昭和シェルと経営統合(2018年・出光興産の決断)

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論点 統合の交換比率をどう決めるか
出光興産:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
交換比率1対0.41の株式交換で昭和シェル石油を完全子会社に

何をなぜ決めたか:交換比率1対0.41の株式交換で昭和シェル石油を完全子会社に

概要

出光興産を株式交換完全親会社、昭和シェル石油を株式交換完全子会社とする株式交換が、2019年4月1日に効力を生じた。企業結合直前に保有していた議決権比率31.62%に68.38%を追加取得し、取得後の議決権比率は100.0%となった。昭和シェルの普通株式1株に対して出光興産の普通株式0.41株を割当交付し、交付株式数は104,411,875株、うち10,486,357株は自己株式を充当した。取得原価は5,794億74百万円で、直前に所有していた株式の企業結合日における時価1,832億31百万円と、交付した株式の時価3,962億43百万円の合計である。

背景

企業結合を行った主な理由に挙げたのは、短期的にはシナジー創出を最大化し屈指の競争力を持つ企業体を目指しつつ、中長期的には事業構成の最適化や環境・社会・ガバナンスへの取組み等を推進し、レジリエントな企業体への進化を図ることであった。

決議は2018年に二度に分かれる。7月10日の取締役会で、大株主である日章興産・出光正和氏との合意書と、昭和シェル石油との経営統合に関する合意書の締結を決議した。前者は株式交換の実施、条件が満たされていることを前提とする株主総会での大株主による賛成の議決権行使、株式交換後の運営の3点で構成される。

内容

10月16日の取締役会で株式交換契約の締結を決議し、契約は12月18日の両社臨時株主総会で承認された。交換比率は第三者算定機関の算定結果を参考に、相互のデュー・ディリジェンスの結果と両社の株主の利益等を踏まえ、両社の株価状況を主たる基準として決めている。取得企業を出光興産としたのは、株式を対価として昭和シェルの全株式を取得したためである。受け入れた資産は1兆2,540億60百万円、引き受けた負債は8,295億84百万円、取得関連費用はアドバイザー費用等804百万円であった。

含意

発生したのれんは1,714億2百万円で、各事業分野における協働によって期待されるシナジー等の超過収益力を原因とし、20年間の均等償却とした。先行して保有していた株式の簿価と時価の差からは、段階取得に係る差益172億15百万円が特別利益に立った。統合は2019年7月1日の簡易吸収分割で昭和シェルの全事業を出光興産へ承継して一体化へ進み、株主還元では2019年度から2021年度の当期純利益目標を累計5,000億円以上とし、その50%またはそれを上回る還元を目指す方針を掲げた。

いつ何が起きたか 9件
考察:大株主との合意形成という関門
考察

考察:大株主との合意形成という関門

この統合が示すのは、経済合理性が整っていても、大株主との合意形成という関門を越えなければ案件が進まないという現実であったと推察される。出光と昭和シェルの組み合わせは、需要が縮む装置産業で規模を確保する手段として一定の合理性を備えていた。それでも成立に約3年半を要したのは、創業家という拒否権を持ちうる大株主の同意が不可欠だったためである。株式交換契約に先立つ2018年7月10日、取締役会が決議したのが昭和シェルとの合意書と並ぶ大株主との合意書であり、そこには株主総会での賛成の議決権行使と統合後の運営が条件として並んだ。案件の実質的な関門が、相手方ではなく自社の株主名簿の側にあったことを、この決議の順序が物語っている。

もっとも、財務の側から見れば、この統合は驚くほど穏当に着地している。取得原価5,794億円のうち3,962億円は自社株の交付で賄われ、現金の流出は取得関連費用804百万円にとどまった。先行取得分からは段階取得に係る差益172億円が立ち、資本剰余金は3,308億円増えて、ネットD/Eレシオは1.0倍のまま動いていない。"対等の精神"を掲げながら完全子会社化という非対等の形をとった構図には、人事や企業文化の面で緊張を残す余地があったとも読める。それでも、のれん1,714億円を20年で均等に償却しながら2024年3月期に1,312億円まで落とし、ネットD/Eレシオを0.7倍へ下げた足取りは、この案件が財務の重荷にならなかったことを示している。

数字で見る 4表

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図と表

出光興産:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
出光興産:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産合計総資産 備考
2014年3月期 39,42154,3272,995,063
2015年3月期 10,38125,2132,731,001
2016年3月期 9,69923,5662,402,118
2017年3月期 7,62322,1242,641,633
2018年3月期 6,72320,7682,920,265
2019年3月期 7,21424,7502,890,307 株式交換契約を締結した期。企業結合日は翌期首の2019年4月1日
2020年3月期 167,104332,1083,886,938 企業結合で171,402のれんが発生。総資産は約1兆円増えた
2021年3月期 159,006319,2523,954,443
2022年3月期 149,691308,6284,601,183
2023年3月期 140,481290,2354,865,370
2024年3月期 131,228272,0275,012,295 20年均等償却により、のれんは年約9,200ずつ減っている
出所:出光興産 有価証券報告書 第99〜109期(連結貸借対照表)
出所:出光興産 有価証券報告書 第99〜109期(連結貸借対照表)

