筆者の見解
「健全な赤字」から資本効率経営へ——この転換をどう見るか
この経営判断の核心は、宮崎輝氏という一人の経営者に31年間集中してきた意思決定の構造そのものを、後任の経営陣が資本効率という客観的な指標へ置き換えようとした点にある。"健全な赤字"は右肩上がりの成長期には多角化を前へ進める推進力であったが、成長が止まれば個々の事業の非効率を覆い隠す仕組みへと変わりかねない。宮崎氏の急逝という偶発的な契機がなければ、この転換がどれほど遅れていたかは分からない。
もっとも、部門別バランスシートの導入から食品・酒類事業の売却完了まで10年を要した歩みは、旭化成が雇用を守りながら事業を組み替える経路を選んだ結果でもある。段階を踏んだ譲渡という手法は、その後のマテリアル・住宅・ヘルスケアという三事業体制、さらに2010年代以降の海外M&Aによる成長戦略へと引き継がれていった。"拡大"の31年から"選択と集中"の30年へ——この転換点は、旭化成のその後の骨格を規定したとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月