米Korosealの買収(2016年・サンゲツの決断)

更新:
論点 米国の壁装材メーカーを買収するか
サンゲツ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
壁装材大手の取り込みによる海外進出と、専業卸からの脱却

何をなぜ決めたか:壁装材大手の取り込みによる海外進出と、専業卸からの脱却

概要

2016年11月14日、サンゲツが買収のために設立した連結子会社Sangetsu USA, Inc.が、米国オハイオ州の壁装材メーカーKoroseal Interior Products Holdings,Inc.の全株式を14,276百万円の現金で取得し、完全子会社とした経営判断。有価証券報告書は、Korosealが壁装材製造販売の分野で米国内最大のシェアを持ち、商品面や営業面において自社の事業形態と酷似していることから、早期の相互理解とインテリア事業におけるシナジー効果を期待できるとし、米国における壁装材、床材、ファブリックを含めたインテリア素材全般をカバーするビジネスモデルの構築を目的としたと記している。

背景

有価証券報告書は、1953年の株式会社山月堂商店設立当初からトータルインテリアの考えに基づく商品バリエーションの拡充と全国を網羅するジャストインタイムの物流体制構築を行い、これらの施策が奏功して会社設立以来赤字に陥ることなく長期にわたって安定的な業績を継続してきたと記している。そのうえで、急激なグローバル化や消費者ニーズの多様化、人口減少による住宅市場の縮小により市場環境は常に変化しており、これに合わせた変革をさらに加速度的に実行する必要があるとしていた。2014年4月に社長へ就任した安田正介氏のもとでの、地域ごとの成長戦略の一手であった。

内容

法的形式は米国の企業再編法制に基づく逆三角合併による買収で、対価は全額現金。企業結合日は2016年11月14日だが、被取得企業の決算日が12月31日であることからみなし取得日を2016年12月31日とし、取得した期は貸借対照表のみを連結して損益は取り込んでいない。取得原価の配分は取得した期には完了せず、のれんは暫定で10,877百万円と算定された。翌2018年3月期に確定処理が行われ、のれんは4,815百万円減って6,062百万円となり、代わりに商標権6,161百万円と無形固定資産その他4,753百万円が立った。

含意

買収後の減損は4期にわたった。2019年3月期に顧客関連・技術の無形資産1,204百万円、2020年3月期にのれん3,972百万円と無形資産1,976百万円の計5,948百万円、2021年3月期に技術の無形資産46百万円、2022年3月期に商標権5,593百万円を、いずれも米国オハイオ州の資産グループについて特別損失に計上している。海外セグメントの営業損益は2018年3月期の870百万円の損失から2022年3月期の1,821百万円の損失まで赤字が続き、2026年3月期に46百万円の損失まで縮んだ。取得時に立てた無形資産の大半は、事業計画の見直しのたびに帳簿から落ちていった。

いつ何が起きたか 10件
考察:安定収益を手放す、という選択
考察

考察:安定収益を手放す、という選択

払った14,276百万円に対し、受け入れた資産は8,839百万円、引き受けた負債は5,440百万円で、正味の資産は3,399百万円にすぎない。差額の10,877百万円が、当初はのれんとして立った。有価証券報告書は結合の理由に米国内最大のシェアと事業形態の酷似を挙げているが、値がついたのは工場でも在庫でもなく、その地位そのものであっただろう。会社設立以来赤字に陥ることなく続いた国内の安定を、あえて別の地面に置き換えようとした判断であった。

翌期の確定処理で、のれんの半分近くは商標権へ姿を変えた。名前に値をつけ直したわけだが、その商標権も2022年3月期に5,593百万円が減少している。2019年3月期からの4期で、取得時に立てた無形の資産はほとんど帳簿から消えた。一方で海外セグメントの売上高は2018年3月期の17,151百万円から2026年3月期には35,029百万円へ伸び、営業損失は46百万円まで縮んでいる。買った値打ちが帳簿から消えたことと、買った事業が育たなかったことは、同じではないのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

