Prottの終了(2024年・グッドパッチの決断)

更新:
グッドパッチ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)

何をなぜ決めたか:10年続けた自社ツールの収益化断念と、受託の外の収益源づくりの現在地

概要
概要

2024年7月12日、グッドパッチはプロトタイピングツール「Prott」のサービスを8月31日で終了すると公表した。理由は事業の収益化が困難という判断で、業績への影響は軽微とした。2014年1月のリリースから10年余りを経て、自社のデザインツールのうち最も古いサービスが閉じた。

自社ツールの試みはProttだけではない。VR/ARのデザインツール「Athena」は2022年6月に終了し、2020年9月に公開したオンラインホワイトボード「Strap」だけが残った。Prott終了後も、デザインプラットフォーム事業は2025年8月期に54百万円、2026年8月期に59百万円の営業損失を計上している。

背景
背景

Prottは画面遷移の動きをプログラミング無しで試作できるツールで、2015年9月にグッドデザイン賞を受け、2020年8月末の有料登録は1,182アカウントだった。プラットフォーム事業は、主力のデザインパートナー事業の地位を強くする関連事業だった。2020年9月にStrapを加えると、Prottの資源をStrapの機能開発に振り向けた。

ソフトウェアの売上は伸びなかった。Strap & Prottの売上高は2020年8月期の104百万円から2021年8月期の79百万円へ減少し、Prottの減少がStrapの成長を上回る時期が続いた。2022年8月期の第4四半期にStrapの売上が初めてProttを上回り、2023年8月期の第4四半期にはStrapが区分の7割を占めた。それでも区分の合計は2023年8月期で84百万円にとどまった。

内容
内容

終了を公表した資料は、同じ箇所でStrapについてもMRRの増加が伸び悩み、成長が鈍化していると認め、新しい料金形態で巻き返す方針を示した。Prott単体の売上と損益は、決算説明資料にも有価証券報告書にも開示が無い。区分としてのStrap & Prottは2024年8月期に88百万円で、ReDesignerの257百万円の約3分の1にあたる。

2024年10月の通期決算では、Strapの機能開発への積極投資を抑え、追加投資は新規施策の効果を見定めてから検討するとした。2024年8月期の報告セグメントはデザインパートナー事業の利益128百万円に対し、プラットフォーム事業の損失が93百万円で、連結の営業利益は34百万円だった。

沿革:意思決定前後の出来事12件
考察:受託の利益で支えた自社ツール
考察

考察:受託の利益で支えた自社ツール

なぜ収益化できないサービスを10年持ち続けたのか。受託だけに絞れば、デザイナーの人数が売上の上限になる。受託への集中という選択肢もあったが、Prottは受託の外で売上を積む数少ない手段で、デザインの現場に自社の名前を届ける道具でもあった。2015年にグッドデザイン賞を受けた実績は、受託の信用にも働いたのだろう。売却や早期の撤退より、持ち続ける価値のほうが大きく映ったと思われる。

ただ、その位置づけは収益の責任を曖昧にした。プラットフォーム事業はデザインパートナー事業を支える関連事業とされ、赤字は受託の利益で賄える構造にあった。2024年8月期の連結営業利益34百万円は、受託の利益128百万円から93百万円の損失を差し引いた姿である。受託の利益が減少すると、自社ツールの損失はそのまま連結の利益の大半を消す規模になっていた。受託の外に作るはずの収益源が、受託の稼ぎに依存していたことになる。

Prott単独の試みは、収益化に至らなかった。終了後もプラットフォーム事業の損失は54百万円、59百万円と続き、Prottの整理だけでは赤字が解消していない。後継のStrapも既存サービスの維持へ移り、ソフトウェアの売上は65百万円にとどまる。受託の外に収益源を作る試みが成功したと言えるのは、KitoryとHRmony AIの月額課金でプラットフォーム事業の損失を解消できたときである。

Yutaka Sugiura, 2026年11月

数字で見る

数値:意思決定前後の事業数値2件

グッドパッチ:デザインプラットフォーム事業の売上高とセグメント利益の推移

売上高(百万円)セグメント利益率(%)

Prott終了後も、2026年8月期のセグメント損失は59百万円となった

グッドパッチ:デザインプラットフォーム事業の売上高とセグメント利益の推移
(百万円)売上高セグメント利益備考
2020年8月期213△56Anywhereを除く組替後。組替前は売上568、利益26
2021年8月期264△55Anywhereを除く組替後。組替前は売上745、利益41
2022年8月期281△146Anywhereを除く組替後。組替前の利益は106
2023年8月期322△96
2024年8月期347△93Prottの終了を決定
2025年8月期389△54
2026年8月期404△59決算短信の数字。M&A関連費用を除く利益は△50
出所:グッドパッチ 2021年8月期 通期決算説明資料(2019年8月期と組替前の数字) / グッドパッチ 2024年8月期 通期決算説明資料、2025年8月期 通期決算説明資料(組替後の数字) / グッドパッチ 2026年8月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
出所:グッドパッチ 2021年8月期 通期決算説明資料(2019年8月期と組替前の数字) / グッドパッチ 2024年8月期 通期決算説明資料、2025年8月期 通期決算説明資料(組替後の数字) / グッドパッチ 2026年8月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

グッドパッチ:デザインプラットフォーム事業のサービス別売上高の推移

ReDesigner(百万円)Strap & Prott(百万円)

2020年8月期に104百万円あったソフトウェアの売上は65百万円に減少した

グッドパッチ:デザインプラットフォーム事業のサービス別売上高の推移
(百万円)ReDesignerStrap & Prottその他備考
2020年8月期9210417その他の大半はAthena
2021年8月期1347950その他の大半はAthena
2022年8月期194833Athenaは2022年6月に終了
2023年8月期236841
2024年8月期257881Prottの終了を決定
2025年8月期3066715この期からStrapのみ
2026年8月期3256513決算説明資料の図の数字
出所:グッドパッチ 2022年8月期 通期決算説明資料、2024年8月期 通期決算説明資料、2026年8月期 通期決算説明資料 / グッドパッチ 有価証券報告書 第12期(2023年8月期)〜第14期(2025年8月期)【注記事項】(収益認識関係)
出所:グッドパッチ 2022年8月期 通期決算説明資料、2024年8月期 通期決算説明資料、2026年8月期 通期決算説明資料 / グッドパッチ 有価証券報告書 第12期(2023年8月期)〜第14期(2025年8月期)【注記事項】(収益認識関係)
人物:意思決定前後の取締役5名

取締役5名(2023年11月株主総会決議)

区分役員名役職
取締役業務執行担当領域
業務執行兼務土屋尚史取締役:代表取締役社長業務執行:担当:
槇島俊幸取締役:取締役執行役員CFO業務執行:担当:
独立役員広木大地取締役:取締役業務執行:担当:
佐藤あすか取締役:取締役業務執行:担当:
小塚裕史取締役:取締役業務執行:担当:
この一覧は2023年11月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

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