伊勢丹と三越が経営統合(2007年・三越伊勢丹HDの決断)

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論点 百貨店同士の経営統合に応じるか
三越伊勢丹HD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
共同持株会社の設立による百貨店同士の統合と、比率に表れた力関係

何をなぜ決めたか:共同持株会社の設立による百貨店同士の統合と、比率に表れた力関係

概要

2007年8月23日、三越と伊勢丹は株式移転により共同で持株会社を設立することに合意し、両社の取締役会が統合契約書の締結を決議した。同年11月20日の臨時株主総会で承認を受け、2008年4月1日に三越伊勢丹ホールディングスが発足して東京証券取引所に上場した。統合初年度にあたる2009年3月期の連結売上高は1兆4,266億円で、百貨店として国内最大の規模となった。

背景

百貨店は総人口の減少による市場規模の縮小に加え、総合スーパー、ドラッグストア、量販店、コンビニエンスストアといった他業態との競争激化に直面していた。2007年には大丸と松坂屋がJ.フロント リテイリングを、阪急と阪神がエイチ・ツー・オー リテイリングを相次いで発足させている。両社はさまざまな提携のあり方を模索したが、協働してサプライチェーン改革に取り組み経営資源を最大限に活用するには、単なる業務提携にとどまらず一つのグループとなることが最良の選択だとの結論に至った。

内容

株式移転による共同持株会社方式で、伊勢丹の普通株式1株に持株会社の1株、三越の普通株式1株に0.34株を割り当てた。三越の株主へ交付した株式は167,491,601株、その評価額は289,090百万円で、取得原価は290,137百万円となった。会計上の被取得企業は三越、取得した議決権比率は100%である。伊勢丹の武藤信一社長が会長兼CEO、三越の石塚邦雄社長が社長兼COOに就任した。

含意

企業結合時の時価純資産が取得原価を上回ったため、負ののれんが66,171百万円発生し、5年間の均等償却で毎期およそ13,234百万円が営業外収益に立った。2010年3月期は経常利益19,730百万円のうち13,275百万円をこの償却が占めている。統合の効果が損益に現れるより先に、統合の会計処理が利益を支える期が続いたことになる。

いつ何が起きたか 8件
考察:安く引き取ったということ
考察

考察:安く引き取ったということ

この統合の会計上の顔つきは、負ののれんに表れている。伊勢丹が三越を取得した原価は290,137百万円で、企業結合時に受け入れた時価純資産はそれを66,171百万円上回っていた。老舗の看板と不動産を、帳簿の上では価値より安く引き取った格好である。移転比率でも経営体制でも躍進する側の伊勢丹が主導権を掌握し、対等統合の体裁の裏にある力関係ははっきりしていた。規模で業界首位に立つこと自体は、合意から発足までの8か月足らずで実現している。

もっとも、安く引き取れたことと、引き取ったものを使いこなせることとは別である。負ののれんは5年で均等に償却され、その戻り益が発足直後の利益を下から支えた。一方で持株会社の設立から事業会社の合併までには3年を要し、統合を主導した経営者を2010年に失ったことも、求心力の維持という点で重い意味を持ったと考えられる。償却が終わった2013年3月期から先、規模を実体のある強みへ転化できたのかどうか——百貨店という成熟産業の統合は、その問いを今に投げかけているのだろう。

数字で見る 3表

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図と表

三越伊勢丹HD:負ののれんの償却と経常利益の推移

負ののれん償却額(百万円)負ののれん償却額率(%)
三越伊勢丹HD:負ののれんの償却と経常利益の推移
(百万円) 負ののれん償却額経常利益 備考
2009年3月期 13,23535,052 2008年4月1日に発足。負ののれん66,171の5年均等償却が始まった
2010年3月期 13,27519,730 経常利益19,730のうち13,275を負ののれんの償却が占めた
2011年3月期 13,23427,093
2012年3月期 13,23438,452
2013年3月期 13,23434,217 5年間の均等償却はこの期で終わった
2014年3月期 −38,440 負ののれんの償却は終了。営業外収益の下支えがなくなった最初の期
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第1〜6期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第1〜6期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)

三越伊勢丹HD:売上高と当期純利益の推移

売上高(百万円)当期純利益率(%)
三越伊勢丹HD:売上高と当期純利益の推移
(百万円) 売上高当期純利益 備考
2009年3月期 1,426,6844,683 統合初年度。三越の業績は2008年4月1日から12か月分を取り込んだ
2010年3月期 1,291,617△63,521
2011年3月期 1,220,7722,640
2012年3月期 1,239,92158,891
2013年3月期 1,236,33325,292
2014年3月期 1,321,51221,166
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第5期・第6期(主要な経営指標等の推移)
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第5期・第6期(主要な経営指標等の推移)

経営統合の条件

経営統合の条件
科目 概要 備考
統合の合意 2007年8月23日 両社の取締役会が、株式移転による経営統合に関する統合契約書の締結を決議した
株式移転計画書の作成 2007年10月4日 統合契約書に基づき、両社の取締役会が作成した
臨時株主総会の承認 2007年11月20日 両社が持株会社の完全子会社となることについて承認を受けた
企業結合日 2008年4月1日 同日、持株会社の普通株式を東京証券取引所に上場した
企業結合の法的形式 株式移転 結合後企業の名称は株式会社三越伊勢丹ホールディングス
被取得企業 株式会社三越 百貨店業。会計上の取得企業は伊勢丹
取得した議決権比率 100% 連結財務諸表に含めた三越の業績は2008年4月1日から2009年3月31日まで
株式移転比率 伊勢丹1:三越0.34 伊勢丹の普通株式1株に持株会社の1株、三越の普通株式1株に0.34株を割り当てた
交付株式数 167,491,601株 三越の株主へ交付した分。評価額は289,090百万円
取得原価 290,137百万円 取得の対価289,090百万円、取得に直接要した支出939百万円、新株予約権価額107百万円
負ののれん 66,171百万円 企業結合時の時価純資産が取得原価を上回ったことによる。5年間で均等償却
伊勢丹側の算定機関 三菱UFJ証券 市場株価法0.24〜0.35、類似会社比較法0.14〜0.35、DCF法0.26〜0.45
三越側の算定機関 大和証券エスエムビーシー DCF法0.31〜0.44、市場株価法0.30〜0.32。基準日は憶測報道前日の2007年7月24日
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第1期(2009年3月期)【企業結合等関係】・【沿革】
出所:三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書 第1期(2009年3月期)【企業結合等関係】・【沿革】
参考文献

参考文献

参考
  • 三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書「第1期(2009年3月期)【企業結合等関係】Ⅰ.パーチェス法適用」
  • 三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書「第1期(2009年3月期)【沿革】」
  • 三越伊勢丹ホールディングス 有価証券報告書「第5期(2013年3月期)・第6期(2014年3月期)【主要な経営指標等の推移】」

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