コーセーホールディングス 「タルト」の株式取得 米メークアップブランドの株式93.5%取得による北米市場への参入

更新:

時期 2014年3月
当時の社長 小林一俊
論点 海外事業の拡大と北米市場への参入
何をなぜ決めたか
概要

2014年2月17日、コーセーが取締役会で米国Tarte,Inc.(タルト)の株式を取得して子会社化することを決議し、3月4日に既存株主との株式譲渡契約を締結、4月1日付で議決権の93.5%を取得した経営判断である。取得株式数は14,856株、公表時の取得価額は1億3,500万米ドル程度で、連結上の取得原価は13,642百万円となった。小林一俊社長のもとで進めた海外事業の拡大策であり、同社にとって初の北米ブランドの買収であった。

背景

コーセーの海外展開は主にアジア・アセアンが中心で、北米にはブランドを持たなかった。タルトは1999年に設立されたニューヨークの化粧品販売会社で、天然由来成分を配合したメークアップとスキンケアを掲げ、Sephora、ULTA、Macy's Impulseなどの化粧品小売店に加え、自社のインターネットサイトとTV通販のQVCでも販売していた。2012年12月期の売上高は52,414千ドル、営業利益は9,777千ドル、当期純利益は5,591千ドルである。

内容

株式取得の相手先はサンフランシスコを拠点とする投資ファンドEncore Consumer Capital Fund, LPで、創業者のMaureen Kelly氏は取得後も株主としてタルトの経営に携わる予定とされた。取得原価13,642百万円のうちのれんは9,498百万円で13年間の均等償却とし、ほかに商標権3,519百万円(14年)、顧客関連資産2,717百万円(12年)などの無形固定資産6,370百万円を配分している。残る議決権は2017年9月に4.5%、2020年6月に1.96%を非支配株主から買い増し、合計100%となった。

含意

買ったのは工場でも研究所でもなく、SephoraやULTAの売場に載ったブランドであった。タルトの売上高は2017年3月期の28,250百万円から2019年3月期の41,692百万円へ伸び、コロナ禍の2021年3月期に28,950百万円まで減少したのち、2023年12月期は58,764百万円、2024年12月期は70,242百万円に達した。一方で2025年度の営業利益率は7.9%にとどまり、原料規制への対応やUltaのTarget撤退に伴う返品引当が重なっている。のれんは13年の均等償却で減るだけで、減損の計上はない。

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筆者の見解
筆者の見解

売場を買うということ

取得原価13,642百万円から資産として残ったのは、のれん9,498百万円と商標権3,519百万円、顧客関連資産2,717百万円であった。工場も研究所も付いてこない。狭山と群馬に工場を構え、自社の研究所で処方を作ってきた会社が、ブランドと売場だけを買ったことになる。買収の理由として有価証券報告書が挙げるのも、北米における存在感を高め、新たな販路と顧客を獲得するという一点である。

