アクセンチュアを提訴(2022年・NIPPON EXPRESSHDの決断)

更新:
論点 膨らむ基幹システム開発を打ち切るか
NIPPON EXPRESSHD:業績の推移
売上高(億円)当期純利益率(%)
新・国際航空貨物基幹システムの開発断念と154億円の全額減損

何をなぜ決めたか:新・国際航空貨物基幹システムの開発断念と154億円の全額減損

概要

日本通運が航空運送事業のグローバル共通基盤として2017年4月に着手した「新・国際航空貨物基幹システム」は、稼働に至らないまま2022年12月期に開発が断念され、ソフトウェアの帳簿価額154億6100万円が全額減損された。

背景

このシステムは2018年3月期の重要な設備の新設等の計画に総予定額189億7500万円・完了予定2022年3月として初めて載り、翌期には276億2900万円、2020年3月期には308億7800万円へ膨らんだ。完了予定は2024年3月へ2年後ろにずれ、以後は据え置かれたまま既支払額だけが140億3200万円まで積み上がった。

内容

断念の理由として挙げられたのは、当初計画よりも開発コストの増加、開発期間の延長等が見込まれたことである。システム開発に係る資産は遊休資産とされ、処分コスト控除後の公正価値をゼロと見積もったうえで、帳簿価額の全額が損失として認識された。転用も売却も見込まないという整理である。

含意

NIPPON EXPRESSホールディングスの取締役会は2023年度に開発断念の検証結果の報告を受けている。一方で、開発の委託先が誰であったかも、断念によって生じた損失の負担がその後どう扱われたかも、有価証券報告書には記載がない。委託先のアクセンチュアに対する2023年7月の提訴は、有報の外側で明らかになったものである。

いつ何が起きたか 5件
考察:断念は、5年遅れて届いた答え合わせだった
考察

考察:断念は、5年遅れて届いた答え合わせだった

この判断を「一度きりの打ち切り」として読むと、肝心なところを取り逃がす。総予定額は189億円で始まり、翌期に276億円、その次の期に309億円へ膨らんだ。完了予定は2022年3月から2024年3月へ2年後ろにずれ、そこから断念まで動かなかった。計画が狂っていることは毎期の開示に現れていたのであり、断念とはその狂いを4年遅れで帳簿の側から確定させた処理であったのだろう。膨らむ総予定額と伸びる完了予定を、投資を止める材料として読む仕組みが働いていたかどうかが問われる。

もっとも、断念そのものの処理は迷いがない。遊休資産として公正価値をゼロと見積もり、転用も売却も見込まず帳簿価額の全額を落とす——中途半端に資産を残さない判定であり、取締役会が翌年度に検証結果の報告を受けたことも監督の手続きとしては筋が通っている。残るのは、開発の委託先も損失の負担の行方も有価証券報告書には現れないことだ。会社が何を学んだかは検証結果の題名までしか外に出ておらず、この投資が最終的に誰の負担に落ち着いたのかは、いまも有報の外側にある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

NIPPON EXPRESSHD:新・国際航空貨物基幹システムの投資計画の推移

既支払額(百万円)今後の所要資金(百万円)
NIPPON EXPRESSHD:新・国際航空貨物基幹システムの投資計画の推移
(百万円) 総予定額既支払額 備考
2018年3月期 18,9750 計画に初めて載った期。既支払額の記載は「-」。完了予定は2022年3月
2019年3月期 27,6294,455 総予定額が8,654増加。完了予定は2021年12月に
2020年3月期 30,8788,450 完了予定が2024年3月へ。当初から2年後ろにずれた
2021年3月期 30,87812,381 総予定額・完了予定とも据え置き
2021年12月期 30,87814,032 決算期変更による9か月決算。計画に載った最後の期
出所:日本通運 有価証券報告書 第112〜116期【設備の新設、除却等の計画】
出所:日本通運 有価証券報告書 第112〜116期【設備の新設、除却等の計画】

NIPPON EXPRESSHD:新・国際航空貨物基幹システムの減損と減損損失の推移

新・国際航空貨物基幹システム(百万円)その他の減損損失(百万円)
NIPPON EXPRESSHD:新・国際航空貨物基幹システムの減損と減損損失の推移
(百万円) 新・国際航空貨物基幹システム減損損失合計 備考
2022年12月期 15,46139,406 開発を断念し全額減損。医薬品事業19,978なども合計に含む
2023年12月期 08,266 このシステムに係る減損損失の計上はない
2024年12月期 09,747 特積み事業の統合に伴う減損テストで6,482を計上した
2025年12月期 068,678 欧州(ロジスティクス)ののれん59,211を含む
出所:NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1〜4期【連結財務諸表注記 減損損失】
出所:NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1〜4期【連結財務諸表注記 減損損失】

