EUVマスク検査装置への集中開発と「世界で唯一の供給者」の地位確立

大手が降りた不確実な最先端技術に、100人規模の会社はなぜ賭けたか

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時期 2017年4月
意思決定者 岡林理 社長
論点 次世代半導体技術への先行投資とニッチ独占の是非
概要
半導体検査へ集中したレーザーテックが、実用化が不確実だった極端紫外線(EUV)リソグラフィのマスク検査装置へ集中開発を進め、2017年に世界初のマスクブランクス検査装置、2019年に世界初のパターンマスク検査装置を実用化して、EUVマスク検査を担う「世界で唯一の供給者」の地位を築いた経営判断。
背景
2009年に売上の約半分を占めた液晶事業を縮小して半導体検査へ集中した同社は、次の柱を探していた。EUVは最先端半導体の製造に不可欠になると見込まれたが、市場が立ち上がる時期は読めず、大手装置メーカーは投資を見送っていた。
内容
中堅規模ながらEUVマスク検査という最も難しい技術テーマへ経営資源を集中し、実波長で欠陥を捉える検査装置を先行開発した。2017年にマスクブランクス検査装置、2019年にパターンマスク検査装置を世界で初めて実用化し、EUVマスク検査の全工程を自社製品で網羅した。
含意
大手が採算の不確実性から降りたニッチへ、身軽なファブライト経営で先回りした賭けであった。EUV量産に不可欠な検査を独占的に担う立場が、台湾積体電路製造やインテルにとって代替不能な供給者としての地位と、突出した収益性をもたらした。
筆者の見解

唯一であることの、強さと危うさ

この判断の核心は、確実な市場が見えてから動くのではなく、不確実なうちに最難関へ先回りした点にある。大手が採算の読めなさから投資を見送ったEUVマスク検査へ、中堅企業が資源を集中できたのは、工場を持たず身軽に意思決定できるファブライト構造があってこそであった。小さいがゆえに大手が入らない隙間へ全力を注げたという逆説が、世界で唯一の供給者という稀有な地位を生んだとみることができる。

もっとも、唯一であることは、強さと危うさを併せ持つ。EUV量産に不可欠な検査を独占的に担う立場は突出した利益率をもたらす一方、業績は少数の先端半導体メーカーの投資意欲と半導体市況の波に強く左右される。顧客の集中と技術の一点依存は、独占の裏返しでもある。大手が降りたニッチで唯一の供給者になるという賭けは、次の世代の検査技術を先回りして仕込み続けられるかどうかに、その持続性がかかっているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

半導体集中の先に探した次の柱

2009年、社長に就いた岡林理氏は、売上の約半分を占めていた液晶事業を縮小し、経営資源を半導体検査へ集中させた。差別化のきかない事業を続ける危うさを断ち、技術で他社と差をつけられる領域へ絞り込む判断であった。だが半導体検査に賭けを絞ったところで、次にどの技術で勝つのかという問いは残った。工場を持たないファブライトの身軽さを持つ中堅企業が、次の柱をどこに置くかが問われていた[1]

目を付けたのが、極端紫外線(EUV)を用いる次世代のリソグラフィであった。EUVは5GやAIといった最先端の半導体製造に欠かせない技術になると見込まれ、その量産にはマスクの欠陥を捉える検査が要る。ただし市場が本格的に立ち上がる時期は読みにくく、開発の難度も高かったため、大手の装置メーカーは投資を見送っていた。誰も確実とは言えない技術に、資源を注ぐかどうかが判断の分かれ目であった[2]

決断

大手が降りたニッチへ先回りする

レーザーテックが選んだのは、最も難しいEUVマスク検査という一点へ資源を集中する道であった。2011年6月期の同社は従業員200人規模・売上高118億円の中堅企業で、数十億円規模の開発投資は身の丈に対して重かった。それでも、半導体集中を貫くなら最難関の技術から逃げないという判断で、EUV検査装置の独自開発へ本格的に踏み込んだ。岡林理氏は後にこの路線を、大手が降りたニッチ領域で成長を続ける戦略として語っている[3][4]

集中投資は、二つの世界初となって結実した。2017年、EUVマスクの土台となるブランクスの欠陥を捉える検査装置ABICSを世界で初めて実用化した。続く2019年には、実波長のEUV光でパターンマスクの欠陥を捉える検査装置ACTISを世界で初めて実用化し、EUVマスク検査の全工程を自社製品で網羅した。大手が参入をためらう間に、同社は誰も持たない検査技術を先に築き上げた[5]

結果

唯一の供給者がもたらした突出した収益

EUVマスク検査を担う装置を世界で唯一供給する立場は、最先端半導体メーカーにとって代替のきかない位置を同社に与えた。EUV量産を進める台湾積体電路製造、インテル、サムスン電子が主要な顧客となり、各社の投資拡大がそのまま同社の受注へ結びついた。工場を持たないファブライト経営とニッチ独占が重なり、装置1台あたりの付加価値と利益率は突出して高かった[6]

数字は劇的に伸びた。岡林理氏の就任時に約86億円だった売上高は、2025年6月期に2,514億円へおよそ29倍へ拡大し、営業利益率は48.8%という過去最高の水準に達した。岡林理氏は、就任後に時価総額が200倍規模へ伸びた変貌の背景を、ニッチ分野での独占と研究開発の継続投資の両面で説明した。赤字に沈んでいた小さな検査装置メーカーが、EUVへの一点集中によって半導体装置業界の上位へ躍り出た[7][8]

出典・参考