筆者の見解
企業体を残すことより、資産としての価値をどう活かすか
この決断の核心は、粉飾という不祥事の後始末を、企業そのものの再建ではなく資産の切り分けという方法で処理した点にある。産業再生機構は、鐘紡という120年続いた法人格を存続させることよりも、事業ごとに買い手を見つけて価値を実現し、債権者への弁済を最大化する道を選んだ。結果として20種を超える事業のほとんどに買い手がつき、清算による大量解雇を避けられたことは、企業再生の手法として一定の合理性を示したとみられる。
もっとも、そこで置き去りにされたのは、法人としての鐘紡に残り続けた10万人近い個人株主であった。TOB価格をめぐる訴訟が解散後も長く続いたことは、事業の価値をだれがどう分配するかという論点に、制度の整備が追いついていなかったことをうかがわせる。花王に渡ったブランドが白斑問題を経てようやく研究・生産・販売の各部門で統合されていった歩みからは、企業を残すことと、そこに宿った技術やブランドを残すことが、必ずしも同じ道筋をたどるとは限らない事情がうかがえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月