旅行事業承継NEXTホールディングスの設立(2026年・エイチ・アイ・エスの決断)

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エイチ・アイ・エス:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
後継者不在の旅行会社を、独自性を残して受け入れる持株会社の新設2026年10月30日、エイチ・アイ・エスの取締役会は、完全子会社となる中間持株会社「株式会社旅行事業承継NEXTホールディングス」の設立を決議した。資本金は10百万円で、事業の内容はグループ会社の管理とし、設立と事業開始はいずれも2026年11月30日の予定である。

何をなぜ決めたか:後継者不在の旅行会社を、独自性を残して受け入れる持株会社の新設

概要

2026年10月30日、エイチ・アイ・エスの取締役会は、完全子会社となる中間持株会社「株式会社旅行事業承継NEXTホールディングス」の設立を決議した。資本金は10百万円で、事業の内容はグループ会社の管理とし、設立と事業開始はいずれも2026年11月30日の予定である。

狙いは、全国の旅行会社が抱える課題に応える「事業承継M&Aプラットフォーム」の構築にある。新会社の代表取締役には、エイチ・アイ・エスの澤田秀太社長が兼任で就任する予定である。参画する会社の名前と数は、決議の時点では開示されていない。

背景

国内の旅行会社は、後継者の不在による事業承継の問題に加え、過年度の事業環境の悪化で負った債務と、成長への投資余力の不足を同時に抱えている。エイチ・アイ・エス自身も同じ環境をくぐった。旅行事業は2021年10月期に383億円のセグメント損失を計上し、2022年10月には資本金を100百万円まで減資して欠損を填補した。

旅行事業の利益は2025年10月期に96億円まで回復した。2026年10月期を新しい中期経営計画への助走期間と位置づけ、M&A・投資・提携による既存事業の拡大を行動計画の一つに掲げていた。国内の同業を子会社化した例は、2000年の豊和トラベルサービス(現オリオンツアー)、2002年のクルーズプラネットにさかのぼる。

内容

新会社は、グループの経営資源による規模の利益と、参画する各社の独自性の維持を両立させる会社として設計された。各社が強みを持つ専門領域と地域を相互に補い、グループ全体の相乗効果を高めるとしている。買収した会社を本体へ吸収合併せず、持株会社の下に会社のまま並べる方式を選んだ。

資本金10百万円の会社が特定子会社に当たるのは、エイチ・アイ・エスの資本金が100百万円で、その10分の1以上になるためである。業績への影響は軽微と見込み、派遣する役員と従業員の人数はこれから決める。

含意

1か月前の2026年9月11日には、大阪のラド観光の全株式をアドベンチャーから取得すると決めていた。バスのスキーツアーに強く、エイチ・アイ・エスが手薄だった地方発のツアーとバス商材を補う買収で、株式の取得は新会社の設立と同じ2026年11月30日の予定である。ラド観光が新会社の傘下に入るかは開示されていない。

設立と同じ日の取締役会は、2027年1月27日付で矢田素史会長が代表取締役を退き、澤田秀太社長1名の代表体制とする人事も決めた。澤田秀太社長は2012年からベストワンドットコムの社長を務めた旅行会社の経営者で、M&A・投資の担当を兼ねる。物流のSBSホールディングスも2026年9月、三菱ケミカル物流の全株式を19,200百万円で取得すると決め、現社長を代表取締役に留任させるとした。

いつ何が起きたか12件
筆者考察
考察

考察:自社が越えた苦境を、同業の受け入れ先に

この決断は、業界の構造問題を抱えた中小の同業を、大手がどのような形で受け入れるかという問いへの答えである。エイチ・アイ・エスが選んだのは、買収した会社を一社ずつ本体へ合併する方式ではなく、中間持株会社の下に会社のまま並べる方式だった。後継者の不在、債務の負担、投資余力の不足という売り手側の課題を先に掲げ、規模の利益と各社の独自性の両立をうたう。設立は2026年11月30日の予定で、参画する会社の名前も数もまだ開示されておらず、成否は決まっていない。

国内の同業を子会社化する手法そのものは新しくない。2000年に豊和トラベルサービス、2002年にクルーズプラネットを子会社化している。今回それを専用の組織にまで引き上げたのは、自社が同じ苦境を越えた経験によると思われる。旅行事業は2021年10月期に383億円のセグメント損失を計上し、2022年10月には資本金を100百万円まで減資した。利益が96億円まで回復した後の2026年1月に、国内旅行事業戦略を担当してきた澤田秀太社長が就任し、9月のラド観光の買収、10月の中間持株会社の設立と続いた。2027年1月には代表取締役が澤田秀太社長1名となり、M&Aの判断は一人の代表に集まる。

