電通総研電通本体のシンクタンク「電通総研」を譲り受け、コンサル子会社2社と統合して商号を変える
システム開発会社が、なぜ電通グループの研究機関の名前を自社の商号として引き受けたのか
- 概要
- 2024年1月1日、株式会社電通国際情報サービス(ISID)が株式会社電通総研へ商号を変更した。同時に連結子会社のアイティアイディとISIDビジネスコンサルティングを統合し、dentsu Japan のシンクタンク組織「電通総研」を譲り受けた。発表は2023年2月10日、2022年12月期の決算とあわせておこなわれた。
- 背景
- 2022年12月期の連結売上高は1,291億円、営業利益186億円で、コロナ禍のDX需要を受けて3年で売上28%・営業利益84%伸びていた。同社は2022年に長期経営ビジョン「Vision 2030」を掲げ、2030年に売上高3,000億円規模を目指すと表明していた。伸びている最中の商号変更にあたる。
- 内容
- 新体制は「システムインテグレーション」「コンサルティング」「シンクタンク」の3機能を一体で持つ。譲り受けたシンクタンク部門の人員は非常勤を含め25人程度で、規模より機能の獲得に主眼があった。統合の方法は発表時点では未定とされ、最終的にISIDビジネスコンサルティングは2024年1月に吸収合併された。
- 含意
- 「電通総研」は1997年に日韓中のビジネスリーダー意識調査を実施していた電通グループの社会・経済系シンクタンクの名で、その名称が上場子会社の商号へ移った。2024年4月にはWebサイト制作大手のミツエーリンクスを子会社化し、2024年12月期の連結従業員は前期比761人増の4,413人となった。
25人の看板を1,500億円の会社が名乗ること
譲り受けたシンクタンクは、非常勤を含めて25人程度の組織であった。売上1,400億円規模の会社が、その25人の名前を自社の商号に採った。損益への寄与で説明のつく統合ではなく、受注の入口を変えるための看板の付け替えにあたる。システム開発は仕様が決まってから呼ばれる仕事で、仕様を決める前の議論に加われるかどうかで取れる金額が変わる。提言・設計・実装の3つを1社に置く設計は、その順番の一番上に自社を置き直す試みとみることができる。
ただし、名前を採った先が電通グループ本体であった点は、この判断に別の意味を与えている。2000年の上場で「電通子会社というイメージが先行してきた」と語った会社が、24年後には電通の研究機関の名を自ら引き受けた。そして商号変更の2年後、親会社は残る4割弱の株式を富士通や総合商社に持たせる案を検討している。ISIDという略称を捨てて得た「電通総研」という名は、いまのところ社会調査の看板であると同時に、資本の所在を示す表札でもある。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
伸びている最中に名前を変える
商号変更を発表した2023年2月10日、電通国際情報サービスは2022年12月期の決算も同時に開示している。連結売上高1,291億円、営業利益186億円、親会社株主に帰属する当期純利益126億円で、コロナ前の2019年12月期から3年で売上は28%、営業利益は84%伸びていた。企業のDX投資が集まる時期にあたり、業績の不振が名前を変える理由になったわけではない[1][2]。
変更の理由として同社が挙げたのは、顧客が抱える課題の質であった。SDGsに代表される持続可能な社会の実現、カーボンニュートラル、少子高齢化の加速といった主題は、システムを納めるだけでは片づかない。前年に掲げた長期経営ビジョン「Vision 2030」では2030年に売上高3,000億円規模を目標としており、当時の1,300億円規模から倍以上へ伸ばすには、受注の入口そのものを変える必要があった。自己変革の受け皿にふさわしい企業体とブランドを作る、というのが会社側の説明であった[3][4]。
決断
子会社2社の統合とシンクタンクの譲受
