ニデック 三協精機の買収 経営不振に陥った精密機器メーカーを傘下に収めての立て直し

更新:

時期 2003年10月
当時の社長 永守重信
論点 業界再編・淘汰のなかでの不振な競合の買収と再建
何をなぜ決めたか
概要

2003年10月、日本電産はHDD用の流体動圧軸受モータで競合していた三協精機製作所の第三者割当増資を引き受け、57,800,000株を発行価額216円で取得して筆頭株主となった。1946年6月に諏訪市で創立した精密機器メーカーは、3期続けて経常損失を計上し、2004年3月期には287億17百万円の当期純損失を計上していた。

2004年1月にはグループ5社を加えた2回目の割当30,000,000株を引き受けて子会社とし、永守重信氏は同年3月に代表取締役会長(CEO)へ就任した。2005年10月、商号は日本電産サンキョーへ改まった。

背景

三協精機はHDD用モータの有力企業で、次世代のFDBモータで日本電産に挑む勢いを見せていたが、2001年にフィリピンへ建てた新工場が受注不足で稼働せず、2003年には人員削減に追い込まれた。連結売上高は2002年3月期の1,095億46百万円から2004年3月期の1,068億9百万円へ減少し、経常損失は3期で159億32百万円に積み上がった。

2003年6月には資本準備金90億12百万円を取り崩して欠損をてん補し、総資産は1,119億80百万円から934億95百万円へ縮んだ。かつてミネベアの敵対的買収を銀行・取引先・労働組合の結束で退けたのちも、単独での再建は難しくなっていた。

内容

永守重信氏は、精密モータや部品の業界には会社が多すぎ、本来より遅れて淘汰と再編が動き出したと見ていた。日本電産は2003年10月1日に57,800,000株を、2004年1月31日には日本電産コパルなどグループ5社と合わせて30,000,000株を発行価額513円で引き受け、払込総額は2回で278億74百万円に達した。三協精機の資本金は165億75百万円から352億70百万円へ積み上がる。

握った議決権は55.6%、うち2.1%はグループ会社を通じた間接所有である。永守重信氏は2003年10月に最高顧問、2004年3月に代表取締役会長(CEO)へ就任して再建の陣頭に立った。

含意

三協精機は2005年3月期に経常利益112億46百万円・当期純利益177億95百万円へ反転し、2005年10月に日本電産サンキョーへ社名を変更した。日本電産の連結総資産は2003年3月期の3,053億18百万円から2004年3月期の4,337億6百万円へ膨らみ、精密機器の一大拠点が加わった。

大企業が不振の子会社を売却する業界再編で、日本電産が引受先を担った象徴的なM&Aだった一方、支えとなったFDB市場自体が、やがてHDDの後退とともに縮んでいく重さも抱えていた。日本電産サンキョーの売上高は2006年3月期の1,219億94百万円を頂に、2009年3月期には1,005億15百万円まで減少した。

いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
筆者の見解

淘汰の引受先という買収の、意味と重さ

この判断の核心は、価格でも規模でもなく、沈んだ競合を潰さずに引き受けたところにある。市場で株式を取得するのではなく、第三者割当増資を引き受けて新しい資本を注ぎ込む方式を採ったことに、その性格がよく表れている。払い込んだ278億74百万円は既存株主から株式を取得する対価ではなく、欠損をてん補したばかりの会社へ入る運転資金であり、支配権はその副産物として付いてきた。会社が多すぎて淘汰が遅れているという永守重信氏の業界観のもとで、日本電産は自ら再編の引受先となったのだといえる。

もっとも、救済の足場となったFDBモータは、HDDという土台の上に立っていた。パソコンとサーバの記憶装置としてHDDが伸びる限りは強みだが、記録媒体がやがて別の技術へ移れば、その拠点の重みも変わる。実際、日本電産サンキョーの売上高は2006年3月期を頂に落ち、2009年3月期には1,000億円台の入口まで戻っている。競合の事業全体を再生させたこの買収は、日本電産の精密機器事業を厚くした一方で、主力製品の盛衰になお左右される事業を一つ増やす選択でもあった。三協精機の再生は、次の収益源を車載や家電へ広げる大きな流れの、途中の一歩として見ることができる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
資本参加の条件

資本参加の条件

科目 概要 備考
対象会社 株式会社三協精機製作所 1946年6月に諏訪市で創立。精密小型モータ、機器装置、電子・光学部品
取得の法的形式 第三者割当増資の引受け 2003年6月に資本準備金9,012百万円を取り崩して欠損をてん補したうえでの増資
第1回の割当 2003年10月1日/57,800,000株 割当先は日本電産のみ。発行価額216円・資本組入額108円。払込額12,484百万円
第2回の割当 2004年1月31日/30,000,000株 日本電産25,000,000株とグループ5社5,000,000株。発行価額513円。払込額15,390百万円
払込総額 27,874百万円 2003年10月の12,484百万円と2004年1月の15,390百万円の合計
筆頭株主となった時期 2003年10月 第1回の第三者割当増資による
子会社となった時期 2004年1月 日本電産のほか日本電産コパル、トーソク、シバウラ、コパル電子、シンポが引受け
取得した議決権比率 55.6% 2006年3月末。うち間接所有2.1%。日本電産単独の持株比率は53.28%
三協精機の資本金 35,270百万円 2度の増資と転換社債の株式転換により16,575百万円から増加
永守重信氏の役職 代表取締役会長(CEO) 2003年10月に最高顧問へ就任し、2004年3月に代表取締役会長(CEO)
商号の変更 2005年10月1日 株式会社三協精機製作所から日本電産サンキョー株式会社へ

