LINEヤフー アスクルの連結子会社化 対価を払わずに得た支配と、抱え込んだ親子上場の統治問題

更新:

時期 2015年5月
当時の社長 宮坂学
論点 持分法から連結への移行と親子上場のガバナンス
何をなぜ決めたか
概要

2015年8月27日、ヤフーはアスクルを連結子会社に組み入れた。きっかけは自社の追加出資ではなく、アスクルが同年5月19日の取締役会で決議した自己株式取得であり、その履践によってヤフーの議決権比率は41.7%から44.4%へ上がった。過半数には届かないものの、議決権の分散状況と過去の株主総会の投票パターン等を勘案して実質的に支配していると判断し、IFRS上の子会社とした。日本基準では持分法適用関連会社のままである。

背景

ヤフーは2012年4月27日の取締役会でアスクルとの業務・資本提携と第三者割当増資の引受を決議し、5月20日に32,999百万円を払い込んで議決権42.6%を握った。狙いは、インターネットでの知名度と集客力、「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!オークション」で培った決済機能に、アスクルが通信販売で培った物流ノウハウと情報システム、マーチャンダイジング機能を組み合わせ、両社でEコマース事業を共同展開することにあった。この提携に基づいてアスクルが立ち上げたのが日用品EC「LOHACO」である。

内容

支配獲得日である2015年8月27日現在、既に保有していた持分の公正価値は93,611百万円で、取得資産および引受負債の公正価値等の合計もこれと同額であった。追加の対価を払うことなく支配が成立している。既保有持分を公正価値で再測定した結果、59,696百万円の段階取得による利益を「企業結合に伴う再測定益」に計上し、のれん53,779百万円、無形資産69,124百万円、非支配持分54,036百万円を連結に取り込んだ。支配獲得日以降の売上高は189,013百万円、当期利益は2,970百万円であった。

含意

連結後の2017年2月、アスクルの物流センターで火災が起き、災害による損失を計上した。2019年1月にはヤフーがLOHACO事業の譲渡を要請したが、アスクルは独立役員会と取締役会の審議を経て提案を行わないと回答。同年6月27日、川邊健太郎社長が岩田彰一郎社長に退陣を要求し、8月2日の定時株主総会で岩田彰一郎氏の再任は否決された。対価を伴わずに生じた支配が、少数株主保護と支配株主責任という親子上場の難問を露わにした。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

買われなかった支配

この判断の芯は、支配が買われたのではなく、相手の資本政策によって相対的に生じた点にある。アスクルの自己株式取得でヤフーの議決権比率は41.7%から44.4%へ動き、過半数に満たないまま実質的な支配が認定された。追加の対価を払わないまま、アスクルの資産と負債は連結へ取り込まれ、既保有持分の再測定によって59,696百万円の利益まで計上されている。買収価格をめぐる交渉を経ずに連結の果実だけが手に入る形で、資本の論理としては極めて効率がよかったといえる。

もっとも、対価を伴わない支配は、少数株主の側から見れば正当性の拠りどころが薄い。LOHACO事業の譲渡要請が拒まれ、株主総会での社長再任否決という最も強い介入まで進んだとき、市場が見たのは、親会社の意向が上場子会社の経営判断に優先していく過程であった。日本基準では最後まで持分法適用関連会社として扱われ続けたこの関係は、支配の実質と形式がずれたまま運用されたともみることができる。親子上場の統治をどう設計するのかという問いが、ここに残された。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
連結子会社化の条件

連結子会社化の条件

科目 概要 備考
被取得企業 アスクル株式会社 事業内容は文房具等およびサービスにおける通信販売事業
支配獲得の形式 アスクルによる自己株式取得 2015年5月19日開催のアスクル取締役会で決議された自己株式取得の履践による
支配獲得日 2015年8月27日
取得した議決権比率 44.4%(2015年8月27日現在) 2015年5月20日現在は41.7%。議決権の過半数は保有していない
連結子会社と判断した根拠 議決権の分散状況と過去の株主総会の投票パターン 実質的に支配していると判断。日本基準では持分法適用関連会社
取得対価 既保有持分の公正価値93,611百万円 支配獲得日現在の取得資産および引受負債の公正価値等の合計と同額
段階取得による利益 59,696百万円 既保有持分を支配獲得日の公正価値で再測定。「企業結合に伴う再測定益」に計上
のれん 53,779百万円 第3四半期連結会計期間に取得対価の配分が完了し、暫定額から877百万円増加
無形資産 69,124百万円 取得対価の配分の確定により、暫定額から2,820百万円減少
取得した資産の公正価値 流動90,115/非流動109,832百万円 流動に現金及び現金同等物31,291、営業債権及びその他の債権45,365を含む
引き受けた負債の公正価値 流動71,494/非流動34,585百万円 流動に営業債務及びその他の債務56,772を含む
純資産の公正価値 93,868百万円
非支配持分 54,036百万円 識別可能な被取得企業の純資産の公正価値に対する持分割合で測定
支配獲得日以降の売上高 189,013百万円 当期利益は2,970百万円。支配獲得日に認識した無形資産の償却費等を含む
通期換算した影響額 連結売上高776,974百万円 2015年4月1日に完了と仮定した非監査情報。連結利益173,290百万円。一休を含む

出所:ヤフー 有価証券報告書 第21期(2016年3月期)連結財務諸表注記5.企業結合

のれん・無形資産・総資産の推移

LINEヤフー:のれん・無形資産・総資産の推移

(百万円) のれん無形資産資産合計 備考
2013年3月期 14,39516,928743,268 IFRSへの移行日(2013年4月1日)現在の残高
2014年3月期 15,80817,860849,987
2015年3月期 27,67332,3821,007,602
2016年3月期 156,362128,7111,342,799 アスクルの連結でのれん53,779・無形資産69,124を認識。一休の連結も同じ期
2017年3月期 159,505138,6921,534,212
2018年3月期 162,015167,1122,516,633
2019年3月期 175,301165,2932,429,601
2020年3月期 400,034679,3753,933,910
2021年3月期 1,778,7651,075,8716,696,680 LINEとの経営統合によりのれん・無形資産が増加
のれんと無形資産
のれん(百万円)無形資産(百万円)

出所:ヤフー/Zホールディングス 有価証券報告書 第20〜26期(連結財政状態計算書)

持分法で会計処理されている投資と連結売上高

LINEヤフー:持分法で会計処理されている投資と連結売上高

(百万円) 持分法で会計処理されている投資売上高 備考
2013年3月期 40,280− IFRSへの移行日(2013年4月1日)現在の残高。IFRSの売上高は2014年3月期から
2014年3月期 34,364386,284
2015年3月期 61,671428,487 アスクルは持分法適用関連会社
2016年3月期 34,257652,327 アスクルが持分法から外れ、支配獲得日以降の売上高189,013を連結に取り込み
2017年3月期 37,748853,730
2018年3月期 10,865897,185
2019年3月期 24,510954,714
2020年3月期 8,5671,052,943
2021年3月期 177,8701,205,846 LINEとの経営統合により持分法で会計処理されている投資が増加

出所:ヤフー/Zホールディングス 有価証券報告書 第20〜26期(連結財政状態計算書・連結損益計算書)

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参考文献
出典・参考

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