ペプチドリーム富士フイルム富山化学からの放射性医薬品事業の取得とPDRファーマの連結子会社化
受託と提携で伸びた創薬ベンチャーは、放射性医薬品の製造販売基盤をどう第二の柱に据えたか
- 概要
- 2021年9月2日、ペプチドリームは富士フイルムの子会社・富士フイルム富山化学の放射性医薬品事業を305億円で買収すると発表し、2022年3月に取得を完了して新会社「PDRファーマ株式会社」を連結子会社化した。共同研究と技術ライセンスに寄っていた事業構成に、製造販売を持つ放射性医薬品を第二の柱として据える買収であった。
- 背景
- PDPSを軸とする創薬プラットフォームで営業利益率59%の高収益を上げていた同社は、収益が他社との提携と受託に立ち、自ら製造販売する製品を持たない構造にあった。2019年のノバルティスとのRI-PDC共同開発で踏み込んだ放射性医薬品を、次の柱に育てる足場が課題となっていた。
- 内容
- 富士フイルム富山化学が放射性医薬品事業を会社分割で新会社に承継し、ペプチドリームがその全株式を取得する仕組みである。PDC技術と放射性医薬品の事業基盤を融合し、研究開発から製造販売まで一気通貫のプラットフォームを築いて国内首位の放射性医薬品企業を目指す構想を掲げた。完了直前には販売権の返還に伴い対価が221億円へ減額された。
- 含意
- 取り込んだ販売により連結売上高は2021年12月期の94億円から2022年12月期に269億円へ拡大した。一方でのれん・無形資産の償却が利益を圧迫し、2025年12月期は減収・営業赤字に転じた。第二の柱は規模の拡大と利益の変動を同時に連れてきたとみられる。
二本柱の重さ
この買収を、高収益ベンチャーが余裕を持って次の柱を買い足した動きとだけ読むのは、事業の実情を単純にしすぎる。共同研究と技術ライセンスというペプチドリームの祖業は、営業利益率59%という数字が示すとおり利益率こそ高いものの、他社との提携と受託の上に成り立ち、自ら製造販売する製品を欠いていた。提携を発表しても株価が反応しにくくなっていた時期に、製造販売の基盤ごと放射性医薬品を取り込んだところに、単一プラットフォーム依存から抜け出そうとする意思がうかがえる。
もっとも、第二の柱を得たことが、そのまま安定をもたらしたわけではない。完了の直前には販売権の返還で対価が305億円から221億円へと下げられ、連結の規模を一気に広げた放射性医薬品も、のれんと無形資産の償却という重みを同時に持ち込んだ。2025年12月期に売上が縮み営業損益が赤字へ転じた事実は、事業を二本柱へ組み替える判断が、規模の拡大と利益の変動を抱き合わせで連れてくることを示している。祖業の高い収益に、性質の異なる製造販売事業をどう噛み合わせるかは、買収を終えたあとに残された課題だとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
受託と提携で伸びた高収益の単一プラットフォーム
ペプチドリームは、独自の創薬開発プラットフォームPDPSを軸に、世界の製薬大手との共同研究と、技術ライセンスの供与という二つの収入で伸びてきた。2020年12月期の売上高は116億円、営業利益は69億円で、営業利益率は59%に達していた。提携する企業は共同研究で20社、技術ライセンスで9社に及び、関与する開発プログラムは120件を数えた。ただ、その稼ぎは他社との提携と受託の上に立ち、同社は自ら製造販売する医薬品を持っていなかった[1]。
創業者の窪田規一氏は、市場が同社に求めるのは自社のプラットフォームから年に数件の新薬が生まれることであり、その期待に応えられなければ評価は続かないとみていた。一時は8000億円台に達した時価総額を支えた期待は、提携を発表しても株価が反応しにくくなる形で陰りを見せ始めていた。単一の創薬プラットフォームに収益を託す構造から、次の柱をどう立てるかが、次の世代へ残された課題であった[2]。
放射性医薬品という次の柱への布石
次の柱の候補として同社が早くから見ていたのが、放射性医薬品であった。2019年、ペプチドリームはノバルティスと放射性核種ペプチド複合体(RI-PDC)の共同開発契約を結び、PDPSで生み出す特殊ペプチドを放射性核種の運び手として使う領域に踏み込んだ。ペプチドで狙った標的にだけ放射性元素を届けられれば、がんの診断と治療を同じ仕組みで担うセラノスティクスが視野に入る。同社はこの領域を、重要な戦略の一つに位置づけていた[3][4]。
