ジャストシステム特別調査委員会と過年度決算訂正:元従業員の無断取引を受けて4期分の有価証券報告書を訂正し、内部統制を立て直した選択

更新:

時期 2018年9月
当時の社長 関灘恭太郎
論点 元従業員の無断取引で崩れた過年度決算の信頼性
概要

2018年度、法人向け事業の一部製品をめぐり、元従業員が会社の認めていない契約条件に基づく取引を無断で行っていた事実が判明した。これにより第38期第1四半期の四半期報告書と決算短信の提出に遅延が生じ、過年度の有価証券報告書等の訂正に至った。会社と利害関係を有しない外部の専門家から構成される特別調査委員会を設置し、その調査費用と過年度決算訂正のための費用256,291千円を特別損失に計上している。

2018年9月14日、第34期から第37期までの有価証券報告書と内部統制報告書、第35期第2四半期から第37期第3四半期までの四半期報告書8本の訂正報告書を、遅れていた第38期第1四半期報告書とともに関東財務局長へ提出した。

背景

個人向けの日本語入力・文書作成ソフトに加え、法人向けの製品と2012年に始めたタブレット型通信教育「スマイルゼミ」が収益源となっていた時期にあたる。不正が起きたのは法人向け事業の一部製品で、訂正の対象は2014年度から2017年度までの4期にわたった。

訂正前の開示では、連結売上高は第34期の17,722百万円から第37期の24,076百万円へ伸びていた。訂正後の値はそれぞれ17,418百万円、22,991百万円で、4期のいずれも訂正前を下回っている。親会社株主に帰属する当期純利益も同様に、第37期で4,560百万円から3,519百万円へ修正された。

内容

特別調査委員会は会社と利害関係を有しない外部の専門家から構成された。委員の氏名と設置の日付は有価証券報告書に記載がない。訂正されたのは、有価証券報告書が第34期から第37期までの4期、内部統制報告書が同じ4期、四半期報告書が第35期第2四半期から第37期第3四半期までの8本で、いずれも2018年9月14日に関東財務局長へ提出された。

訂正報告書に関する財務諸表等の監査報酬は71,760千円で、第38期の監査証明業務に基づく報酬に含まれている。役職員の処分や報酬の減額については記載がない。

含意

訂正の影響がもっとも大きく出たのは純資産額であった。第37期末の純資産は訂正前の40,342百万円から36,345百万円へ3,997百万円減り、訂正の最初の期である第34期末でも1,001百万円減っている。第34期の期首残高にまで修正が及んでおり、訂正報告書の対象となった4期より前に遡る取引が含まれていたとみられる。

不正が判明した第38期そのものは、売上高28,647百万円・親会社株主に帰属する当期純利益6,210百万円といずれも過去最高を更新した。2019年3月31日現在の財務報告に係る内部統制は有効と評価され、翌第39期以降に特別調査費用等の計上はない。

筆者の見解

訂正が映したもの

この一件で問われたのは、決算の数字そのものよりも、何を「会社が認めた契約条件」とするかを誰がどこで押さえていたのか、という管理の所在であったと思われる。元従業員が組み立てていたのは会社の外を欺く取引ではなく、社内の承認を経ない条件による取引であり、それが4期にわたって収益として計上され続けた。訂正額のうち最も重いのが純資産の3,997百万円である点は、この取引が単年の誤りではなく、積み上がった残高の問題であったことを示している。

もっとも、会社が打った手は速かった。事実の判明から数か月のうちに外部の専門家による委員会を立て、遅れていた四半期報告書と16本の訂正報告書を同じ日に出し切っている。訂正の年に売上高と利益を過去最高へ伸ばし、翌期以降は追加の費用も出ていない。ただし委員の顔ぶれも設置の日も、役職員をどう処したかも公表資料には残っていない。何が起きたかは数字で追えるが、誰がどう責任を負ったのかは辿れないままである。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
判明した事実 元従業員による無断の取引 法人向け事業の一部製品で、会社が認めていない契約条件に基づく取引を行っていた
判明した時期 第38期(2019年3月期) 当連結会計年度において判明した、と記している。月日の記載はない
調査の主体 特別調査委員会 会社と利害関係を有しない外部の専門家から構成される
委員の構成と設置日 記載なし 委員の氏名・人数・設置の日付は有価証券報告書に記載がない
遅延した報告書 第38期第1四半期 2018年4〜6月の四半期報告書と決算短信。2018年9月14日に提出した
有価証券報告書の訂正 第34期〜第37期の4期 2015年3月期から2018年3月期。2018年9月14日に関東財務局長へ提出
内部統制報告書の訂正 第34期〜第37期の4期 有価証券報告書と同じ4期について、同じ日に訂正報告書を提出した
四半期報告書の訂正 8本 第35期第2四半期から第37期第3四半期まで。2018年9月14日に提出
特別損失 256,291千円 特別調査費用等。調査費用と過年度決算訂正のための費用を計上した
訂正報告書の監査報酬 71,760千円 訂正報告書に関する財務諸表等の監査報酬。第38期の監査報酬に含まれる
売上高の修正(第37期) △1,085百万円 24,076百万円から22,991百万円へ。2018年3月期の連結売上高
純資産額の修正(第37期) △3,997百万円 40,342百万円から36,345百万円へ。第34期の期首残高にも修正が及ぶ
役職員の処分 記載なし 処分および役員報酬の減額について有価証券報告書に記載がない
再発防止 内部統制の体制強化とコンプライアンス徹底 内部通報関連規程に基づく事実調査と是正措置の体制を整備している
第38期の内部統制の評価 有効 2019年3月31日現在。内部統制監査でも適正と表示されている旨の意見が出た

