中小企業向け営業チャネルに水・保険・電力を載せ替える多品目化
複写機の需要が細るなか、光通信は何を資産とみなし、どうやって新しい商材を手に入れたのか
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- 概要
- 2010年代、複写機の需要が細るなか、光通信が中小企業向け訪問営業というチャネルを資産とみなし、その上に載せる商材を宅配水・保険・電力へ広げた多角化の判断。2014年に宅配水のウォーターダイレクトと保険比較のウェブクルーを子会社によるTOBで相次いで取り込み、2017年には電力小売へ参入した。
- 背景
- オフィスのデジタル化で主力の複写機の需要が低迷し、法人営業に載せる商材が細っていた。光通信の強みは特定の商品ではなく、中小企業や個人へ届く訪問営業とテレアポのチャネルにあり、契約後に継続収入が積み上がる商材なら何でも載せられる余地があった。
- 内容
- 2014年11月、子会社ニュートンが保険比較サイトのウェブクルーへ、同12月には子会社の総合生活サービスが宅配水のウォーターダイレクトへ、それぞれTOBを開始した。メーカーの開発・管理ノウハウと光通信の販売力を組み合わせる狙いで、2017年4月には電力小売を本格化した。
- 含意
- 複写機に代わる商材として水・電力・保険を積み増した結果、2019年3月期の新規事業の売上は2016年3月期の約3.6倍へ伸びた。特定商品ではなく営業チャネルを資産とみなし、その上に商材を載せ替える発想が、光通信の多角化の型になった。
商品ではなく、営業チャネルを資産と見る
この多角化の核心は、光通信が売る対象を商品ではなく営業のチャネルそのものととらえた点にある。多くの会社は主力商品を軸に事業を組み立て、その商品の需要が細れば業績も細る。光通信は逆に、中小企業や個人へ直接届く訪問営業とテレアポの網を動かない資産と見て、その上に載せる商材を複写機から水・保険・電力へ差し替えた。しかも新しい商材は、一から立ち上げるのではなく事業会社ごとTOBで取り込み、メーカー機能と自社の販売力を短期間で束ねた。買収は多角化の手段であり、時間を買う手段でもあった。
この型には、光通信の強みと危うさが同居する。同じ営業網から次々に商材を売れる汎用性は、一つの市場が縮んでも別の商材で埋め合わせられる強さになる。一方で、水・電力・保険と広がるほど、それぞれの事業の専門性や規制への対応が求められ、営業力だけでは押し切れない領域も増える。それでも、商品の寿命に事業の寿命を縛られない構造を、光通信は複写機の需要低迷という現実から学び取った。何を動かない資産とみなすか——この問いへの答えが、同社の多角化の一貫した芯になっている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
複写機の需要が細るという課題
2000年の危機を経て法人営業へ回帰した光通信は、中小企業へ複写機を売り、販売後のコピー使用量に応じたストック収入を積み上げる収益構造を軸に再建を果たした。だが2010年代に入ると、オフィスのデジタル化で紙の印刷が減り、複写機の需要そのものが細り始めた。中小企業向けの訪問営業という仕組みは健在でも、その上に載せて売る商材が痩せていく。再建の柱だった複写機に代わる、新しい商材の確保が経営の課題になった[1]。
このとき光通信が資産とみなしたのは、特定の商品ではなく、中小企業や個人へ直接届く営業のチャネルそのものだった。午前にテレアポで見込み客を掘り起こし、午後に訪問して売り込むこの仕組みは、複写機であれ回線であれ、契約後に継続収入が積み上がる商材なら何でも載せられる。売る対象を差し替えれば、同じ営業網から新しいストック収益を生み出せる。光通信は、商品を売る会社ではなく、商材を載せ替えられる営業網を持つ会社として自社をとらえ直した[2]。
決断
TOBで商材とメーカー機能を一括で取り込む
光通信は、新しい商材を一から立ち上げるのではなく、事業会社ごと買って取り込む道を選んだ。2014年12月、子会社の総合生活サービスが、宅配水のウォーターダイレクトへTOBを開始した。狙いは、光通信グループが販売会社として蓄えた顧客ニーズと販売ノウハウを、ウォーターダイレクトがメーカーとして持つ開発・品質管理のノウハウと組み合わせることにあった。翌2015年2月に同社を子会社化し、光通信は宅配水という新しいストック商材を手に入れた[3][4]。
保険でも同じ手を打った。ウォーターダイレクトに先立つ2014年11月、光通信の子会社ニュートン・フィナンシャル・コンサルティングが、自動車保険の一括見積りサイト「保険スクエア bang!」を運営するウェブクルーへTOBを開始した。掲げた狙いは、保険代理店業界でのシェア拡大と、ウェブクルーが持つ顧客データベースを最大限に生かすことである。中小企業向けの訪問営業に加えて、ネット経由で保険見込み客を集める入り口を、会社ごと取り込んだ[5]。
電力小売への参入
買収で手に入れた宅配水・保険に続いて、光通信は電力へも商材を広げた。2016年4月に電力小売が家庭を含めて全面自由化されると、光通信は翌2017年4月に電力事業を本格化した。中小企業や個人事業主に回線やOA機器を売ってきた同じ営業網から、今度は電気を売る。電力は毎月の使用量に応じて継続的に料金が入るストック型の商材であり、光通信が積み上げてきた収益構造とよく合った。水・保険・電力と、性格の異なる商材が同じチャネルの上に並んだ[6]。
結果
多品目ポートフォリオへの転換
商材を載せ替える多角化は、数字に表れた。2019年3月期の事業別売上収益は、法人回線997億円・オフィス925億円・水377億円・保険294億円に加え、電力などを含む新規事業が1,391億円へ伸びた。新規事業の売上は2016年3月期の約3.6倍にあたる。複写機を中心とするオフィス事業に依存していた法人向けの収益は、水・電力・保険を含む多品目の構成へ組み替わり、特定商品の需要変動に業績が揺さぶられにくい形へ近づいた[7]。
多品目化とストック収益の積み上げは、収益性を押し上げた。連結の営業利益は2015年3月期の321億円から伸び続け、2018年には時価総額が2000年以来の1兆円を回復した。3兆円まで膨らんで崩れたHITSHOP時代の時価総額が市場の熱狂の産物だったのに対し、二度目の1兆円は、複数の商材を同じ営業網から売る地道な積み上げに支えられていた。営業チャネルを資産とみなす発想が、収益の土台を厚くした[8]。
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2014年11月12日)「光通信子会社のニュートン・フィナンシャル・コンサルティング、ウェブクルー株式を公開買付け」
- 日本M&Aセンター M&Aニュース(2014年12月25日)「光通信、子会社総合生活サービスによりウォーターダイレクト株券に対し公開買付けを実施」
- 光通信 有価証券報告書 第38期(2025年3月期)【沿革】
- 光通信 決算説明資料(2019年3月期)
- 光通信 有価証券報告書(連結業績・IFRS)