TAKISAWA(滝澤鉄工所)への同意なきTOBと成立

相手の事前同意なく買収を宣言し、なぜ敵対にならずに成立したか——経産省「企業買収における行動指針」1号案件

更新:

時期 2023年7月
意思決定者 永守重信 会長兼CEO
論点 同意なき買収と新指針下の企業買収
概要
2023年7月13日、ニデックが、旋盤などの金属工作機械を製造するTAKISAWA(岡山市・旧滝澤鉄工所)に対し、事前の同意を得ないまま株式公開買付け(TOB)による完全子会社化を目指すと表明した経営判断。買付価格は1株2,600円で、直近株価の約2倍にあたる。永守重信会長兼CEOが主導した。
背景
ニデックは2021年の三菱重工工作機械の買収を皮切りに工作機械事業へ参入したが、市場で機種別比率3割を占める旋盤メーカーを傘下に持っていなかった。TAKISAWAへは2022年に子会社経由で資本業務提携を打診したが謝絶され、あらためて完全子会社化に踏み込んだ。
内容
TAKISAWA側の同意を取り付けないままTOBを宣言したため、ニデック初の敵対的買収になる可能性があった。だが表明の約2カ月後にTAKISAWA取締役会が賛同と応募推奨の意見を表明し、敵対的買収にはならなかった。市場価格の2倍という買付単価が判断を分けた。
含意
表明の直前に経済産業省が「企業買収における行動指針」(新指針)の策定を進めており、ニデックはこれを「望ましい買収」と位置づけて先取りしてみせた。同意なき買収が敵対に転じずに成立した新指針策定後の1号案件として、その後の企業買収の潮目を映す事例となった。
筆者の見解

買収実績が門前払いを許さなくなった

この案件が示したのは、買収する側と受ける側の力関係が、指針という一枚の文書で静かに組み替わったことである。会社法制上、日本は敵対的買収をやりにくい国ではなかった。それでも事業会社が二の足を踏んできたのは、「敵対的買収も辞さない会社」と見られることへの心理的な抵抗であったとされる。新指針が「真摯な提案なら同意なき買収をしてもよい」という筋道を公に示したことで、買収実績と資金力を備えた提案者が高いプレミアムを付けたとき、対象会社が理由もなく門前払いすることは難しくなった。ニデックがこの1号案件で先取りしてみせたのは、そうした地殻変動そのものであったとみられる。

もっとも、指針が真に変えたのが受ける側の態度なのか、それとも仕掛ける側の作法なのかは、なお見極めを要する。ニデックは2008年に東洋電機製造へ買収提案をした際、防衛策のもとで質問攻めに遭い提案を取り下げた過去を持つ。その同じ会社が、15年を経て市場価格の2倍を全株主に開いて提案を組み立て直し、今度は賛同を得た。指針が下げたのは受け手の防壁だけでなく、仕掛け手に真摯さを課すハードルでもあったのかもしれない。同意なき買収が常態となる時代に、この案件がどちらの側の変化を代表していたのかは、後続の事例の積み重ねのなかで測られていくことになる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

工作機械への参入と、欠けていた旋盤

ニデックは精密モーターを本業としながら、M&Aで事業領域を広げてきた。工作機械には2021年の三菱重工工作機械の買収を皮切りに参入し、研削盤や歯車加工機などを取り込んでいたが、金属を削り出す旋盤のメーカーは傘下になかった。ニデックの調べでは工作機械市場の機種別比率で旋盤は3割を占め、この製品群を欠いたままでは顧客に示せる自社製品の幅が限られる。旋盤が手に入れば提案できる製品の幅が広がるうえ、自社のモーターなどを内製で組み込んで他部門の製品を安く仕上げる余地も生まれる。旋盤の取り込みは、参入したばかりの工作機械事業を厚くするための欠落を埋める一手であった[1]

標的となったTAKISAWAは、岡山市に本社を置くCNC旋盤のメーカーである。近年の業績は芳しくなく、2022年度は売上高279億円、営業利益11億円、純利益3.3億円にとどまり、営業利益で38億円を計上した2006年度の水準とは大きな開きがあった。東証スタンダード上場の株式は6月時点で時価総額80億円、PBRは0.44倍と純資産を下回っていた。ニデックは2022年にも子会社経由で資本業務提携を打診していたが、TAKISAWAはこれを謝絶しており、両社の間には一度断られた経緯があった[2]

決断

同意なきTOBの表明

2023年7月13日、ニデックはTAKISAWAの同意を取り付けないまま、TOBによる完全子会社化を目指すと発表した。買付価格は1株2,600円。TAKISAWA株は2018年5月以来2,000円台をつけておらず、時価の約2倍という高い上乗せ幅であった。永守重信会長兼CEOは四半期決算の説明会で「今回のジョイントは大きなシナジーを両社にもたらす。敵対的とかじゃなく、日本の工作機械業界は、中国と戦っていける規模に持っていかないと負ける」と語り、業界再編の必要を前面に立てて「敵対的ではない」と強調した[3]

この提案は、前年に断られた提案とは中身が違っていた。2022年の打診は、株主総会の決議を前提としない第三者割当増資でTAKISAWAを連結子会社化するもので、割当単価にはプレミアムが伴わなかった。資金調達の必要も緊急性もなかったTAKISAWAは、総会決議を経ずにこれを実施するのは適切でないと判断して謝絶していた。これに対し今回は、大規模な希釈化を伴う増資ではなく既発行株式を買い取る完全子会社化であり、しかも市場価格の2倍という条件を全株主に開いた。ニデックは新指針案が「その実施を推奨する望ましい買収」だと位置づけ、指針を先取りしてみせた[4]

結果

賛同、そして成立

同意なき宣言はニデック初の敵対的買収に転じる可能性を残していたが、そうはならなかった。TAKISAWAは約2カ月の検討を経て、TOBへの賛同に加え、株主に応募を推奨する意見表明まで行った。原田一八社長は、新指針に沿って検討し、株主にプレミアムがつく条件だったから賛同したと日本経済新聞のインタビューで認めている。前年に増資提案を謝絶した会社が、市場価格の2倍を全株主に開いた提案には賛同へと転じた。提案を受ける側の態度が変わったというより、ニデックの提案内容が真摯になったことが、敵対を避けた要因であったとみることができる[5]

10月27日、ニデックは9月14日から実施していたTOBの応募状況を公表した。応募は下限とした議決権の50.1%を上回り、同81.9%に達してTOBの成立が確実になったとし、11月13日まで期間を延長して残る株主に応募を促した。途中経過をあえて開示する異例の手法で応募率をさらに引き上げ、TOBは成立、TAKISAWAは完全子会社となった。会社法上は以前から可能でありながら「行儀が悪い」とされてきた同意なき買収が、敵対に転じずに成立した数少ない例となった[6]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2023年8月5日号「ニュース最前線 『同意なき買収』も辞さず ニデックが狙う旋盤会社」
  • 週刊東洋経済 2023年11月11日号「買収巧者ニデック 豹変の理由 新指針1号案件の意外な一面とは」
  • 週刊東洋経済 2023年11月11日号「『新指針』検討メンバーインタビュー 弁護士 太田洋/東京大学教授 田中亘」
  • ニデック 有価証券報告書(2024年3月期・連結・IFRS)