スギホールディングス 阪神調剤グループの買収 調剤薬局大手I&Hを取り込んだ買収による調剤事業の急拡大
更新:
何をなぜ決めたか
- 概要
-
2024年2月27日、スギホールディングスは取締役会でI&H株式会社(阪神調剤グループ)の株式取得を決議し、同じ日に株式譲渡契約を締結した。2024年9月2日に議決権66.72%を取得して連結子会社とし、2025年2月28日までに残る33.28%も買い取って完全子会社としている。2007年のジャパン完全子会社化以来17年ぶりの大型M&Aであり、創業以来の調剤軸を、自前の出店から大型買収へと広げた経営判断である。
- 背景
-
I&Hは兵庫県芦屋市に本社を置き、阪神調剤薬局を中核に調剤薬局の運営と子会社の経営管理を手がける資本金42億円の企業だった。有機的な成長を続けてきたスギHDは、調剤専業の大手を取り込むことで調剤の規模と連結の売上高の両方を一気に引き上げる道を選んだ。企業結合を行った主な理由として有価証券報告書が挙げるのは、両社グループの事業ノウハウやリソースを融合し、双方の事業成長を加速させることである。
- 内容
-
取得原価は65億7,400万円で、うち52億8,600万円は企業結合直前に保有していた株式の結合日時価、現金で支払った対価は12億8,800万円だった。取得関連費用は2億4,600万円。買収資金として2024年4月24日にみずほ銀行から105億円を借り入れている。
企業結合日に受け入れた資産は608億600万円、引き受けた負債は968億6,500万円で、負債が資産を360億5,900万円上回っていた。ここから生じたのれんは425億7,400万円にのぼり、今後の事業展開によって期待される超過収益力として20年間の均等償却に付されている。
- 含意
-
調剤の売上は2024年2月期の1,587億円から、2024年9月からの半年を取り込んだ2025年2月期に2,188億円、通期で寄与した2026年2月期には3,073億円へ伸び、連結売上高は1兆103億円と1兆円を超えた。のれんは2026年2月期に暫定的な会計処理が確定し、金額の変動はなかった。一方で連結従業員数は8,724人から11,820人へ一年で3,000人あまり増え、組織と人材の統合が次の課題として残った。
いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
創業の賭けを、規模で裏づける
この買収の核心は、創業以来つらぬいてきた"調剤"という一点を、M&Aで一気に太らせたところにある。スギHDは物販の安売りに背を向け、利益の薄い調剤を全店に併設する道を長く歩んできた。その調剤を、自前の出店だけでなく、専業の大手を丸ごと取り込むことでも広げてみせた。有機的な成長で築いた思想を、規模ごと買い足す——創業の理念と資本の力を接ぐ判断だっただろう。
もっとも、買い取ったものの中身は軽くない。現金で払った対価は12億8,800万円にすぎないが、引き受けた負債は受け入れた資産を360億5,900万円上回り、のれんは425億7,400万円に積み上がった。向こう20年、毎期21億円あまりの償却が利益を削り続ける。連結従業員が一年で3,000人あまり増えた事実も、組織と人材の統合という重い宿題が残ったことを示している。筆頭株主のスギ商事が37.4%を持つ同族色の濃い会社が、17年ぶりに着手した大型M&Aを連結の実力へどう変えていくのか。調剤を核に据えた創業の賭けが次の段階に入ったことだけは、数字がすでに告げている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
買収の条件
買収の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 被取得企業の名称と事業 | I&H株式会社 他35社 | 調剤薬局の運営等。再編を経て連結決算日には他18社となった |
| 企業結合を行った主な理由 | 事業ノウハウとリソースの融合 | 両社グループの双方の事業成長を加速させることを目的とした |
| 取締役会決議と株式譲渡契約 | 2024年2月27日 | 当初は2024年8月30日に議決権61.89%を取得する予定だった |
| 企業結合日 | 2024年9月2日(株式取得日) | みなし取得日は9月1日。8月30日に株式譲渡契約の変更合意書を締結 |
| 企業結合の法的形式 | 現金を対価とした株式の取得 | |
| 取得した議決権比率 | 66.72% | 企業結合直前に所有していた議決権比率は0% |