出所:ジャストシステム 有価証券報告書 第38期(2019年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【特別損失】【監査公認会計士等に対する報酬】【その他の参考情報】【内部統制報告書】

ジャストシステム:業績と純資産の推移(訂正後)

(百万円) 売上高親会社株主に帰属する当期純利益純資産額 備考
2014年3月期 第33期は訂正後の指標が開示されていない
2015年3月期 17,4182,91227,572 訂正前は売上高17,722・当期純利益3,201・純資産28,573百万円
2016年3月期 17,1832,68330,182 訂正前は売上高18,241・当期純利益3,744・純資産32,245百万円
2017年3月期 19,4673,36533,218 訂正前は売上高20,330・当期純利益4,258・純資産36,173百万円
2018年3月期 22,9913,51936,345 訂正前は売上高24,076・当期純利益4,560・純資産40,342百万円
2019年3月期 28,6476,21042,150 不正が判明した期。特別調査費用等256百万円を特別損失に計上した
2020年3月期 36,5039,28750,802
2021年3月期 41,17410,95761,074
2022年3月期 41,67612,16571,300
2023年3月期 41,95013,40183,677
2024年3月期 40,98511,63694,003
売上高と当期純利益率(訂正後)
売上高(百万円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)

出所:ジャストシステム 有価証券報告書 第38期(2019年3月期)・第43期(2024年3月期)【主要な経営指標等の推移】

ジャストシステム:過年度決算訂正による修正額

(百万円) 売上高親会社株主に帰属する当期純利益純資産額 備考
第34期(2015年3月期) △304△289△1,001 純資産の修正には第34期の期首残高への修正が含まれている
第35期(2016年3月期) △1,058△1,061△2,062
第36期(2017年3月期) △863△893△2,955
第37期(2018年3月期) △1,085△1,042△3,997 訂正の対象となった4期のうち、修正額がもっとも大きい

出所:ジャストシステム 有価証券報告書 第37期(2018年3月期)・第38期(2019年3月期)【主要な経営指標等の推移】

同じ問いに直面した会社

不祥事後の取締役会改革2018年大成建設公訴事実は独占禁止法違反に当たらないとして争う道の選択独占禁止法違反容疑への対応と入札業務の適正化
2018年大林組争わずに罰金と営業停止を受け、原因究明を外部へ預けた選択独占禁止法違反の原因究明と再発防止体制の立て直し
2019年大和ハウス工業中国子会社の不正・建築基準の不適合・資格の実務経験不備が続いた1年と、事業本部制への移行相次ぐ不祥事を受けたグループガバナンスの再構築
2017年富士フイルムニュージーランド・豪州の販売子会社で判明した不適切な会計処理と、第117〜120期に及ぶ連結決算の訂正海外子会社の不適切な会計処理と、グループ内部統制の立て直し
2017年三菱マテリアル連結子会社5社で相次いだ不適合品の出荷と、グループガバナンスの立て直しグループ子会社の品質保証と内部統制
出典・参考
  • ジャストシステム 有価証券報告書「第38期(2019年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • ジャストシステム 有価証券報告書「第38期(2019年3月期)【特別損失】」
  • ジャストシステム 有価証券報告書「第38期(2019年3月期)【その他の参考情報】」
  • ジャストシステム 有価証券報告書「第38期(2019年3月期)【監査公認会計士等に対する報酬】」
  • ジャストシステム 有価証券報告書「第38期(2019年3月期)【内部統制報告書】」
  • ジャストシステム 有価証券報告書「第37期(2018年3月期)【主要な経営指標等の推移】」
  • ジャストシステム 有価証券報告書「第38期(2019年3月期)【主要な経営指標等の推移】」

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