スペースクリエーション企業へ転換(2020年・サンゲツの決断)

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論点 専業卸から空間提案へ転換するか
サンゲツ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
長期ビジョン「DESIGN 2030」に掲げた事業領域の転換宣言

何をなぜ決めたか:長期ビジョン「DESIGN 2030」に掲げた事業領域の転換宣言

概要

2020年5月、2030年3月期を終期とする10か年の長期ビジョン「DESIGN 2030」を策定し、内装企業からスペースクリエーション企業への転換を掲げた。人的資本とデジタル資本を基盤としたデザイン力とクリエイティビティにより、空間デザイン提案・スペース材料提供・在庫配送物流・施工の4機能を統合し、環太平洋地域でグローバルに展開する企業像を示した。

2030年3月期の定量目標は連結売上高2,250億円・連結営業利益185億円。ファーストステップとして3か年の中期経営計画「D.C.2022」を同時に置き、2023年3月期に連結売上高1,720億円・連結営業利益120億円・ROE9.0%の達成を目指した。

背景

2014年からの6年間は「Next Stage Plan G」「PLG 2019」の2つの中期経営計画に沿って事業の変革を進めてきたが、策定期にあたる2020年3月期のROEは1.5%にとどまり、PLG 2019の定量目標には届かなかった。

連結売上高1,613億円のうち国内インテリアが1,213億円を占める一極集中の構造は変わらず、2016年のKoroseal買収で加わった海外セグメントは、売上高198億円に対してセグメント損失9億円と赤字が続いていた。

内容

長期ビジョンは、経営の基本にデザイン経営を、経営・事業の基盤に多様性のある専門人材と事業関連データの連携・活用を、主要機能に「サービス売りへの完全転換」を、事業エリアに環太平洋地域を置いた。中期経営計画「D.C.2022」は、基幹事業の質的成長による収益の拡大、基幹事業のリソースに基づく次世代事業の収益化、経営・事業基盤の強化、社会的価値の実現の4本柱で構成し、海外とスペースクリエーションの2セグメントを次世代事業に位置付けた。

資本配分は策定時には未定とし、3年間の業績見通しが固まった2021年5月に、成長投資200〜260億円・株主還元170〜190億円と決めた。

含意

受注即出荷の商材販売から、空間を構想・設計・施工する事業へ位置付けを移す方針は、1953年の会社設立以来の専業卸モデルからの離脱宣言であった。スペースクリエーションセグメントの売上高は、初開示の2020年3月期41億円から2023年3月期77億円へ伸びたのち、翌期に国内インテリアセグメントへ統合された。

2023年5月には長期ビジョンそのものを見直し、2030年3月期の定量目標を連結売上高2,500億円・連結営業利益270億円へ引き上げている。方針は中期経営計画「BX 2025」と2024年1月の新企業理念へ引き継がれ、次代の承継にまたがる長期の転換となった。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 7名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

考察:「卸をやめる」と言い切ることの重さ
考察

考察:「卸をやめる」と言い切ることの重さ

この長期ビジョンの核心は、掲げた数値目標よりも、自らの事業の呼び名を変えると宣言した点にあるように見える。主要機能に据えた「サービス売りへの完全転換」という言葉は、商材を右から左へ流すことで得てきた付加価値を、自ら将来の制約と認めるに等しい。売上の4分の3を国内インテリアが稼ぐ構造のただ中で、その構造こそが頭打ちの正体だと言い切った。完成した事業モデルを持つ会社ほど成功体験は手放しにくい。成功の渦中で自己定義を書き換えたところに、この宣言の重さがある。

もっとも、宣言と実態のあいだにはなお距離が残る。転換の象徴だったスペースクリエーションセグメントは、77億円まで育ったところで独立した区分を終え、国内インテリアへ吸収された。2023年5月の見直しで2030年3月期の売上目標は2,500億円へ引き上げられたが、収益源は依然として国内インテリアにあり、海外セグメントは2025年3月期も損失を残す。空間を構想し施工する事業は、商材を卸す事業とは別の組織能力を要する。宣言から5年を経て問われているのは、転換の意思ではなく、その能力をどう獲得するかだと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

