この判断の中心にあるのは、自社に足りないものを買わずに借りたことにある。全米の店頭で通用する名前を一から育てれば、広告費と時間がかかり、船井電機が最も得意とする低価格の量産という強みとも噛み合わない。破綻した老舗の商標には、消費者の記憶だけが資産として残っていた。それを年数百万ドルの使用料で借り、ウォルマート専用の看板に仕立てたことで、無名のメーカーが全米最大の売り場の定番棚を占めることができた。持たざるものを持たないまま戦う方法として、よく設計された選択であったとみられる。
ただ、借りた看板の下では、売り場と価格の主導権は流通側にある。100%受注生産と直接納入は、在庫リスクを負わない代わりに、条件が変われば一方的に負担が移る取引でもあった。2005年の液晶テレビをめぐる契約変更は、その非対称をはっきりと見せている。フィリップス、SANYOと借りるブランドを替えながら北米のテレビを売り続けた歳月は、自前の顧客を持たない強さと弱さの両方を示していた。安く作る力を、誰の名前で、誰の棚に載せるのか——船井電機の歩みは、この問いを最後まで手放せなかった会社の記録として読める。