この統合が示すのは、経済合理性が整っていても、大株主との合意形成という関門を越えなければ案件が進まないという現実であったと推察される。出光と昭和シェルの組み合わせは、需要が縮む装置産業で規模を確保する手段として一定の合理性を備えていた。それでも成立に約3年半を要したのは、創業家という拒否権を持ちうる大株主の同意が不可欠だったためである。株式交換契約に先立つ2018年7月10日、取締役会が決議したのが昭和シェルとの合意書と並ぶ大株主との合意書であり、そこには株主総会での賛成の議決権行使と統合後の運営が条件として並んだ。案件の実質的な関門が、相手方ではなく自社の株主名簿の側にあったことを、この決議の順序が物語っている。
もっとも、財務の側から見れば、この統合は驚くほど穏当に着地している。取得原価5,794億円のうち3,962億円は自社株の交付で賄われ、現金の流出は取得関連費用804百万円にとどまった。先行取得分からは段階取得に係る差益172億円が立ち、資本剰余金は3,308億円増えて、ネットD/Eレシオは1.0倍のまま動いていない。"対等の精神"を掲げながら完全子会社化という非対等の形をとった構図には、人事や企業文化の面で緊張を残す余地があったとも読める。それでも、のれん1,714億円を20年で均等に償却しながら2024年3月期に1,312億円まで落とし、ネットD/Eレシオを0.7倍へ下げた足取りは、この案件が財務の重荷にならなかったことを示している。