米BMSと抗PD-1抗体提携(2011年・小野薬品工業の決断)

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論点海外の開発販売権を大手に供与するか
小野薬品工業:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
北米以外・日韓台を除く開発販売権の委託とロイヤルティ収入

何をなぜ決めたか:北米以外・日韓台を除く開発販売権の委託とロイヤルティ収入

概要

2011年9月、小野薬品工業はブリストル・マイヤーズ スクイブ社と、完全ヒト型抗PD-1抗体『BMS-936558/ONO-4538』をめぐる戦略的提携契約を締結した。供与したのは、自社が有してきた北米以外のテリトリーのうち、日本・韓国・台湾を除く全世界での独占的な開発販売権である。対価の受取はロイヤルティで、契約期間は2011年9月を起算に特許有効期間又は発売後13年間のいずれか長い方とした。同時に、相手方が全世界で開発販売を進める関節リウマチ治療剤オレンシアの日本における共同開発販売権を取得している。

背景

抗PD-1抗体は、米国メダレックス社と2005年5月に結んだ共同研究契約から生まれた。抗体医薬として新規な抗がん剤を目指した完全ヒト型抗体で、がん領域も抗体技術も自社の外にあった。そのメダレックス社はのちにブリストル・マイヤーズ スクイブ社へ取り込まれ、北米の権利は相手方に移る。

残る全世界を単独で開発するには、世界規模の臨床試験と各国での承認申請をすべて自社で負うことになる。売上高1,352億円・研究開発費429億円(2011年3月期)という規模に対して、その負担は重かった。

内容

対価の受取はロイヤルティのみで、契約一時金やマイルストンの記載はない。同時に取得したオレンシアの日本での共同開発・共同販売権も、対価の支払を伴わず、契約期間は抗PD-1抗体と同じく特許有効期間又は発売後13年間のいずれか長い方に置かれた。2014年7月には日本・韓国・台湾についても契約を締結し直し、オプジーボ、イピリムマブほか3つの腫瘍免疫関連化合物を単剤および併用療法で共同開発・共同販促する体制へ広げている。この分の対価は、開発費用の分担に応じた利益の配分となる。

含意

2014年9月に世界初の抗PD-1抗体として国内発売したオプジーボは、売上収益が25億円(2015年3月期)、212億円、1,039億円と伸びた。相手方から受け取るロイヤルティ収入も2017年3月期に267億円へ達し、ロイヤルティ収入を含むオプジーボの売上収益は売上収益合計の約5割を占めるに至る。全社の売上収益は1,357億円から2,447億円へ跳ね、研究開発費も577億円へ増加した。

いつ何が起きたか8件
考察:権利を分割して世界へ届けるということ
考察

考察:権利を分割して世界へ届けるということ

この提携を、規模で劣る中堅が世界市場を大手に明け渡した妥協と読むのは、事の順序を取り違えているとみられる。抗PD-1抗体はメダレックス社との共同研究から生まれ、その相手がブリストル・マイヤーズ スクイブ社に取り込まれた時点で、北米はすでに相手方の領域だった。小野薬品に残っていたのは北米以外という広い版図で、そこから日本・韓国・台湾だけを手元に置き、あとを独占的な開発販売権として渡した。単独では各国の承認競争に間に合わないという現実の前で、版図を切り分けてでも世界初のがん免疫薬を届けきることを選んだ判断だったといえる。

もっとも、切り分けた版図の重さは後から効いてきた。供与した地域でどれだけ売れても手元に入るのはロイヤルティで、2017年3月期のそれは267億円。世界の売上そのものは相手方の帳簿に立つ。さらに、果実の配分をめぐる問いは社外にも及んだ。PD-1特許の対価をめぐって本庶佑氏が分配金の支払を求めて提訴し、2021年11月の和解で解決金50億円と京都大学の基金への230億円の寄附に至っている。権利を分けるという判断は、分けたあとの配分を誰との間でも問い直され続ける判断でもあったと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

小野薬品工業:オプジーボの売上収益と海外ロイヤルティ収入

オプジーボ点滴静注(億円)ロイヤルティ収入(億円)
小野薬品工業:オプジーボの売上収益と海外ロイヤルティ収入
(億円)オプジーボ点滴静注ロイヤルティ収入備考
2015年3月期25−2014年9月に国内発売。ロイヤルティ収入は額の記載がない
2016年3月期212−非小細胞肺がんへの効能追加で741.0%増。ロイヤルティ収入は増加額のみの開示
2017年3月期1,039267ロイヤルティ収入を含む売上収益は売上収益合計の約5割を占める
出所:小野薬品工業 有価証券報告書 第67〜69期【経営成績等の状況】【事業等のリスク】
出所:小野薬品工業 有価証券報告書 第67〜69期【経営成績等の状況】【事業等のリスク】

小野薬品工業:ロイヤルティ収益・研究開発費・売上収益の推移

ロイヤルティ・その他の営業収益(百万円)ロイヤルティ・その他の営業収益率(%)
小野薬品工業:ロイヤルティ収益・研究開発費・売上収益の推移
(百万円)ロイヤルティ・その他の営業収益研究開発費売上収益備考
2007年3月期−35,383141,711
2008年3月期−38,986145,897
2009年3月期−38,400136,556
2010年3月期−39,716135,986
2011年3月期−42,938135,255
2012年3月期−44,382145,778提携を締結した期。売上収益は日本基準の売上高
2013年3月期−45,441145,393日本基準。国際会計基準による同期の売上収益は142,806
2014年3月期1,68044,413143,247第66期より国際会計基準。ロイヤルティ収入等をこの期から別掲
2015年3月期10,86641,503135,775
2016年3月期15,66343,576160,284
2017年3月期30,46057,787244,797研究開発費の増はオプジーボ関連の開発投資による
出所:小野薬品工業 有価証券報告書 第59〜69期【主要な経営指標等の推移】【研究開発活動】【セグメント情報】
出所:小野薬品工業 有価証券報告書 第59〜69期【主要な経営指標等の推移】【研究開発活動】【セグメント情報】

提携の条件

提携の条件
科目概要備考
契約の相手方ブリストル・マイヤーズ スクイブ社(アメリカ)抗PD-1抗体は、同社の旧メダレックス社との共同研究によって創製したもの
契約締結2011年9月
供与した技術抗PD-1抗体「ONO-4538/BMS-936558」に関する技術完全ヒト型抗PD-1抗体。国内では2014年9月に「オプジーボ点滴静注」として発売
供与した権利の範囲北米以外・日本/韓国/台湾を除く全世界の独占的な開発販売権北米はもともと相手方の領域。日本・韓国・台湾は自社に留保した
供与の対価ロイヤルティ対価の受取はロイヤルティのみで、契約一時金・マイルストンの記載はない
契約期間特許有効期間又は発売後13年間のいずれか長い方2011年9月を起算とする
同時に取得した権利オレンシアの日本における共同開発・共同販売権関節リウマチ治療剤。対価の支払はなく、契約期間は抗PD-1抗体と同じ
日韓台での再提携2014年7月オプジーボほか4化合物を日韓台で共同開発・商業化。対価は開発費用の分担に応じた利益の配分
出所:小野薬品工業 有価証券報告書 第64期(2012年3月期)【経営上の重要な契約等】【研究開発活動】・第67期(2015年3月期)【経営上の重要な契約等】
出所:小野薬品工業 有価証券報告書 第64期(2012年3月期)【経営上の重要な契約等】【研究開発活動】・第67期(2015年3月期)【経営上の重要な契約等】
参考文献

参考文献

参考

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