もっとも、共同研究や提携で技術を持ち寄るだけでは、放射性医薬品を自ら製造し、販売する足場は手に入らない。放射性医薬品は、半減期の短い核種を扱うために製造から供給までの体制が特殊で、既存の設備と人材、承認済みの製品を持つ相手と組む道が現実的であった。ペプチドの創薬技術という強みを、製造販売まで届く事業へ変えるには、その基盤ごと取り込む一手が現実味を帯びていた[5]。
決断
富士フイルム富山化学からの事業取得
2021年9月2日、ペプチドリームは、富士フイルムの子会社である富士フイルム富山化学から、放射性医薬品事業を買収すると発表した。富士フイルム富山化学がこの事業を会社分割で新会社に承継し、ペプチドリームがその全株式を取得する仕組みで、取得額は305億円を見込んだ。手続きは2022年3月に完了する予定とされた。研究開発の受託と技術ライセンスに寄っていた事業構成へ、製造販売を持つ事業を接ぐ買収であった[6]。
買収の狙いは、ペプチド薬物複合体の技術と、富士フイルム富山化学が積み上げた放射性医薬品の事業基盤を融合させ、研究開発から製造販売までを一つにつないだプラットフォームを築くことに置かれた。ペプチドと放射性元素を結び付け、体内のがん組織にだけ放射性元素を集めて診断と治療に用いる仕組みである。同社はこの構想のもとで、国内で首位の放射性医薬品企業になることを掲げた[7]。
放射性医薬品を第二の柱に据える組み替え
この買収は、単に事業を一つ増やすものではなかった。自社製品と製造販売網を持たなかったペプチドリームにとって、承認済みの放射性医薬品と、それを製造・供給する設備や人員を一度に取り込む手立てであった。共同研究と技術ライセンスという契約収入に立つ祖業に対し、実際の製品を売って上がる収益の柱を並べる——放射性医薬品を第二の柱に据える組み替えが、この判断の核にあった[8]。
取得は2022年3月に完了し、承継先の新会社は「PDRファーマ株式会社」の商号でペプチドリームの連結子会社となった。放射性医薬品事業を営むこの会社を傘下に収めたことで、同社の連結の事業構成は、創薬プラットフォームの事業と、放射性医薬品の製造販売という二つの事業を並べる構えに変わった。創業から16年で、事業構造を大きく組み替える買収が一つの区切りを迎えた[9]。
結果
対価の減額と連結業績への寄与
完了の直前、取得の条件が一度書き換えられた。2022年3月22日、譲渡の対象だった放射性医薬品ルタテラ静注とライザケア輸液の国内販売権を、富士フイルム富山化学が導入元であるノバルティス傘下の会社へ返還することが決まった。これに伴い、ペプチドリームが支払う対価は、当初の305億円から221億円へ減額された。買収の枠組みそのものは保ちつつ、取り込む販売権の一部を手放す形で、価格が調整された[10]。
取り込んだ放射性医薬品の販売は、連結業績を押し上げた。2021年12月期に94億円だった連結売上高は、2022年12月期に269億円へ跳ね上がり、以後も2024年12月期の467億円まで伸びた。もっとも、買収で生じたのれんと無形資産の償却は利益を圧迫し、2025年12月期は売上が185億円へ落ち込み、営業損益も赤字に転じた。第二の柱は連結の規模を一気に広げた一方で、その重みも同時に持ち込んだといえる[11][12]。
- 週刊東洋経済 2021年4月17日号「沸騰!医療テックベンチャー 営業利益率59%の優等生 ペプチドリームの快進撃」
- 日本経済新聞 2021年9月2日「ペプチドリーム、富士フイルムの放射性医薬品事業買収」
- 薬事日報 2021年9月7日「【ペプチドリーム】放射性医薬品事業を買収‐富士フイルムから305億円で」
- 会社四季報オンライン「ペプチドリーム、大型買収の先に描く『第2の成長戦略』」
- ミクスOnline 2022年3月23日「富士フイルム ペプチドリームへの放射性医薬品事業の譲渡契約変更」
- ペプチドリーム 有価証券報告書 第17期(2022年12月期)【沿革】
- ペプチドリーム 有価証券報告書(連結・IFRS)