筆者の見解
素人が主役の店という賭け
この判断の核心は、不動産という本業から遠く離れた小売に、しかも玄人の効率を捨てた素人商法で挑んだ点にある。売れ筋に絞らず客の選択にまかせるという発想は、生産性で競う小売の常識からみれば非効率そのものだった。だが、余暇と趣味に個人が時間と金を使い始めた時代に、一芸のプロが並ぶ売り場と探す楽しさは確かな支持を得た。渋谷の使い道に困ったビルから生まれた業態が、後にグループの流通事業へと育ったことを思えば、立地の不利を発想の自由で埋めた賭けであったと推察される。
もっとも、素人商法の強さは、そのまま拡大の難しさでもあった。人のセンスに依存する売り場は、店舗数が増えるほど標準化しにくく、手作りの魅力とチェーン経営の効率は容易には両立しない。多品種少量で高い粗利を稼ぐモデルは、在庫と人件費の重さと背中合わせであった。結局ハンズは半世紀を経て東急不動産ホールディングスの手を離れ、資本効率を軸に事業を選別する再構築のなかで譲渡された。始まりと終いの両方が、余暇時代への多角化とその後の選択と集中という、デベロッパーの二つの時代を映しているといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月