NIPPON EXPRESSHD:定時株主総会における取締役選任の賛成率

NIPPON EXPRESSHD:定時株主総会における取締役選任の賛成率
(%) 齋藤充堀切智 備考
2025年3月総会(第3回) 94.795.57
2026年3月総会(第4回) 75.5586.8 齋藤充は代表取締役会長で取締役会議長を務める
出所:NIPPON EXPRESSホールディングス 臨時報告書(第3回・第4回定時株主総会の議決権行使結果)
出所:NIPPON EXPRESSホールディングス 臨時報告書(第3回・第4回定時株主総会の議決権行使結果)

開発断念と減損の条件

開発断念と減損の条件
科目 概要 備考
対象のシステム 新・国際航空貨物基幹システム 航空運送事業におけるグローバル共通基盤の構築を目的に開発した
開発した会社 日本通運株式会社 報告セグメントは日本(ロジスティクス)。所在地は東京
着手 2017年4月 2018年3月期の有報では着手を2018年4月としていた
当初の総予定額 18,975百万円 2018年3月期の重要な設備の新設等の計画に初めて載った
最終の総予定額 30,878百万円 2020年3月期に増額され、以後2021年12月期まで据え置かれた
当初の完了予定 2022年3月 2018年3月期時点の予定。着手から3年11か月を見込んでいた
最終の完了予定 2024年3月 2020年3月期に2年後ろへずれ、断念まで変わらなかった
断念までの既支払額 14,032百万円 2021年12月期末時点。減損した帳簿価額は15,461百万円
開発を断念した理由 開発コストの増加と開発期間の延長 当初計画よりも増加・延長が見込まれたため断念を決定した
断念後の資産の扱い 遊休資産 システム開発に係る資産(ソフトウェア)を遊休資産とした
回収可能価額 処分コスト控除後の公正価値をゼロ 公正価値ヒエラルキーはレベル3に該当する
減損損失 15,461百万円 帳簿価額の全額。連結損益計算書の「その他の費用」に含めて計上した
減損を計上した期 2022年12月期 持株会社移行後の第1期。連結会計年度は2022年1月1日から12月31日
取締役会の検証 2023年度に検証結果を報告 取締役会の報告議題に開発断念の検証結果が挙がっている
開発の委託先 有価証券報告書に記載なし 損失の負担をめぐる係争も第1期から第4期まで有報には記載がない
出所:日本通運 有価証券報告書 第112〜116期【設備の新設、除却等の計画】/NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1期(2022年12月期)【連結財務諸表注記 減損損失】・第2期(2023年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:日本通運 有価証券報告書 第112〜116期【設備の新設、除却等の計画】/NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1期(2022年12月期)【連結財務諸表注記 減損損失】・第2期(2023年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
参考文献

参考文献

参考
  • 日本通運 有価証券報告書 第112期(2018年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 日本通運 有価証券報告書 第112期(2018年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 日本通運 有価証券報告書 第113期(2019年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 日本通運 有価証券報告書 第114期(2020年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 日本通運 有価証券報告書 第115期(2021年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 日本通運 有価証券報告書 第116期(2021年12月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1期(2022年12月期)【連結財務諸表注記 減損損失】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1期(2022年12月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1期(2022年12月期)【会計上の見積りに関する注記】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第2期(2023年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1期(2022年12月期)【事業等のリスク】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第1期(2022年12月期)【連結財務諸表注記 偶発事象】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第4期(2025年12月期)【連結財務諸表注記 減損損失】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書 第4期(2025年12月期)【無形固定資産等明細表】
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 招集通知「第1回定時株主総会招集ご通知」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 株主総会決議通知「第1回定時株主総会決議ご通知」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 株主総会決議通知「第2回定時株主総会決議ご通知」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 臨時報告書「第3回定時株主総会における議決権行使結果」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 臨時報告書「第4回定時株主総会における議決権行使結果」
  • 日本通運 有価証券報告書「第112期(2018年3月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • 日本通運 有価証券報告書「第113期(2019年3月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • 日本通運 有価証券報告書「第114期(2020年3月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • 日本通運 有価証券報告書「第115期(2021年3月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • 日本通運 有価証券報告書「第116期(2021年12月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書「第1期(2022年12月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書「第1期(2022年12月期)【連結財務諸表注記】固定資産の減損」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書「第2期(2023年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • NIPPON EXPRESSホールディングス 有価証券報告書「第4期(2025年12月期)【連結財務諸表注記】減損損失」

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