この10年の判断は、鉄道の収支を改善する試みではなかった。鉄道が赤字であることを前提に置いたまま、赤字を負担できる別の利益をどこに作るかという問いに答えたものであった。答えの置き場所として選ばれたのが、駅の上の床と、沿線の宅地と、そこで暮らす人へのサービスであった。売店を子会社へ移し、駅ビルの運営会社を建物より先に作り、施工会社を買収し、介護へ入る——一つひとつは小さな手続きだが、並べると鉄道会社が地域の不動産業へ移っていく道筋になる。基金の運用益という与えられた収入が減少することが分かった時点で、自前の収入源を探し始めた点に、この時期の経営の性格がうかがえる。
ただし、置き換わったのは利益の出所であって、鉄道の状態ではない。2016年3月期の運輸サービスは105億円の営業損失で、発足から29年たっても鉄道単体では黒字にならなかった。駅ビルが稼ぐほど、鉄道は稼がなくても続けられる会社になる。その構造は路線網の維持には有利に働き、鉄道の収支を正面から問い直す動機は弱める。1996年に駅の売店を分社した会社が、四半世紀後に井筒屋や山形屋と商圏を争う位置に立ち、なお赤字のローカル線を持ち続けている。