米Wiltron買収による計測器グローバル化への社運を賭けた一手
電電公社に寄り添ってきた国内計測メーカーは、世界へ出るために何を賭けたか
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- 概要
- 1990年2月、アンリツが米国のマイクロ波計測専業メーカーWiltron Companyを買収し、北米での技術ブランドと販売網を一挙に取り込んだ経営判断。当時の純利益の何倍もの資金を投じた「社運を賭けた」買収で、同社のグローバル化の足場となった。
- 背景
- 安立電気からアンリツへ改称して間もない同社は、電電公社向けの通信機器と国内中心の計測事業を主軸としていた。通信のグローバル化で顧客が世界へ広がるなか、米HPなど世界大手と伍する海外の足場を持たないことが弱みとなっていた。
- 内容
- マイクロ波計測に強い米Wiltronを買収し、北米市場でのマイクロ波・RF計測の拠点と米国大手通信機器メーカーへのパイプを得た。買収したAnritsu Companyは、以後の通信計測のグローバル供給の重要拠点となった。
- 含意
- 純利益を何倍も上回る資金を海外企業の買収へ投じた点に、国内依存から抜け出す覚悟がうかがえる。日本と海外拠点のシナジー創出には時間を要したが、この足場が1990年代の2G・3G移動体通信の世界展開を牽引した。
身の丈を超える買収が運んだもの
この判断の重さは、金額そのものよりも、賭けの性格にある。国内で堅実に稼いできた会社が、純利益を何倍も上回る資金を海外企業の買収へ投じるのは、失敗すれば経営を揺るがしかねない選択であった。それでも踏み込んだのは、通信が世界へ広がる時代に、国内の強みだけでは早晩通用しなくなるという読みがあったためとみることができる。守って稼ぐより、世界へ出る足場を先に押さえるという発想が、ここにうかがえる。
もっとも、買うことと、根づかせることは別であった。シナジーが実るまでに十数年を要した事実は、海外企業の買収が資金だけでは完結せず、人材と運営のノウハウを地道に積む時間を必要とすることを示している。それでも、この足場がなければ、2Gから5Gへと続く移動体通信の世界市場でアンリツが主役の一角を占めることは難しかった。社運を賭けた一手は、すぐの果実ではなく、次の時代の主力を運ぶ土台として実ったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
電電公社に寄り添った国内メーカー
1985年に安立電気からアンリツへ改称した同社は、電電公社向けの通信機器と、国内を中心とする計測事業を主軸としていた。公衆電話や通信インフラの整備に売上の多くを支えられ、事業の輪郭は国内市場に強く結びついていた。計測器の技術は蓄えていたものの、その販路は国内に偏り、世界の通信計測市場で存在感を示すだけの海外基盤を欠いていた[1]。
通信そのものが世界へ広がるなかで、国内に閉じた事業のかたちは弱みへ転じていた。後に社長を務めた塩見昭氏は、ITの進展で世界同時に情報が手に入る時代には、外国で勝てる力を持たなければ国内でも勝てないと語っている。顧客の通信事業者や機器メーカーが世界に拠点を広げる以上、それに応えられる海外の足場が要る。米ヒューレット・パッカードなど世界大手と伍していくには、国内での強みだけでは届かなかった[2]。
決断
マイクロ波の名門を買い、北米に足場を築く
1990年2月、アンリツは米国のWiltron Companyを買収した。Wiltronはマイクロ波計測機器の専業メーカーで、米国市場での技術ブランドと販売網を持っていた。この買収でアンリツは、北米でのマイクロ波・RF計測ビジネスの足場と、米国大手通信機器メーカーへのパイプを一挙に得た。日本の計測メーカーが米国の専業企業を買う事例は、当時の海外M&Aのなかでも珍しかった[3][4]。
この買収は、規模の面でも異例であった。後年の報道によれば、投じた資金は260億円にのぼり、当時の純利益の何倍もの金額を海外企業へ振り向けた計算になる。同記事は「社運を賭けての買収といっても過言ではなかった」と評している。国内で堅実に稼いできた会社が、世界へ出る足場を得るために、それまでの身の丈を超える賭けに踏み込んだ判断であった[5]。
結果
実りまでの時間と、モバイル計測への足場
買収の成果は、すぐには表れなかった。2008年のアニュアルレポートで戸田博道社長は、Wiltron買収をグローバル化の大きなステップと位置づけつつ、日本と海外拠点のシナジー創出には時間を要したと率直に振り返っている。買った拠点を自社の一部として動かすには、名実ともにグローバル企業として展開するためのノウハウの蓄積と人材の育成が要り、その手応えを得るまでに十数年を費やした[6]。
それでも、この足場が後の主力事業を運んできた。買収したAnritsu Companyの取扱品は、1990年代を通じて携帯電話システムの試験計測機器へと姿を変え、2G・3G移動体通信が世界で立ち上がる時期にアンリツ全体のグローバル展開を牽引した。国内の計測メーカーが世界の通信計測で戦う土台は、この買収から始まった。今日、5Gスマートフォンの開発計測で米キーサイトと世界市場を分け合う位置も、その延長にある[7]。
- アンリツ 有価証券報告書 第99期(2025年3月期)【沿革】
- 日経産業新聞(2012年3月)
- アンリツ アニュアルレポート2008
- 情報通信ジャーナル 2000年9月号「塩見昭社長インタビュー」
- アンリツ 会社年鑑(単体業績)