出光興産:燃料油(2019年3月期までは石油製品)セグメントの推移

外部顧客への売上高(百万円)セグメント利益率(%)
出光興産:燃料油(2019年3月期までは石油製品)セグメントの推移
(百万円) 外部顧客への売上高セグメント利益 備考
2014年3月期 4,116,45618,922
2015年3月期 3,693,908△111,634 原油価格の下落による在庫評価の影響で損失
2016年3月期 2,750,970△67,350
2017年3月期 2,438,22576,999
2018年3月期 2,870,80288,639
2019年3月期 3,488,93856,499 石油製品の区分。翌期の組替後は燃料油3,270,152・利益43,628
2020年3月期 4,820,992△76,692 昭和シェルを連結し区分を燃料油へ変更。期末の原油価格急落が響いた
2021年3月期 3,593,399143,199
2022年3月期 5,219,413360,446
2023年3月期 7,403,86160,137
2024年3月期 7,080,754209,742
出所:出光興産 有価証券報告書 第99〜109期【セグメント情報】(各期の当期欄)
出所:出光興産 有価証券報告書 第99〜109期【セグメント情報】(各期の当期欄)

出光興産:ネットD/Eレシオの推移

ネットD/Eレシオ(倍)
出光興産:ネットD/Eレシオの推移
(倍) ネットD/Eレシオ 備考
2014年3月期 1.3
2015年3月期 1.5
2016年3月期 1.6
2017年3月期 1.6
2018年3月期 0.9 2018年3月期末の有利子負債残高は8,936億円
2019年3月期 1 期末の有利子負債残高は9,514億円。運転資金需要で前期から増えた
2020年3月期 1 株式交換に伴う資本剰余金の増加3,308億円で自己資本も膨らんだ
2021年3月期 1
2022年3月期 0.9
2023年3月期 0.9
2024年3月期 0.7
出所:出光興産 有価証券報告書 第103〜109期【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】(有利子負債は短期借入金・コマーシャル・ペーパー・社債・長期借入金およびリース債務)
出所:出光興産 有価証券報告書 第103〜109期【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】(有利子負債は短期借入金・コマーシャル・ペーパー・社債・長期借入金およびリース債務)

経営統合の条件

経営統合の条件
科目 概要 備考
被取得企業 昭和シェル石油 事業の内容は石油製品の製造・販売等
企業結合の法的形式 出光興産を完全親会社とする株式交換 合併ではない。昭和シェルは法人格を残したまま完全子会社となった
企業結合日 2019年4月1日 株式交換契約の締結は2018年10月16日、両社の臨時株主総会での承認は同年12月18日
株式交換比率 出光興産1:昭和シェル0.41 第三者算定機関の算定結果を参考に、両社の株価状況を主たる基準として決定した
交付株式数 104,411,875株 割当交付に際し、保有する自己株式10,486,357株を充当した
取得した議決権比率 100.0% 企業結合直前の保有は31.62%。企業結合日に68.38%を追加取得した
取得企業を決定するに至った根拠 株式を対価として昭和シェルの全株式を取得 取得企業は出光興産
取得原価 579,474百万円 直前所有株式の時価183,231百万円と、交付した株式の時価396,243百万円の合計
取得関連費用 804百万円 アドバイザー費用等
段階取得に係る差益 17,215百万円 取得原価と、取得するに至った取引ごとの取得原価の合計額との差額
のれん 171,402百万円 20年間の均等償却。各事業分野の協働で期待されるシナジー等の超過収益力が発生原因
受け入れた資産 1,254,060百万円 流動資産594,095百万円・固定資産659,965百万円
引き受けた負債 829,584百万円 流動負債585,437百万円・固定負債244,147百万円
大株主との合意書 2018年7月10日締結 日章興産・出光正和氏と、株式交換の実施・総会での賛成・統合後の運営を合意
統合後の一体化 2019年7月1日の簡易吸収分割 昭和シェルの全事業を出光興産へ承継。共通支配下の取引として処理した
出所:出光興産 有価証券報告書 第104期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】・第105期(2020年3月期)【企業結合等関係】
出所:出光興産 有価証券報告書 第104期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】・第105期(2020年3月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • 出光興産・昭和シェル石油 適時開示「株式交換契約の締結及び経営統合に関するお知らせ」
  • 出光興産 有価証券報告書「第104期(2019年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 出光興産 有価証券報告書「第105期(2020年3月期)【企業結合等関係】」
  • 出光興産 有価証券報告書「第106期(2021年3月期)【企業結合等関係】」

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