東京ドームの買収——読売新聞グループと組んだTOBによる完全子会社化

アクティビストの圧力で揺れる都心の含み資産を、三井不動産はどう取り込んだか

更新:

時期 2020年11月
意思決定者 菰田正信 社長
論点 都心の大規模用地とエンタメ運営の取り込み
概要
2020年11月27日、三井不動産が読売新聞グループ本社と共同で東京ドームに株式公開買付け(TOB)を実施し、翌2021年1月に完全子会社化した経営判断。買付価格は1株1300円、買付規模は約1200億円であった。菰田正信社長のもとで、後楽園の東京ドームシティを中心とする都心の含み資産とエンタメ運営を取り込んだ。
背景
コロナ禍で東京ドームの興行収入が急減する一方、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが経営陣の非効率を批判し、長岡勤社長ら取締役3人の解任を株主提案として求めていた。株主圧力にさらされた東京ドームは、安定株主となる提携先を探していた。
内容
TOBは2020年11月30日から2021年1月18日まで実施した。三井不動産がいったん取得したうえで読売新聞グループ本社へ2割を譲渡し、後楽園一帯を一体運営して「ボールパーク」化する構想を掲げた。大株主のオアシスもTOBを歓迎し応募した。
含意
都心に残る希少な大規模用地とエンタメ運営を、株主圧力で揺れた企業の白馬の騎士として入る形で得た。街づくりにレジャーを組み込む布石であり、アクティビストの一手が結果として資産の流動化を促した面もうかがえる。
筆者の見解

用地取得と、エンタメ運営という課題

この買収は、三井不動産にとって、都心にまとまって残る用地とエンタメ運営を一度に手にする機会であった。オフィスと商業を主軸としてきた事業に、スタジアムやアミューズメントという異質の運営を組み込む試みでもあり、街づくりの範囲をどこまで広げられるかを問う判断であったとみることができる。同時に、対象がアクティビストの圧力で揺れていた事実が、この取得を後押しした面も見過ごせない。株主圧力が資産の流動化を促し、その受け皿に事業会社が回る動きは、2020年前後の日本市場で繰り返し見られた。

残された問いは、取り込んだエンタメ運営を、本業の街づくりとどこまで結び付けられるかにある。含み資産としての用地は明快でも、興行やレジャーの運営は不動産賃貸とは異なる収益の論理で動く。後楽園一帯の再開発が具体化するには時間がかかり、その成否はこの約1200億円の意味を後から書き換えていくとみられる。白馬の騎士として入った買収が、単なる用地取得にとどまるのか、レジャーを柱に据える転換の始まりになるのかは、なお見定める段階にある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

コロナ禍の東京ドームとアクティビストの圧力

東京ドームは、東京ドームシティの興行とレジャー運営を柱とする企業で、2020年は新型コロナウイルスの影響でプロ野球やコンサートの中止・無観客開催が相次ぎ、収益が落ち込んでいた。一方で同社が後楽園一帯に抱える土地は、都心にまとまって残る希少な資産であり、株価に映りきらない含み価値を持つとみられていた。事業の不振と資産の含み益という落差が、外部からの関心を引き寄せる状態にあった[1]

この含み資産に着目したのが、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントであった。同ファンドは2020年1月末時点で東京ドーム株の9.61%を保有し、現経営陣が非効率な経営を改めていないと批判していた。2020年10月には臨時株主総会の招集を請求し、長岡勤社長と社外取締役2名の解任を株主提案として突きつけた。議決権行使助言のISSも解任案に賛成を推奨し、東京ドームの経営陣は退陣を迫られていた[2]

三井不動産が狙った含み資産とエンタメ

三井不動産にとって、東京ドームシティが立地する後楽園一帯は、都心に残る数少ない大規模用地であった。同社は日本橋や八重洲で街区の再開発を重ねており、そこにスタジアムやアミューズメントを含むエンタメ運営を組み合わせられれば、街づくりの幅を広げられると見込んでいた。オフィスや商業に偏りがちな事業構成へレジャーの柱を加える意味でも、東京ドームの運営基盤は取り込む価値があると判断していた[3]

折しも対象の東京ドームは、オアシスの解任提案で経営が揺れ、安定株主となる提携先を探していた。株主圧力にさらされた企業が白馬の騎士を求める動きは、資産を取り込みたい三井不動産にとって、交渉を仕掛ける機会でもあった。アクティビストが引き起こした動揺が、結果として希少な用地の買い手に道を開く形になった[4]

決断

白馬の騎士としてのTOB

2020年11月27日、三井不動産は、読売新聞グループ本社と共同で東京ドームに株式公開買付け(TOB)を実施すると発表した。買付価格は1株1300円、買付規模は約1200億円で、11月30日に買付けを開始する日程を示した。三井不動産がいったん株式を取得したうえで、読売新聞グループ本社へ2割を譲渡し、両社で東京ドームを支える枠組みであった[5]

この価格には、直前までの駆け引きがあった。東洋経済の報道によれば、三井不動産は11月12日にいったん1株1200円を提示したものの、東京ドームはオアシスから1株1300円での買収提案を受けていたことを理由に1350円を求めた。交渉の末、三井不動産は11月24日に1300円を提示し、26日に最終合意へこぎ着けた。アクティビストが示した価格が、事実上の下限として交渉を規定した点に、この買収の特徴がうかがえる[6]

読売との連携とボールパーク構想

買収の狙いは、後楽園一帯の一体運営に置かれた。三井不動産は、複合施設の開発やテナント誘致のノウハウを生かして東京ドーム周辺を一体で運営し、家族連れで楽しめる「ボールパーク」の実現を掲げた。読売新聞グループ本社が2割を持つことで、本拠地とする読売巨人軍との連携を強め、野球観戦を軸とした集客をレジャー事業の柱に育てる構想であった[7]

大株主のオアシスも、このTOBを前向きに受け止めた。オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者は、三井不動産による買付けを「歓迎すべきだ」との考えを示し、保有株を応募する意向を明らかにした。一方、12月17日の臨時株主総会では、オアシスが求めた長岡社長ら取締役3人の解任案は反対多数で否決された。解任は退けられたものの、TOBによる売却で株主提案は実質的な決着へ向かった[8]

結果

TOB成立と完全子会社化

2021年1月19日、三井不動産は、東京ドームへのTOBが成立したと発表した。2020年11月30日から2021年1月18日までの買付けに、議決権ベースで84.82%の応募が集まった。三井不動産は東京ドームを連結子会社としたうえで完全子会社化し、東京ドームは上場を廃止した。予定どおり、株式の2割は読売新聞グループ本社へ譲渡された[9]

買収が固まった2021年3月期の三井不動産は、コロナ禍で商業施設やホテルが打撃を受け、連結売上高2兆75億円に対し営業利益は2038億円、純利益は1295億円へと前期から減益していた。本業が打撃を受けるなかでも、都心の希少な用地とエンタメ運営を約1200億円で取り込む判断を優先した形であった。街づくりにレジャーを組み込む長い布石であった[10]

出典・参考