リニア談合で第三者委員会設置(2018年・大林組の決断)

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論点談合容疑を認めるか法廷で争うか
大林組:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
争わずに罰金と営業停止を受け、原因究明を外部へ預けた選択2018年9月1日、リニア中央新幹線工事の入札に関する独占禁止法違反事件について、日本弁護士連合会の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に依拠した第三者委員会を設置した。目的は客観的な調査結果に基づく発生原因の究明と、実効性のある再発防止策の提言である。

何をなぜ決めたか:争わずに罰金と営業停止を受け、原因究明を外部へ預けた選択

概要

2018年9月1日、リニア中央新幹線工事の入札に関する独占禁止法違反事件について、日本弁護士連合会の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に依拠した第三者委員会を設置した。目的は客観的な調査結果に基づく発生原因の究明と、実効性のある再発防止策の提言である。

同年10月22日に罰金2億円の有罪判決を受け、2019年1月31日に提言を含む調査報告書を受領して同日公表した。翌2月からは建設業法に基づく120日間の営業停止処分に入っている。

背景

2017年12月、東京地方検察庁と公正取引委員会の捜査・調査を受け、2018年3月23日に東京地方検察庁から起訴された。2006年に独占禁止法遵守プログラムを策定し、全社を挙げてコンプライアンスの徹底に取り組んできたにもかかわらず招いた事態である。

2018年3月期には課徴金等の見込み額として独占禁止法関連損失引当金10,529百万円を特別損失に計上した。この引当金には子会社の大林道路の案件も含まれる。同社は神戸市周辺と全国で販売するアスファルト合材の価格をめぐって調査を受け、東京都と成田国際空港の発注する舗装工事では2018年3月28日に課徴金納付命令を受けていた。

内容

第三者委員会の提言は8項目に分かれた。経営陣による主体的な取り組み、事実関係の公表と風化の防止、土木部門トップらへの厳正な対応・処分、役員の独占禁止法理解を担保する仕組み、決裁権者の理解の深化、決裁権者を牽制する仕組みづくり、証拠隠滅の禁止、そして実施状況の検証である。

これを受けて全店の重要応札案件について土木本部が行う総合調整のプロセスを文書化し、会議体を組み込んでブラックボックス化を避けた。2019年4月1日には監査役直通の通報窓口を新設。内部通報制度には通報の義務化と社内リニエンシーを明記し、入札不正にいったん関与した者でも通報すれば社内処分の減免を図るとした。

含意

提言の最後に置かれた実施状況の検証は2020年3月に果たされた。運用1年を経た再発防止策について、概ね提言に沿った内容が導入され、総じて真摯に実施されており特段の問題がないことを確認した旨の報告書を受領している。

数字に表れたのは土木だった。提出会社の土木事業の受注高は2018年3月期の3,076億円から2019年3月期に2,616億円へ15%減少し、処分の明けた2020年3月期には3,268億円へ戻った。同じ期の建築事業の受注高は9,954億円から1兆2,056億円まで増加し続けている。課徴金納付命令3,118百万円は2021年3月期に確定した。

いつ何が起きたか9件
当時の取締役10名

当時の取締役(2018年6月株主総会決議)

考察:規程ではなく運用を問い直す
考察

考察:規程ではなく運用を問い直す

この会社が選んだのは、刑事処分の当否を法廷で問い直すことではなく、なぜ土木部門でそれが起きたのかを外部に調べさせることだった。起訴から半年で第三者委員会を設置し、提言を受けて応札可否の判断プロセスを文書化し、監査役直通の通報窓口を開ける。いずれも独占禁止法の解釈をめぐる争いではなく、決裁権者をどう牽制するかという社内の設計の話である。2006年に遵守プログラムを策定していたにもかかわらず事件を招いた以上、問われているのは規程の有無ではなく運用だという読み替えが、この選択には入っているとみられる。

もっとも、外部に委ねることと、外部に委ねきることは違う。提言の8番目に「実施状況の検証」が置かれ、2020年3月に運用1年を経た検証まで受けたことは、提言した当事者が自ら点検まで引き受けた点で徹底している。ただし検証の結論は「概ね提言に沿った内容が導入され、特段の問題がない」という手続きの確認であって、同業者との接触を原則禁止にした組織が受注をどう組み立てるのかまでは答えていない。処分の明けた2020年3月期に土木の受注高が処分前を超えて戻ったことは回復の証しにも見えるが、それが何によるものかは、この検証の外側にある。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る3表

数字で見る

図と表

大林組:建設事業の受注高(提出会社)

