米ベアエッセンシャル買収(2010年・資生堂の決断)

更新:
論点 北米の強化を大型買収で図るか
資生堂:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
初の大型クロスボーダーM&Aとなった海外ブランドの取り込み

何をなぜ決めたか:初の大型クロスボーダーM&Aとなった海外ブランドの取り込み

概要

2010年1月15日の取締役会で、資生堂が買収目的子会社ブラッシュ・アクイジション・コーポレーションを通じて米ミネラル化粧品大手ベアエッセンシャルを買収することを決議した。同年3月8日に現金公開買付けで発行済株式を取得して議決権の100.0%を握り、3月12日には買収目的子会社を消滅会社とする吸収合併で一本化した。取得原価は17億3,067万米ドルで、初の大型クロスボーダーM&Aであった。

背景

2008年度から始めた3ヵ年計画は、2010年度までに海外売上比率40%以上という数値目標を掲げていたが、世界同時不況により1年目の終了時点で計画どおりの達成は困難と判断されていた。2010年3月期の海外売上高比率は36.9%にとどまり、なかでもアメリカ向けは485億円と連結売上高の7.5%にすぎず、前期の8.0%から比率を落としていた。北米はSHISEIDOブランド一本で攻めあぐねていた市場であった。

内容

有価証券報告書は企業結合の理由として、新たなブランド価値の獲得、流通・販売・研究開発面での強力な補完関係、北米における事業基盤の強化を挙げている。取得原価の配分は翌期に確定し、のれん915億円を20年の定額法で償却すると定めたほか、顧客関連無形資産403億円と商標権399億円を計上した。受け入れた資産は2,144億円、引き受けた負債は580億円であった。買収資金の調達で有利子負債は2,144億円に膨らみ、格付は2010年3月にS&PがA+からAへ、ムーディーズがAa3からA1へ引き下げた。

含意

日本をオリジンとしアジアを代表するグローバルプレイヤーとなることをめざす経営ビジョンのもと、グローバル・マルチブランドカンパニーへ向けた一手であった。もっとものれんは2013年3月期に285億円、2017年12月期にはのれん・商標権など708億円を減損し、2021年12月にはベアミネラルを含む3ブランドが7億米ドルで譲渡され、規模を追った海外買収の難しさを残した。

いつ何が起きたか 7件
考察:買収で規模を得るという選択
考察

考察:買収で規模を得るという選択

この判断の核心は、自前で育てるには時間のかかる北米での地歩を、出来上がったブランドの買収で一気に埋めようとした点にある。3ヵ年計画の数値目標である海外売上比率40%以上は世界同時不況で達成が遠のき、アメリカ向けの売上は連結の7.5%にとどまっていた。17億3,067万米ドルという取得原価と、それを賄う借入で有利子負債が2,144億円へ膨らむこと、格付が2社から引き下げられることを承知で踏み切った背景には、時間を金で買う発想があっただろう。

もっとも、買った時点の収益力が買った後も続くとは限らない。売上は計画を下回り、のれんは2013年3月期に285億円、2017年12月期にはのれん・商標権を含め708億円が減損された。2017年12月期の有価証券報告書は、買収以降さまざまな取り組みを進めたものの当初計画したブランドの成長拡大を実現できていなかったと率直に記している。米州事業はその後もセグメント損失が続き、2021年12月に3ブランドは7億米ドルで譲渡された。規模を追う海外M&Aの最初の大型事例として、この決断は買った事業をどう伸ばし続けるかという問いを残している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

資生堂:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
資生堂:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2005年3月期 −55,478701,094 のれんの科目を立てる前で、営業権と連結調整勘定に分けて計上していた
2006年3月期 −49,794671,841 営業権21,471と連結調整勘定2,270を計上
2007年3月期 23,10349,742739,832
2008年3月期 22,19450,938675,864
2009年3月期 12,19735,405606,568
2010年3月期 11,85235,837775,445 取得は暫定処理で、投資額157,235を投資有価証券に含めて計上した
2011年3月期 94,122186,054739,120 取得原価の配分が確定し、のれん91,503と顧客関連・商標権を計上した
2012年3月期 84,539173,644720,707
2013年3月期 57,127150,692715,593 売上が計画を下回り、のれんの減損損失28,587を特別損失に計上した
2014年3月期 63,377166,732801,346 円安により外貨建てののれんの円換算額が増えた
2015年3月期 64,453167,121823,636
出所:資生堂 有価証券報告書 第106期〜第115期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)
出所:資生堂 有価証券報告書 第106期〜第115期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)