同じ2026年9月、物流のSBSホールディングスは三菱ケミカル物流の全株式を19,200百万円で取得すると決め、買収後も現社長を代表取締役に留任させるとした。買収した会社の経営を残したまま傘下に収める点で、両社の考え方は近い。違いは株式を保有する主体にある。SBSホールディングスが自ら株式を保有するのに対し、エイチ・アイ・エスは買収の前に専用の中間持株会社を設立した。相手が一件の大型案件ではなく、後継者を欠く複数の中小の旅行会社であるためとみられる。持株会社を先に設立した判断の当否は、参画する会社の数で問われることになる。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

数字で見る

エイチ・アイ・エス:旅行事業の売上高とセグメント損益

エイチ・アイ・エス:旅行事業の売上高とセグメント損益

売上高(百万円)セグメント利益率(%)

旅行事業の利益は2025年10月期に96億円まで回復していた

エイチ・アイ・エス:旅行事業の売上高とセグメント損益
(百万円)売上高セグメント利益備考
2021年10月期42,918△38,336外部顧客への売上高。コロナ禍で海外旅行の取扱いが止まった期
2022年10月期67,328△28,629
2023年10月期200,894803セグメント黒字に復帰。翌期の組替後の前期欄は1,145
2024年10月期282,6969,302
2025年10月期307,9769,636設立を決める前の期。旅行事業のセグメント資産は205,401
出所:エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第41期〜第45期【セグメント情報】(各期の当期欄・外部顧客への売上高)
出所:エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第41期〜第45期【セグメント情報】(各期の当期欄・外部顧客への売上高)
エイチ・アイ・エス:純資産と総資産の推移

エイチ・アイ・エス:純資産と総資産の推移

純資産額(百万円)負債(百万円)

自己資本比率は2021年10月期の8.4%から14.4%まで回復した

エイチ・アイ・エス:純資産と総資産の推移
(百万円)純資産額総資産額備考
2021年10月期57,656411,148自己資本比率8.4%
2022年10月期48,238414,79010月に資本金を100百万円へ減資し欠損を填補
2023年10月期49,741440,962
2024年10月期62,343412,200
2025年10月期67,205386,330自己資本比率14.4%
出所:エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第45期(2025年10月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第45期(2025年10月期)【主要な経営指標等の推移】
当時の取締役11名

取締役11名(2026年1月株主総会議決)

区分役員名役職
取締役業務執行担当領域
業務執行兼務矢田素史取締役:代表取締役業務執行:社長・CEO担当:経営企画、人事担当
五味睦取締役:取締役業務執行:担当:新規事業戦略、リスクコンプライアンス、CS・ES、総務担当
山野邉淳取締役:取締役業務執行:担当:HISJAPANプレジデント
澤田秀太金融取締役:取締役業務執行:上席執行役員・最高情報セキュリティ責任者担当:HISJAPANヴァイスプレジデント、情報システムDX推進担当、国内個人旅行営業本部長、投資戦略本部長、AIイノベーション本部長
織田正幸取締役:取締役業務執行:担当:海外事業戦略、経理財務、M&A担当、HISGlobalDestinationManagementCompanyプレジデント
中森達也取締役:取締役業務執行:担当:国内関係会社、観光産業推進担当
関田園子取締役:監査等委員・常勤業務執行:担当:
独立役員香川進吾取締役:社外取締役業務執行:担当:
大和田順子取締役:社外取締役業務執行:担当:
金子寛人会計取締役:社外取締役(監査等委員)業務執行:担当:
鍋島厚金融取締役:社外取締役(監査等委員)業務執行:担当:
この一覧は2026年1月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第41期(2021年10月期)・第45期(2025年10月期)【セグメント情報】
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第45期(2025年10月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第45期(2025年10月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • エイチ・アイ・エス 公式サイト「沿革」
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第45期(2025年10月期)【役員の状況】
  • SBSホールディングス 臨時報告書(2026年9月28日提出)
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第41期(2021年10月期)【セグメント情報】
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第43期(2023年10月期)【セグメント情報】
  • エイチ・アイ・エス 臨時報告書(2025年5月23日提出)
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第41期〜第45期【セグメント情報】(各期の当期欄・外部顧客への売上高)
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書 第45期(2025年10月期)【主要な経営指標等の推移】
  • エイチ・アイ・エス 適時開示「中間持株会社設立に関するお知らせ」
  • エイチ・アイ・エス 適時開示「代表取締役の異動および役職変更並びに役員の異動に関するお知らせ」
  • エイチ・アイ・エス 適時開示「ラド観光株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
  • エイチ・アイ・エス 臨時報告書「臨時報告書(特定子会社の異動)S100ZAX6」
  • エイチ・アイ・エス 臨時報告書「臨時報告書(特定子会社の異動)S100Z1P2」
  • エイチ・アイ・エス 有価証券報告書「第45期(2025年10月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【セグメント情報】【役員の状況】」

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