無形の資産で買ったものは、無形のまま目減りする。もっともタルトの帳簿が薄くなったのは減損ではなく、13年の均等償却が毎期の利益を削っていった結果であり、買収から11年を経てものれんの一括した取り崩しは起きていない。それでも2025年度の営業利益率は7.9%にとどまり、原料規制への対応で原価が増え、TargetからUltaが引くだけで返品引当が要る。棚とトレンドの上に載った収益は、自社の設備の上に載った収益ほど手元で守れない。コーセーが2026年度にマーケティング投資を優先すると決めたのは、この事業が守って持ちこたえる種類のものではないと見ているからであろう。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Tarte, Inc. 事業の内容は化粧品の販売。本社は米国ニューヨーク州
取締役会決議 2014年2月17日 タルトの株式を取得して子会社化することを決議した
株式譲渡契約の締結 2014年3月4日 既存株主が保有する株式の93.5%を取得する契約
株式取得の相手先 Encore Consumer Capital Fund, LP 創業者のMaureen Kelly氏は取得後も株主として経営に携わる予定とされた
企業結合日 2014年4月1日 連結財務諸表に含めた業績は2014年4月1日から12月31日まで
企業結合の法的形式 株式取得 結合後企業の名称はTarte,Inc.のまま
取得した議決権比率 93.5% 取得株式数は14,856株。異動前の所有株式数は0株
取得の対価 13,214百万円 対価の種類は現金。公表時の取得価額は1億3,500万米ドル程度
取得に直接要した費用 427百万円 アドバイザリー費用等
取得原価 13,642百万円
のれん 9,498百万円 発生原因は今後の事業展開により期待される超過収益力。13年間の均等償却
のれん以外の無形固定資産 6,370百万円 商標権3,519(14年)、顧客関連資産2,717(12年)、その他133(5年)
受け入れた資産 9,899百万円 流動資産3,422百万円、固定資産6,477百万円
引き受けた負債 5,468百万円 流動負債1,507百万円、固定負債3,960百万円
期首に完了と仮定した場合の影響 売上高2,182百万円 営業利益618、経常利益581、当期純損失32百万円。監査証明の対象外
追加取得(2017年9月29日) 議決権4.5%を6,983百万円 非支配株主からの株式取得。資本剰余金が6,293百万円減少した
追加取得(2020年6月15日) 議決権1.96%を4,930百万円 議決権比率の合計が100%に。資本剰余金が4,499百万円減少した

出所:コーセー 有価証券報告書 第72期(2014年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】・第73期(2015年3月期)・第76期(2018年3月期)・第79期(2021年3月期)【企業結合等関係】

のれんと無形固定資産の推移

コーセーホールディングス:のれんと無形固定資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産合計 備考
2010年3月期 3,885 買収前。連結貸借対照表にのれんの計上はない
2011年3月期 3,583
2012年3月期 3,215
2013年3月期 3,075
2014年3月期 4,677 2014年2月17日に取得を決議し、3月4日に株式譲渡契約を締結
2015年3月期 10,48121,700 2014年4月1日に取得。のれんの計上額9,498が期末の換算で10,481に
2016年3月期 9,62619,941
2017年3月期 8,47917,739
2018年3月期 7,62916,383 2017年9月に議決権4.5%を追加取得し、資本剰余金が6,293減った
2019年3月期 6,67515,669
2020年3月期 5,79414,774 13年の均等償却が進む。タルトに係る減損損失の計上はない
のれんと無形固定資産
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:コーセー 有価証券報告書 第68〜78期(連結貸借対照表)

タルト単体の売上高と経常利益

コーセーホールディングス:タルト単体の売上高と経常利益

(百万円) 売上高経常利益 備考
2017年3月期 28,2508,338 売上高が連結売上高の10%を超え、主要な損益情報等の開示が始まった
2018年3月期 41,2437,694
2019年3月期 41,6925,169
2020年3月期 40,7157,208
タルト単体の売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:コーセー 有価証券報告書 第75〜78期【関係会社の状況】主要な損益情報等

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • コーセー「米国「Tarte, Inc.」の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2014年3月17日)
  • コーセー 有価証券報告書 第72期・第73期・第76期・第79期【企業結合等関係】ほか
  • コーセー 有価証券報告書 第75〜84期【関係会社の状況】
  • コーセー 有価証券報告書 第65期(2007年3月期)【役員の状況】
  • KOSÉ REPORT 2024(コーセー、2024年)「価値創造の軌跡」
  • コーセーホールディングス 2025年12月期 決算説明会 質疑応答
  • コーセー 適時開示「米国「Tarte, Inc.」の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
  • コーセー 有価証券報告書「第72期(2014年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • コーセー 有価証券報告書「第73期(2015年3月期)【企業結合等関係】」
  • コーセー 有価証券報告書「第76期(2018年3月期)・第79期(2021年3月期)【企業結合等関係】共通支配下の取引等」
  • コーセー 有価証券報告書「第75〜84期【関係会社の状況】」
  • コーセーホールディングス 決算説明会質疑応答「2025年12月期 決算説明会 質疑応答」

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