| 取得原価 | 6,574百万円 | 直前に保有していた株式の結合日時価5,286と現金対価1,288の合計 |
| 主要な取得関連費用 | 246百万円 | アドバイザリー費用等 |
| 受け入れた資産の額 | 60,806百万円 | 流動資産48,660、固定資産12,146 |
| 引き受けた負債の額 | 96,865百万円 | 流動負債74,259、固定負債22,606。負債が資産を36,059上回った |
| のれんの金額 | 42,574百万円 | 第44期に暫定的な会計処理が確定し、金額の変動はなかった |
| のれんの発生原因と償却 | 20年間にわたる均等償却 | 今後の事業展開によって期待される超過収益力から発生 |
| 完全子会社化 | 2025年2月28日 | 2024年10月31日と2025年2月28日に33.28%を3,122百万円で追加取得 |
| 買収資金の借入 | 10,500百万円 | みずほ銀行から2024年4月24日に実行。6か月Tibor+0.3%、無担保 |
出所:スギホールディングス 有価証券報告書 第42期(2024年2月期)【経営上の重要な契約等】【追加情報】・第43期(2025年2月期)【企業結合等関係】・第44期(2026年2月期)【企業結合等関係】
のれんと無形固定資産の推移
スギホールディングス:のれんと無形固定資産の推移
| (百万円) | のれん | 無形固定資産 | 総資産 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2019年2月期 | − | 2,998 | 265,481 | のれんは2024年2月期まで連結貸借対照表に区分掲記されていない |
| 2020年2月期 | − | 3,542 | 313,757 | |
| 2021年2月期 | − | 5,326 | 345,933 | |
| 2022年2月期 | − | 6,612 | 334,758 | |
| 2023年2月期 | − | 8,121 | 351,895 | |
| 2024年2月期 | 2,556 | 10,355 | 390,563 | 2024年2月27日にI&Hの株式取得を決議。のれんは薬日本堂などの買収分 |
| 2025年2月期 | 43,663 | 52,110 | 495,116 | I&Hの取得で42,574を暫定計上。総資産は104,553の増加 |
| 2026年2月期 | 43,119 | 51,539 | 614,493 | 暫定的な会計処理が確定し、のれんの金額の変動はなかった |
出所:スギホールディングス 有価証券報告書 第38〜44期(連結貸借対照表)
調剤の売上と連結売上高の推移
スギホールディングス:調剤の売上と連結売上高の推移
| (百万円) | 調剤 | 連結売上高 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2019年2月期 | − | 488,701 | 調剤の内訳は2023年2月期の収益認識関係から開示されている |
| 2020年2月期 | − | 542,361 | |
| 2021年2月期 | − | 602,850 | |
| 2022年2月期 | − | 625,477 | |
| 2023年2月期 | 142,461 | 667,647 | |
| 2024年2月期 | 158,777 | 744,477 | 決議はこの期の期末直前。I&Hの業績は含まれていない |
| 2025年2月期 | 218,866 | 878,021 | I&Hの寄与は2024年9月からの半年。調剤は前期比37.8%の増加 |
| 2026年2月期 | 307,324 | 1,010,336 | I&Hの通期寄与で調剤は前期比40.4%の増加。連結売上高は1兆円超え |
出所:スギホールディングス 有価証券報告書 第40〜44期(主要な経営指標等、収益認識関係)
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- スギホールディングス 有価証券報告書 第42期(2024年2月期)
- スギホールディングス 有価証券報告書 第43期(2025年2月期)
- スギホールディングス 有価証券報告書 第44期(2026年2月期)
- 中部財界 43(9)(中部財界社, 2000年9月)
- スギホールディングス 有価証券報告書「第42期(2024年2月期)」
- スギホールディングス 有価証券報告書「第43期(2025年2月期)」
- スギホールディングス 有価証券報告書「第44期(2026年2月期)」