筆者の見解
一点集中が残したもの
この転換の中心にあるのは、家業として持っていた技術ではなく、市場を読み替える判断であったように見える。表具の腕そのものは、洋風化する住宅内装にそのまま生かせるものではなかった。それでも、襖や掛軸を扱ってきた商流と職人との結びつきを土台に、まだ市場になっていない壁紙へ先んじて賭けた。伝統工芸の担い手が自らの得意技を手放し、新しい商材の流通業へ立ち位置を移した点に、この判断の思い切りがうかがえる。
一点集中の代償として、サンゲツは長く国内内装という単一市場に依存する体質を抱えることにもなった。壁紙という新興市場を先取りした強みは、そのまま国内偏重という構造課題の裏返しでもある。半世紀を経て海外M&Aやスペースクリエーションへの転換を迫られる同社の姿は、1953年の一点集中がもたらした果実と課題の両方を映していると思われる。未成熟市場へ最初に参入する選択が、その後の長い成功と、次の転換の必要をともに用意したといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月