土木事業の受注高(百万円)建築事業の受注高(百万円)
大林組:建設事業の受注高(提出会社)
(百万円)土木事業の受注高建築事業の受注高備考
2014年3月期274,420935,034
2015年3月期322,227956,030
2016年3月期330,5841,069,697
2017年3月期295,7051,052,677
2018年3月期307,692995,4253月23日に起訴。独占禁止法関連損失引当金10,529百万円を特別損失に計上
2019年3月期261,6181,044,3339月に第三者委員会を設置。2月2日から民間土木工事の営業停止処分に入った
2020年3月期326,8271,205,607営業停止処分は6月1日まで。土木の受注高は処分前の水準を超えた
2021年3月期345,0741,164,086
2022年3月期323,4101,187,879
2023年3月期342,9751,112,012
2024年3月期376,6211,198,572
出所:大林組 有価証券報告書 第110〜120期(受注高、売上高及び繰越高・提出会社)
出所:大林組 有価証券報告書 第110〜120期(受注高、売上高及び繰越高・提出会社)

大林組:独占禁止法関連損失引当金の推移(連結)

大林組:独占禁止法関連損失引当金の推移(連結)
(百万円)期末残高繰入額戻入額備考
2017年3月期436−−前期まで流動負債のその他に含めていた区分を、重要性が増したため独立掲記した
2018年3月期10,52910,529−起訴を受け、課徴金等の見込み額を特別損失に計上
2019年3月期10,324−−
2020年3月期4,145−2,096大林道路の案件の決着に伴う取崩し。提出会社分の4,145百万円が残った
2021年3月期0−1,0263,118百万円の課徴金納付命令を受け、差額を特別利益に計上して残高は消えた
出所:大林組 有価証券報告書 第113〜118期(連結貸借対照表・連結損益計算書・引当金明細表)
出所:大林組 有価証券報告書 第113〜118期(連結貸借対照表・連結損益計算書・引当金明細表)

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
対象リニア中央新幹線工事の入札独占禁止法違反等の疑いがあるとして、2017年12月に捜査・調査を受けた
捜査・調査の主体東京地方検察庁と公正取引委員会子会社の大林道路も別途、公正取引委員会の調査を受けていた
起訴2018年3月23日東京地方検察庁。2006年に独占禁止法遵守プログラムを策定していた
引当金の計上10,529百万円2018年3月期の特別損失。大林道路の舗装工事・アスファルト合材の案件を含む
取締役報酬の自主返上代表取締役は月額報酬の30%社外を除く取締役は20%。2018年4月から6月までの3ヵ月間
第三者委員会の設置2018年9月1日日本弁護士連合会のガイドラインに依拠し、原因究明と再発防止策の提言を求めた
刑事処分2018年10月22日 罰金2億円有罪判決。公訴事実を争う方針は掲げていない
調査報告書2019年1月31日再発防止の提言を含む報告書を受領し、同日公表した
再発防止策の決議2019年2月提言内容に沿った施策を取締役会で決議し、順次施行した
営業停止処分120日間(2019年2月2日〜6月1日)建設業法に基づき2019年1月18日付。全国の土木工事業のうち民間工事が対象
応札プロセスの文書化土木本部の総合調整を全店へ周知フローに会議体を組み込みブラックボックス化を避け、プロセス監査の対象とした
内部通報制度の見直し通報の義務化と社内リニエンシー入札不正に関与した者でも通報すれば社内処分の減免を図る。監査役直通窓口を新設
同業者との接触ルール懇親会への参加は原則禁止業界団体や発注者が主催する公式行事は事前の承認手続きを要する
実施状況の検証2020年3月概ね提言に沿った再発防止策が導入され、特段の問題がない旨の報告書を受領
課徴金納付命令3,118百万円2021年3月期。引当金の期首残高4,145百万円との差額1,026百万円を特別利益に計上
出所:大林組 有価証券報告書 第114期(2018年3月期)〜第117期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【引当金明細表】
出所:大林組 有価証券報告書 第114期(2018年3月期)〜第117期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【引当金明細表】
当時の取締役10名

当時の取締役(2018年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 大林組 有価証券報告書「第114期(2018年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】」
  • 大林組 有価証券報告書「第115期(2019年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 大林組 有価証券報告書「第116期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 大林組 有価証券報告書「第117期(2021年3月期)【引当金明細表】【連結損益計算書】」
  • 大林組 調査報告書「第三者委員会 調査報告書」
  • 大林組 有価証券報告書「第110〜120期【生産、受注及び販売の状況】」

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