電力調達価格高騰で新電力が総崩れするなかでの電力事業の取得

多くが撤退する市場で、なぜ光通信は退かず、経営が傾いた新電力を拾ったのか

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時期 2022年4月
意思決定者 重田康光・和田英明(社長) 会長兼CEO
論点 電力事業と危機下の投資
概要
2021〜2022年、電力調達価格の高騰で新電力の約2割が撤退・倒産するなか、光通信は電力から退かず、経営が傾いた新電力を取得する側に回った。2022年、HISが債務超過に陥らせた新電力子会社HTBエナジーを、光通信の連結子会社HBDが引き取った。
背景
光通信は2016年の電力全面自由化を受けて2017年に電力小売を本格化し、中小企業・個人向けの営業網に毎月課金の電力を載せた。だが2021年初から卸電力価格が高騰し、調達コストが販売価格を上回る事態が続いて、新電力各社の採算が崩れた。
内容
JEPXのスポット価格は2021年10〜11月に前年の3倍近い水準へ跳ね、光通信系のハルエネも事業者向け販売の停止が報じられた。そのなかで光通信は、HISが2021年9月期に債務超過へ追い込んだ新電力HTBエナジーの全株式を、連結子会社HBDで取得する契約を2022年に結んだ。
含意
新電力の多くが消えた市場で、光通信は電力を抱えたまま危機を抜け、2023年3月期に純利益913億円、2024年3月期に過去最高の1,222億円を計上した。危機で割安になった事業を拾い、退いた他社が空けた顧客と市場を取り込む判断だった。
筆者の見解

危機で退くか、拾うか

この判断の核心は、業界全体が損を出して退く場面で、光通信が同じ電力事業をあえて取得する側に回った点にある。新電力の総崩れは、営業力で顧客を集めても、仕入れ価格の変動を吸収できなければ事業が成り立たないことを突きつけた。多くの会社がここで電力から手を引いた。光通信は逆に、危機で価値が痩せた事業を顧客ごと引き取り、他社が空けた市場を取り込んだ。安く出た資産を拾うこの動きは、規律ある利回りで割安な株を長く持つ純投資の発想と、根の部分でつながっている。

もっとも、危機で拾う判断は、拾った先で危機が続けば重荷にもなる。卸価格の高騰がさらに長引けば、取り込んだ電力事業がそのまま損失源に転じた可能性もあった。光通信が電力を手放さずに済んだのは、仕入れリスクに耐える資金力と、電力以外の商材で全体の採算を保てる多品目の構えがあったからである。一つの商材の不振を他が支える構造を持つ会社だけが、危機の市場で退かずに拾う側に立てる。電力危機は、その構造の強さと危うさの両方を、光通信に試した。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

営業網に載せた電力というストック商材

光通信は2016年4月の電力小売の全面自由化を受けて、翌2017年4月に電力事業を本格化した。中小企業や個人へ回線やOA機器、宅配水を売ってきた同じ営業網から、今度は電気を売る。電力は毎月の使用量に応じて料金が入るストック型の商材で、契約を積むほど収入が積み上がる光通信の収益構造とよく合った。参入から数年で光通信系は新電力の一角を占め、水や保険と並ぶ多品目ポートフォリオの一つとして電力を組み込んだ[1]

だが電力小売は、他の商材にはない仕入れの重荷を抱えていた。新電力は自前の発電所を持たず、日本卸電力取引所(JEPX)などから電気を調達して顧客へ売る。調達価格が上がっても顧客との契約料金をすぐには上げられないため、卸価格が跳ねれば売るほど損が出る構造にあった。加えて、必要な量を調達できなければ高額のインバランス料金を課される。営業力で顧客を集める光通信の強みは、電力では仕入れ価格の変動リスクと隣り合わせだった[2]

2021〜2022年、新電力の総崩れ

その仕入れリスクが2021年に現実になった。2021年初から卸電力価格が高騰し、JEPXのスポット価格は同年10〜11月に1キロワット時あたり10〜30円と、前年のおよそ3倍の水準へ跳ね上がった。調達コストが販売料金を上回る状態が続き、新電力各社の採算は崩れた。2022年には新電力のおよそ2割が事業撤退や倒産に追い込まれ、光通信系のハルエネも事業者向け電力販売の停止が業界紙で報じられた。電力事業から退く動きが業界全体に広がった[3]

決断

撤退ではなく、傾いた新電力を取得する

業界が退く一方で、光通信は電力から手を引かず、経営が傾いた新電力を取得する側に回った。2022年、旅行大手HISが、卸価格の高騰とインバランス料金の高額化で2021年9月期に債務超過へ陥らせた新電力子会社HTBエナジーの全株式を、光通信の連結子会社HBDへ譲渡する契約を結んだ。株式の譲渡日は2022年5月20日である。危機で価値が痩せ、売り手が手放したがっている電力事業を、光通信は顧客基盤ごと引き取った[4]

売り手のHISにとっては、コロナ禍で傷んだ本業の回復を優先し、再建に時間のかかる新電力を切り離す判断だった。光通信はこの譲受にあわせ、HISと通信・保険などの事業領域で顧客や取引先へ商品を連携して提供する業務提携も結んだ。単に安く傾いた電力会社を拾ったのではなく、相手の顧客基盤や商材との接点まで含めて取り込む。営業網に載せる商材を会社ごと買ってきた光通信の多角化の手が、危機の電力市場でも同じ形で働いた[5]

結果

危機を抜けて過去最高益

電力を抱えたまま、光通信は危機を通過した。2023年3月期の連結純利益は913億円、2024年3月期は過去最高の1,222億円に達した。卸価格の高騰で新電力の多くが姿を消したあと、生き残った光通信系は事業を続け、退いた各社が空けた顧客と市場を取り込む側に立った。仕入れリスクに耐える体力と、危機に安く出た事業を拾う資金力の両方があってはじめて、電力小売という損の出やすい商材を手放さずに済んだ[6]

電力は、水や保険と並ぶ多品目ポートフォリオの一角として光通信に残った。中小企業向けの営業網の上で、複写機・回線・水・保険・電力という性格の異なる商材が同じ顧客に売られていく。一つの商材が市場の混乱で採算を崩しても、他の商材が支え、混乱が去れば取り込んだ顧客がストック収入として積み上がる。電力危機は、営業網を資産とみなす光通信の多角化が、逆風のなかでどう働くかを試す場になった[7]

出典・参考