FPG令和8年度税制改正大綱を受けた不動産小口化商品の新規販売停止と特別解約措置
制度が確定するまで売り続けるか、稼ぎ頭を自ら止めるか——節税を旗印にした金融商品会社が前提を失ったときの選択
- 概要
- 2025年12月19日に公表された令和8年度与党税制改正大綱は、不動産小口化商品の相続税・贈与税評価を実際の取引価格に基づく方式へ改める方針を示した。連結売上の7割超を国内不動産ファンド事業に依存していたFPGは、大綱公表を受けて主力商品の新規販売を一時停止し、購入申込済みの投資家には特別解約措置を適用した。2026年3月26日、通期の売上高予想を1,305億円から828億7,600万円へ引き下げた。
- 背景
- 2016年に始めた信託機能を用いた不動産小口化商品は、2025年9月期に売上高959億8,800万円と連結1,297億6,000万円の7割超を占めるまでに育っていた。都心一等地の不動産を1,000万円から購入できる商品の価値は、路線価・固定資産税評価額による相続税評価が実勢価格を下回るという税制上の一点に支えられていた。
- 内容
- 税制改正報道を受けて2025年11月から販売を止め、12月末譲渡分の申込・契約済み投資家からの解約申し出には合意解約と返金で応じた。2026年1月からは税理士・弁護士の見解を踏まえた新方針で3月末譲渡分の販売を再開し、2月にはオンライン取引を止めて対面説明のみに切り替えた。第1四半期の不動産商品販売額は47億2,000万円にとどまった。
- 含意
- 通期予想は売上高36.1%減、配当は1株125円40銭から92円70銭へ削られた。一方、第2四半期の販売額は119億3,000万円まで戻り、中間期の売上総利益は9.7%減にとどまった。2027年1月1日に予定される改正の詳細は本稿の時点で公表されておらず、節税を旗印にした商品が投資商品としてどこまで支持されるかは決着していない。
前提を売る商売の勘定
過去最高益の更新を目指すと社長メッセージに書いた同じ月に、谷村尚永社長は連結売上の7割を占める商品の販売を止めている。税制改正大綱が出たのは翌月であり、この時点で確定していたのは報道だけであった。売り続けて後から評価が変わった投資家に不利益を負わせるより、申込済みの契約まで解いて返金する道を選んだことになる。前提が動いたときにまず投資家の側に立つという判断は、税制の解釈を商品価値に変えて売る会社にとって、信用を守る唯一の手立てだったとみられる。
ただ、その代償は株主が払った。年間配当は125円40銭の計画から92円70銭へ削られ、前期実績の130円40銭も下回った。会社は2027年以降も一定の相続税圧縮効果が続き、相続対策としての有用性は維持されると見込むが、改正の詳細は本稿の時点でも公表されていない。売上高1,000億円水準への復帰という目標も、いまは見通しにとどまる。より根深い問題は、リースファンド事業もまた法人税の繰延べという税制の一点に立っていることで、同じことが起きない保証はどこにもない。制度が商品の価値を決める商売では、何を売るかより、前提が動いたときにどう畳むかに経営の質が表れるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
連結売上の7割を占めるに至った不動産小口化商品
FPGが2016年に始めた不動産小口化商品は、9年で会社の収益基盤そのものになっていた。2025年9月期の国内不動産ファンド事業は、不動産商品販売額が通期で過去最高の949億5,000万円、売上高は959億8,800万円に達し、連結売上高1,297億6,000万円の7割を超えた。創業以来の本業であるリースファンド事業の298億4,200万円を、3倍以上引き離していた[1]。
商品の中身は、FPGが都心一等地から取得した不動産を子会社のFPG信託に信託し、その信託受益権を1口1,000万円から投資家に売る仕組みにあたる。GINZA SIX、京橋トラストタワー、六本木ヒルズ森タワーといった単独では手の届かない物件の持分を、中堅企業のオーナーや富裕層が買う。2025年12月末までの累計組成金額は3,600億円を超え、提携する会計事務所は8,500を上回っていた[2]。
価値の源泉は税制の一点にあった
この商品が富裕層に選ばれた理由は、利回りよりも相続税評価の圧縮にあった。相続税の計算では土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に評価され、路線価は公示価格の8割程度に置かれている。貸家建付地としての減額や小規模宅地等の特例を重ねると、現金1,000万円で買った持分の評価額が400万円以下に下がる例もあった。所有権を持つ任意組合型・信託型は、現物不動産と同じ扱いを受けていた[3]。
前提が税制にある商品の危うさは、専門家の側からも早くから指摘されていた。物件を買ったあとで税制改正が行われれば期待した節税効果は得られず、直近ではタワーマンションの相続節税が国税庁の解釈変更で否認された例もある、という警告である。FPGの創業以来の本業であるリースファンド事業も、減価償却の前倒しによる法人税の繰延べという、同じ性格の前提の上に置かれていた[4]。
決断
過去最高益を掲げた翌月に販売を止める