資生堂:買収した事業を含む米州事業の業績

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
資生堂:買収した事業を含む米州事業の業績
(百万円) 売上高セグメント利益 備考
2015年12月期 167,528△5,058 決算期の変更により2015年4月から12月までの9か月決算
2016年12月期 162,556△11,813
2017年12月期 140,413△10,288 英国分を欧州事業へ移した。ベアエッセンシャル関連の減損損失70,874を計上
2018年12月期 131,733△14,775
2019年12月期 124,323△11,385
2020年12月期 91,410△22,699 新型コロナウイルスの影響で減収し、セグメント損失は最大となった
2021年12月期 121,369△13,207 12月6日に3ブランドを譲渡し、事業譲渡益895と減損損失7,427を計上した
出所:資生堂 有価証券報告書 第111期〜第122期(セグメント情報、報告セグメントごとの売上高・利益又は損失)
出所:資生堂 有価証券報告書 第111期〜第122期(セグメント情報、報告セグメントごとの売上高・利益又は損失)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業の名称 Bare Escentuals, Inc. 事業の内容は化粧品等の販売
企業結合を行った主な理由 新たなブランド価値の獲得と北米における事業基盤の強化 流通・販売・研究開発面での強力な補完関係も理由に挙げている
取締役会の決議と契約の締結 2010年1月15日 買収目的子会社Blush Acquisition Corporationを通じた公開買付けと合併を決議した
企業結合日(株式取得) 2010年3月8日 現金を対価とする公開買付けにより発行済株式を取得した
企業結合日(吸収合併) 2010年3月12日 買収目的子会社を消滅会社、ベアエッセンシャルを存続会社とするデラウェア州法上の簡易合併
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式取得及び吸収合併 結合後企業の名称に変更はない
取得した議決権比率 100.0%
取得原価 1,730,677千米ドル 株式取得額1,633,296、ストックオプション買取費用66,970、条件付取得対価30,411千米ドル
条件付取得対価 30,411千米ドル 2011年度から3年間、契約の計算式でEBITDAが一定基準を超えた場合に旧経営陣へ支払う
のれんの金額 91,503百万円 20年間の定額法で償却。第110期は取得原価の配分が未了で暫定的な会計処理としていた
のれん以外の無形固定資産 顧客関連40,300百万円・商標権39,985百万円 顧客関連無形資産は10年償却、商標権は主に非償却
受け入れた資産・引き受けた負債 資産214,490百万円/負債58,006百万円 流動資産34,690・固定資産179,800/流動負債5,701・固定負債52,305
業績に与える影響の概算額 売上高8,099百万円/営業損失190百万円 期首に完了したと仮定した場合の差額。当該注記は監査証明を受けていない
連結に取り込んだ業績の期間 2010年3月8日から12月31日まで 第110期は損益を連結せず、投資額157,235百万円を投資有価証券に含めて計上していた
買収資金の調達と格付 有利子負債は214,446百万円へ増加 S&Pは2010年3月10日にA+からAへ、ムーディーズは3月25日にAa3からA1へ引き下げた
出所:資生堂 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)・第111期(2011年3月期)【企業結合等関係】、第110期【経営上の重要な契約等】
出所:資生堂 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)・第111期(2011年3月期)【企業結合等関係】、第110期【経営上の重要な契約等】
参考文献

参考文献

参考
  • 資生堂 有価証券報告書 第110期(2010年3月期)
  • 資生堂 有価証券報告書 第111期(2011年3月期)
  • 資生堂 有価証券報告書 第113期(2013年3月期)
  • 資生堂 有価証券報告書 第118期(2017年12月期)
  • 資生堂 有価証券報告書 第122期(2021年12月期)
  • 資生堂 有価証券報告書「第110期(2010年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】」
  • 資生堂 有価証券報告書「第111期(2011年3月期)【企業結合等関係】」
  • 資生堂 有価証券報告書「第113期(2013年3月期)【連結損益計算書 減損損失】」
  • 資生堂 有価証券報告書「第118期(2017年12月期)【連結損益計算書 減損損失】」
  • 資生堂 有価証券報告書「第122期(2021年12月期)【事業分離等関係】」

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