2023年2月10日の発表は、商号変更と連結子会社2社の統合に向けた検討・準備の開始を告げるものであった。統合の対象はアイティアイディとISIDビジネスコンサルティングの2社で、いずれもコンサルティングを担う子会社にあたる。アイティアイディは2001年6月に米International TechneGroupとの合弁として設立され、ISIDビジネスコンサルティングは2013年2月に設立された。統合の期日は2024年1月1日と定めたものの、統合方法は発表時点で未定とされた[5][6]。
もう一方の柱が、電通グループ本体にあったシンクタンク「電通総研」の譲受であった。発表の時点では、同名のシンクタンクからの機能移管は今後協議するとされていたが、2024年1月1日には dentsu Japan のシンクタンク組織を譲り受けたうえでの商号変更として実行された。譲り受けた部門の人員は、電通グループからの移籍者を含めて約20人、非常勤を合わせても25人程度にとどまる。人数ではなく、提言を出す看板そのものを取りに行った統合であった[7][8][9]。
3機能を1社に持つという設計
新体制が掲げた機能は、システムインテグレーション・コンサルティング・シンクタンクの3つである。会社側の説明では、この3機能を連携させることで、課題への提言から解決に向けたテクノロジーの実装・運用までの循環を生み出すとされた。提言で入口を作り、コンサルティングで設計し、システム開発で納める。売る順番を逆から組み直す設計にあたる。名和亮一社長は、リブランディングとリポジショニングを図る必要がある[11]と述べている[10]。
商号に選んだ「電通総研」という名は、この会社の外で30年近く使われてきた名前であった。1997年1月、電通グループのシンクタンクである電通総研は、韓国のハンベク研究財団・中国社会科学院と共同で日韓中のビジネスリーダー意識調査を実施し、その結果をもとにシンポジウム「アジアフォーラム2005」を開いている。当時の福川伸次社長は、21世紀初頭に各国の中核を担うビジネスリーダーの価値観を探ることが将来の協力関係に有益だと語っていた。社会調査の看板が、システム開発会社の商号へ移った[12][13]。
結果
商号変更後の2年
商号変更の3か月後、2024年4月にWebサイト制作大手のミツエーリンクスを株式取得で子会社化した。UI/UXとデジタルマーケティングの制作機能を内側に取り込む買収で、連結従業員数は2023年12月期の3,652人から2024年12月期の4,413人へ761人増えた。2024年12月期の連結売上高は1,526億円、営業利益210億円、親会社株主に帰属する当期純利益151億円。翌2025年12月期は売上1,649億円、営業利益229億円、純利益164億円と過去最高を更新した[14][15]。
商号を変えた2年後、この会社の株式そのものが論点になった。2026年7月2日、電通グループが電通総研を非公開化する方向で検討していると報じられ、61.8%の持株比率を保ったまま残りを富士通や総合商社が買い取り、出資額は2,000億円規模になるとみられるという内容であった。電通グループは同日、非公開化も一つの選択肢として検討しているが現時点で開示すべき情報はないとのコメントを出している。グループの名を冠した直後に、そのグループの資本政策の対象となった[16][17]。
- 日経クロステック 2023年2月10日「電通国際情報サービスが「電通総研」に社名変更、2024年1月から」
- 日本経済新聞(2023年2月10日)「ISID、電通総研に社名変更へ 24年1月」
- 日経クロステック「ISIDが社名変更で電通総研へ、シンクタンク機能を得て「ブランドを再構築する」」(2023年12月)
- 株式会社電通総研 ニュース 2024年1月1日「社名変更・新社名のお知らせ」
- 株式会社電通総研 プレスリリース 2023年11月30日「ISID、商号変更に伴う新ブランドロゴを制定」
- 株式会社電通総研 公式サイト「ヒストリー」
- 週刊東洋経済 1997年1月11日号「日韓中共同調査 共通の価値観創造が協調へのカギ」
- 株式会社電通総研 有価証券報告書(2024年12月期・2025年12月期)
- 日本経済新聞(2026年7月2日)「電通Gが電通総研を株式非公開に 富士通など2000億円規模の出資検討」
- 株式会社電通グループ ニュースリリース 2026年7月2日「当社および当社グループ会社に関する一部報道について」