サンゲツ:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
サンゲツ:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産合計総資産 備考
2012年3月期 0363142,247 連結貸借対照表に「のれん」の科目はない
2013年3月期 0328139,205
2014年3月期 0346145,903
2015年3月期 0332143,076
2016年3月期 01,295139,220
2017年3月期 7,00120,471169,344 取得原価の配分が確定した後の額。取得した期の開示は10,929と13,484
2018年3月期 6,13519,739171,419 Goodrichの確定処理を反映した組替後の額
2019年3月期 4,68016,686170,875 顧客関連・技術の無形資産1,204百万円を減損
2020年3月期 409,233164,101 のれん3,972百万円と無形資産1,976百万円を減損
2021年3月期 1,59110,030158,665 のれんの増加は株式会社ウェーブロックインテリアの子会社化による
2022年3月期 1,4744,058147,943 商標権5,593百万円を減損
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第60期〜第70期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第60期〜第70期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)

サンゲツ:海外セグメントの推移

海外セグメントの売上高(百万円)営業利益率(%)
サンゲツ:海外セグメントの推移
(百万円) 海外セグメントの売上高海外セグメントの営業損益 備考
2017年3月期 19△26 みなし取得日が12月31日のため、Korosealの損益は含まれていない
2018年3月期 17,151△870 Korosealを通年で取り込んだ最初の期
2019年3月期 20,920△960 無形資産1,204百万円の減損を含む
2020年3月期 19,804△932 のれんと無形資産の減損5,948百万円を含む
2021年3月期 15,034△985 無形資産46百万円の減損を含む
2022年3月期 15,930△1,821 商標権5,593百万円の減損を含む
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第65期〜第70期(セグメント情報、報告セグメントごとの売上高・利益又は損失、固定資産の減損損失に関する情報)
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第65期〜第70期(セグメント情報、報告セグメントごとの売上高・利益又は損失、固定資産の減損損失に関する情報)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 Koroseal Interior Products Holdings,Inc. 事業の内容は壁装材製造販売。所在地は米国オハイオ州
取得の主体 Sangetsu USA, Inc. サンゲツが設立した連結子会社。現金を対価に全株式を取得した
株式取得契約の締結日 2016年11月14日 【経営上の重要な契約等】に記載。企業結合日と同じ日
企業結合日 2016年11月14日 みなし取得日は2016年12月31日。取得した期は貸借対照表のみを連結
企業結合の法的形式 逆三角合併による買収 米国の企業再編法制に基づく
取得した議決権比率 100% 結合後企業の名称に変更はない
取得原価 14,276百万円 対価は全額現金
取得関連費用 265百万円 アドバイザリー費用等
受け入れた資産 8,839百万円 流動資産6,234百万円、固定資産2,605百万円
引き受けた負債 5,440百万円 流動負債3,741百万円、固定負債1,698百万円
のれん(暫定) 10,877百万円 10年間にわたる均等償却。取得原価の配分が未了のための暫定額
のれん(確定) 6,062百万円 2018年3月期に確定し4,815百万円減。商標権6,161百万円が立った
通期換算した業績への影響 記載なし 概算額の合理的な算定が困難であるとして計算していない
結合を行った主な理由 米国内最大のシェアと事業形態の酷似 米国でインテリア素材全般をカバーするビジネスモデルの構築が目的
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第65期(2017年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】・第66期(2018年3月期)【企業結合等関係】
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第65期(2017年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】・第66期(2018年3月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • サンゲツ 有価証券報告書【沿革】【役員の状況】
  • サンゲツ 有価証券報告書(連結)
  • サンゲツ SANGETSU REPORT 2017
  • サンゲツ 2026年3月期 決算補足説明資料
  • サンゲツ 有価証券報告書「第65期(2017年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】」
  • サンゲツ 有価証券報告書「第66期(2018年3月期)【企業結合等関係】」
  • サンゲツ 有価証券報告書「第67期〜第70期(2019年3月期〜2022年3月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報】」
  • サンゲツ 有価証券報告書「第60期〜第70期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)」

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