この決断が特異なのは、自社に落ち度が見つかったからではなく、外から犯罪を予告されただけで動いた点にある。異物が実際に入れられたかどうかは分からず、健康被害の報告も一件もなかった。それでも参天製薬は、ロットを絞る道を選ばずに1998年2月以降に出荷した24品目すべてを対象とし、脅迫を受けた翌日に回収へ入った。売上の裏づけとなる商品を、確証のないまま自ら棚から下ろす判断であった。
同時代の評価は割れた。外部から持ち込まれた危機への対応として引かれる一方で、全品回収が先例となり、以後は同種の脅迫のたびに同じ対応を迫られるという批判も出た。どちらの見方にも根拠があり、当時の参天製薬が二つの結果を天秤にかけた形跡は残っていない。ただ、回収に着手した2000年6月15日から2年後、この会社はバブル崩壊後の12年間を一度も減収せずに通した上場60社の一つに数えられていた。