国内市場参入(1987年・船井電機の決断)

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論点 輸出の量産体制を国内販売に転用するか
船井電機:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
輸出専業からの転換——製パン器とVTR

何をなぜ決めたか:輸出専業からの転換——製パン器とVTR

概要

1987年3月に家庭用製パン器"らくらくパンだ"を国内向け製品の第1号として発売し、続いて再生専用VTRを3万9800円で売り出して、国内市場へ参入した判断。船井電機は1961年の設立で、輸出用のトランジスタラジオから始まった輸出産業である。製品のほぼ全量を欧米で売り、GEやフィリップス、シアーズ・ローバックなどへOEM供給してきた。

1988年6月期の売上高計画は1100億円で、国内販売は1割強の130億円にとどめ、3年たつ頃には国内で全体の3割を稼ぐ目標を置いた。

背景

1987年6月期の売上高は921億円で前期比25%増、経常利益は17.4億円で前期の2.8倍と、円高のもとでも業績は伸びていた。それでも船井哲良社長は 『今後1ドルが100円~110円になる可能性がある。体力のあるうちに備えをする必要がある』 と、先回りの備えとして国内に目を向けた。

直接のきっかけは、1986年暮れにジャスコが韓国・三星電子製の再生専用VTRを3万9800円で売り出すと発表したことにある。海外で韓国製VTRと競ってきた船井哲良社長は、 『値段だけみれば向こうが安いが、品質を加味すればうちの方が勝っている』 という自信から、同じ価格で日本市場に売ると即座に発表した。社員にも前もって知らされておらず、米国向けの再生専用機を日本向けに改造して間に合わせた。

内容

国内の流通を知らず、VTRを求めてきた業者に早い順に製品を渡した結果、通信販売業者やディスカウント業者に大量に流れて定価の半値程度で売られ、家電量販店・大手スーパー・百貨店から締め出された。参入から2カ月後には通販業者や現金問屋への出荷を全面的に止め、販売ルートを原則として家電量販店・スーパー・百貨店に限る方針に改めた。営業部員は約130人で、半分以上を他社から引き抜き、国内の営業所は1987年10月までに札幌から鹿児島にかけて18カ所を数えた。

1984年7月に国内販売会社として東京フナイを設けていた。そこへ大手オーディオメーカーで30年国内営業を手がけた馬場永久氏を取締役営業本部長として迎え、取扱店は1990年までに5000店を超えた。

含意

VTRは参入2年後の1989年上半期に国内シェア7%を取ったと言われ、韓国製品に競り勝って"ジャパNIES"と呼ばれた。だが大手との価格差が縮み、1990年6月期の国内売上高の見込みは200億円から150億〜170億円へ下方修正され、1991年に国内比率を30%へ高める中期経営計画は事実上の見直しを迫られた。国内販売会社は1990年6月期に赤字となり、人員を100人前後減らし営業所を6カ所閉じた。

津山工場の開発技術陣を大阪本社に集め、売れる価格を先に決めてコストを合わせる体制から、1992年発売のテレビデオ"画2マン"が実売5万円を切ってヒットした。1993年6月期の経常利益は23億円まで戻したが、1998年6月期の国内比率は11.2%で横ばいにとどまった。

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考察:安さは、売り場の信用と一組でしか効かない
考察

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この判断が示したのは、価格競争力という強みが、そのままでは別の市場へ移らないという事実であった。日本の家電流通は系列と付き合いの長さで棚が決まる世界であり、そこへ安さだけを持ち込めば、安売り業者へ流した製品が量販店の信用を傷つける。参入2カ月で出荷を止め、5000店の販路を築き直すまでの数年は、その作法を学び直す時間であったのだろう。

もっとも、国内参入がもたらしたものは売上比率だけで測れない。津山の開発陣を本社へ集め、価格を先に決めてから設計する体制を組んだことは、テレビデオでの巻き返しを生み、OEMの量産とは別の商品企画の型を社内に残したとみられる。それでも国内比率30%という当初の目標に届かなかった事実は残る。輸出専業の会社が国内で自前の顧客基盤を持てなかったことは、北米市場の変調が直接に経営を揺らす後年の構図と、どこかでつながっているかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
参考文献

参考文献

参考
  • 日経ビジネス 1987年10月26日号
  • 証券アナリストジャーナル 1999年3月号
  • 日経ビジネス 1990年3月12日号
  • 日経ビジネス 1994年2月14日号
  • 船井電機 アニュアルレポート「アニュアルレポート2000(Company History)」
  • 船井電機 会社案内「会社案内2011「製品開発のあゆみ」」

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