0」の方針が置かれていた[10][11]。
商品への評価と切り離した撤退
撤退にあたって、亀田製菓は MGC の商品や市場の読みを否定していない。オーガニックかつグルテンフリーという方向は米国市場の変化を先に捉えたもので、一時は黒字も達成している。2025年6月の株主総会で経営陣は、投資回収をここで断念することを株主に詫びたうえで、同社が紆余曲折を経ながらも一時的な黒字化を実現したことに触れ、そのうえで北米構造改革の実行が企業価値の向上に重要だと答えた[12]。
もっとも、株主の受け止めは厳しかった。同じ総会では、過去に大きな減損損失を3回計上しており経費を含めれば多額の損失にあたるとして、このプロジェクトは失敗だったのではないか、経営責任の在り方を含めて説明してほしいという質問が出ている。前年の総会では、MGC への貸付金の回収が困難と判断して引当金を計上したことも明らかにされていた[13][14]。
結果
海外の赤字は消えたが、13年分は回収できていない
譲渡と入れ替わりに、北米の姿は大きく変わった。2026年3月期の海外セグメントは売上高494億円、営業利益17億円となり、2025年3月期の売上172億円から3倍近くへ増えている。MGC を外し、TH FOODS を連結に加えた結果である。2020年3月期から5期続いた海外セグメントの営業赤字は、2025年3月期に黒字へ転じ、翌期はその幅を広げた[15]。
一方、投じた資金という点では回収に届いていない。取得に約24億円、売却で29億5,300万円と数字だけは上回るが、その間に3度の減損損失と、回収困難と判断した貸付金の引当、流通への補償や在庫処分の構造改革費用が積み上がっている。株主総会で経営陣が投資回収の断念という言葉を使ったのは、この差を指してのことであった[16]。
- M&A Online(2025年4月30日)「亀田製菓、菓子製造の米国子会社MGCをカナダ社傘下の米企業に譲渡」
- 亀田製菓 2020年度 第2四半期決算説明会 質疑応答(2020年11月20日)
- 亀田製菓 2022年度 決算説明会 質疑応答(2023年5月22日)
- 亀田製菓 2024年3月期 第2四半期決算説明会 質疑応答(2023年11月16日)
- 亀田製菓 2023年度 決算説明会 質疑応答(2024年5月27日)
- 亀田製菓 第67期定時株主総会 質疑応答(2024年6月18日)
- 亀田製菓 第68期定時株主総会 質疑応答(2025年6月17日)
- 亀田製菓 有価証券報告書(2026年3月期・連結)