出所:日本電産サンキョー 有価証券報告書 第82期(2006年3月期)【沿革】【発行済株式総数、資本金等の推移】【大株主の状況】/日本電産 有価証券報告書 第33期(2006年3月期)【沿革】【関係会社の状況】【役員の状況】

三協精機(日本電産サンキョー)の連結業績

ニデック:三協精機(日本電産サンキョー)の連結業績

(百万円) 売上高経常損益当期純損益総資産 備考
2002年3月期 109,546△4,709△7,777111,980
2003年3月期 105,488△4,699△10,36899,660 2003年6月に資本準備金9,012を取り崩して欠損をてん補
2004年3月期 106,809△6,524△28,71793,495 2003年10月に日本電産が第三者割当増資を引き受け筆頭株主。2004年1月に子会社化
2005年3月期 122,31111,24617,79596,051 当期純利益は厚生年金基金の解散益等を含む
2006年3月期 121,99414,90112,672112,726 2005年10月に日本電産サンキョーへ改称
2007年3月期 112,62810,01910,287112,232
2008年3月期 108,9876,8455,041104,547
2009年3月期 100,5154,6651,87498,176
三協精機の売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常損益率(%)

出所:日本電産サンキョー 有価証券報告書 第82期(2006年3月期)・第85期(2009年3月期)【主要な経営指標等の推移】

日本電産の連結業績と総資産

ニデック:日本電産の連結業績と総資産

(百万円) 売上高当期純利益総資産 備考
2002年3月期 281,0696,461299,013
2003年3月期 298,6416,485305,318
2004年3月期 329,00311,448433,706 2004年1月に三協精機を子会社として連結。日本会計基準による最後の期
2005年3月期 462,27433,455484,173 米国会計基準へ移行。売上高は継続事業ベースで、移行前の開示は485,861
2006年3月期 511,58940,949565,970
2007年3月期 614,65139,932662,623
2008年3月期 728,75641,156671,714
2009年3月期 613,45828,353702,884
日本電産の売上高と当期純利益率
売上高(百万円)当期純利益率(%)

出所:日本電産 有価証券報告書 第33期(2006年3月期)・第36期(2009年3月期)【主要な経営指標等の推移】

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

救済型の買収2007年山崎製パン二度重ねた第三者割当増資の引受と、菓子の老舗の再建の抱え込み菓子事業の拡大と再建支援の引き受け
2016年シャープ官民ファンド案と台湾企業案の二者択一と、外資の傘下入り
2021年ヤマダホールディングス父娘騒動で疲弊した名門家具の救済と取り込み住関連事業への拡張と不振子会社の再建
2004年ダイエー自力での再建を断念し、公的な枠組みに委ねた経営の立て直し過剰債務と再建の枠組み
2005年西武ホールディングス後藤高志氏の招聘と、持株会社体制への移行によるグループ再建グループ再建の経営体制と資本構成
経営再建1997年ヤオハン会社更生下で競合を再建スポンサーに迎え、主力店を手放した末の存続策破綻後の再建スポンサーの選定と本業の存続
2013年めぶきフィナンシャルグループ足利銀行全株式の取得と、東証一部への直接上場による再出発国有化銀行の民営化と株式再上場
1993年オンキヨー36年に及ぶ親会社の傘からの離脱と、大朏直人氏個人による株式取得での独立資本の独立と、赤字からの再建
1993年日活ゴルフ場3カ所への80億円投資の行き詰まり本業の収益喪失と多角化投資の破綻
1980年ジェイテクト巨額赤字を背景にした第三者割当増資による資本関係の深化経営危機と資本関係
参考文献
出典・参考
  • 日経ビジネス 2003年7月14日号(日経BP社)
  • 日経ビジネス 2003年8月18日号(日経BP社)
  • ニデックインスツルメンツ株式会社 沿革
  • 日本電産サンキョー 有価証券報告書「第82期(2006年3月期)【沿革】【発行済株式総数、資本金等の推移】【大株主の状況】」
  • 日本電産サンキョー 有価証券報告書「第85期(2009年3月期)【主要な経営指標等の推移】」
  • 日本電産 有価証券報告書「第33期(2006年3月期)【沿革】【関係会社の状況】【役員の状況】」
  • 日本電産 有価証券報告書「第36期(2009年3月期)【主要な経営指標等の推移】」

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