2025年11月付の社長メッセージで、谷村尚永社長は2025年9月期の売上高1,297億6,000万円を過去最高と報告し、2026年9月期は「さらなる事業成長と収益性の向上に取り組むことで、過去最高益の更新を目指してまいります」と書いていた。期初の通期予想は売上高1,305億円である。その同じ11月、FPGは税制改正報道を受けて不動産小口化商品の販売を止めていた[5][6]。
12月19日、自民党と日本維新の会が令和8年度税制改正大綱を公表した。不動産小口化商品の相続税評価を実際の取引価格を基礎とする方式へ改める内容で、2027年1月1日以降、購入から5年以内の相続では路線価ではなく購入時の価格に基づいて評価するとされた。FPGは同日、今後の税制改正を踏まえた対応を適時開示した。週明けの12月22日、株価はストップ安売り気配となった[7]。
申込済みの投資家に解約を認める
FPGが選んだのは、税務上の扱いが確定するまで売り続けることではなかった。第1四半期に新規販売を一時停止したうえで、購入を申し込み済みの投資家には特別解約措置を適用した。12月末譲渡分の申込・契約済みの投資家から解約の申し出があれば、合意解約と返金で応じている。会社はこの対応を投資家保護の観点によるものと説明した[8]。
代償はすぐ数字に出た。第1四半期の不動産商品販売額は47億2,000万円にとどまり、国内不動産ファンド事業の売上高は前年同期比69.6%減。連結売上高は149億9,000万円と46.4%の減収となった。ただし売上総利益の落ち込みは3.4%にとどまっている。不動産は販売額をそのまま売上高に、簿価を売上原価に計上するため、販売を止めると売上高だけが大きく削られる構造にあった[9]。
売り方を作り直して再開する
止めたまま年度を終えるという選択は採らなかった。2026年1月、FPGは税理士・弁護士など専門家の大綱に関する意見を踏まえた新しい販売方針を組み、3月末譲渡分の販売を再開した。前面に出したのは節税効果ではなく、都心一等地の優良不動産に1,000万円から投資できるという商品の性格である。GINZA SIX、大手町案件、福岡天神南案件はいずれも早期に完売した[10]。
売り方の組み替えは販路の絞り込みにも及んだ。2026年2月20日、FPGは不動産小口化商品のオンライン取引による販売を一時停止し、営業担当者による直接の説明と対面販売のみに切り替えた。前年10月に国内不動産ファンド事業へ広げたばかりの販路である。理由として挙げたのは、税制改正の内容と影響を正確かつ丁寧に説明することを最優先する、という一点であった[11]。
結果
売上36%減の予想と減配
2026年3月26日、FPGは通期業績予想を引き下げた。売上高は1,305億円から828億7,600万円へ36.5%、経常利益は306億円から228億6,000万円へ25.3%、親会社株主に帰属する当期純利益は210億円から155億1,300万円へ。年間配当も1株125円40銭から92円70銭に減額され、前期の130円40銭を下回った。翌27日、株価は大幅安となった[12]。
下方修正の理由として会社が挙げたのは、業績の悪化そのものよりも見通しの立たなさである。2027年1月1日に予定される税制改正の詳細がパブリックコメントを含めて未公表であることを踏まえ、通期計画を慎重に見直す、とした。新しい販売方針を固めるのに時間を要し、上期の実績が期初想定を下回ったことも併せて説明されている[13]。
需要は消えていなかった
一方で、止めた商品が売れなくなったわけではなかった。第2四半期の不動産商品販売額は119億3,000万円まで戻り、第1四半期の47億2,000万円から2.5倍に増えた。丁寧な説明を通じて投資家の理解を得ることで既存顧客に加えて新規顧客への販売も伸び、FPGは根強い投資家ニーズを確認したと総括している。3月単月の受注額は前年同期の水準に迫った[14]。
中間期の連結売上高は355億8,600万円と43.9%減った。それでも売上総利益は181億4,500万円で9.7%減にとどまり、営業利益は121億4,900万円を確保している。穴を埋めたのは創業以来の本業であるリースファンド事業で、売上高171億4,100万円(18.0%増)、売上総利益151億2,000万円(24.0%増)と伸びた。一本足ではなくなっていたことが、初めて実務上の意味を持った[15]。
- FPG 有価証券報告書(2025年9月期・連結)
- FPG「国内不動産ファンド事業」事業案内
- 週刊東洋経済 2023年2月4日号「【特集 大増税時代の渡り方】PART1 富裕層から始まる「大増税」 相続で使えるが、リスクにも注意 不動産小口化商品の節税効果」
- FPG「社長メッセージ」(2025年11月)
- FPG 2026年9月期 第1四半期 連結決算説明資料(2026年1月29日)
- 株探(2025年12月22日)「FPG---ストップ安売り気配、税制改正大綱で投資用不動産の財産評価を見直し方針」
- 株探(2026年3月26日)「FPG、今期経常を一転14%減益に下方修正、配当も32.7円減額」
- FPG「令和8年度税制改正大綱に伴う、不動産小口化商品のオンライン取引について」(2026年2月20日)
- FPG 2026年9月期 第2四半期(中間期)決算短信(2026年4月28日)