サンゲツ:長期ビジョンの目標と連結業績の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
サンゲツ:長期ビジョンの目標と連結業績の推移
(百万円) 売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2015年3月期 132,0508,0314,402
2016年3月期 133,9729,1126,393
2017年3月期 135,6407,5726,570
2018年3月期 156,3905,0334,514
2019年3月期 160,4225,8953,579
2020年3月期 161,2659,2681,432 長期ビジョン策定期。ROEは1.5%でPLG 2019の定量目標に届かなかった
2021年3月期 145,3166,7014,780 D.C.2022の初年度。新型コロナウイルス感染拡大により減収
2022年3月期 149,4817,959276
2023年3月期 176,02220,28014,005 D.C.2022の最終年度。目標の売上高1,720億円・営業利益120億円をいずれも上回る
2024年3月期 189,85919,10314,291
2025年3月期 200,37818,17412,567 見直し後の2030年3月期目標2,500億円に対し、売上高は2,004億円
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第63〜73期(連結損益計算書)
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第63〜73期(連結損益計算書)

サンゲツ:セグメント別売上高の推移

サンゲツ:セグメント別売上高の推移
(百万円) 国内インテリア国内エクステリア海外スペースクリエーション 備考
2015年3月期 113,36414,698−− ほかに照明器具セグメント(山田照明)の売上高3,988がある
2016年3月期 115,14014,712−−
2017年3月期 116,63714,77819− 2016年11月のKoroseal買収により海外セグメントが発生
2018年3月期 120,56115,01317,151−
2019年3月期 119,15716,11820,920− 2019年4月に山田照明を譲渡し、照明器具セグメントは消滅
2020年3月期 121,25816,07919,8044,122 スペースクリエーションセグメントを新設し、売上高4,122を初めて開示
2021年3月期 110,46214,62415,0345,195
2022年3月期 121,4145,82215,9306,315 エクステリアの減少は収益認識に関する会計基準の適用によるもの
2023年3月期 147,9466,29221,783− 翌期に国内インテリアへ統合。統合前のスペースクリエーションの売上高は7,709
2024年3月期 159,1516,41524,292−
2025年3月期 163,9846,59929,794− 海外は過去最高の売上高ながら、セグメント損失785を計上
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第63〜73期【セグメント情報等】
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第63〜73期【セグメント情報等】

長期ビジョンの条件

長期ビジョンの条件
科目 概要 備考
対象期間 2020年度から2030年3月期までの10か年
目指す企業像 スペースクリエーション企業 内装企業から、空間デザイン提案・スペース材料提供・在庫配送物流・施工の4機能を統合する企業へ
連結売上高の目標 2,250億円(2030年3月期) 2023年5月の見直しで2,500億円へ引き上げ
連結営業利益の目標 185億円(2030年3月期) 2023年5月の見直しで270億円へ引き上げ
事業エリア 環太平洋地域 環太平洋地域各国での強固な事業とグローバルな展開
ファーストステップの中期経営計画 中期経営計画(2020-2022)[D.C.2022] D.C.はDesign & Creation。2020年度から2022年度までの3か年
D.C.2022の定量目標 連結売上高1,720億円・連結営業利益120億円(2023年3月期) ほかに連結純利益85億円、ROE9.0%、ROIC9.0%、CCC65日
3年間の成長投資 200〜260億円 策定時は未定とし、3年間の業績見通しが明確になった2021年5月に決定
3年間の株主還元 170〜190億円 3年間の総額で総還元性向を略100%とし、自己資本は900〜950億円の範囲で維持
社会的価値の目標 女性管理職比率20%以上・障がい者雇用率4%以上(2023年3月期) ほかにGHG排出量30%削減(2018年度比・2031年3月期目標)、リサイクル率83%以上
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第68期(2020年3月期)・第69期(2021年3月期)・第73期(2025年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
出所:サンゲツ 有価証券報告書 第68期(2020年3月期)・第69期(2021年3月期)・第73期(2025年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
当時の取締役 7名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • サンゲツ 中期経営計画 BX 2025(2023年5月)
  • サンゲツ 有価証券報告書【沿革】
  • サンゲツ 有価証券報告書(連結)
  • サンゲツ 適時開示「Sangetsu Group長期ビジョン[DESIGN 2030]」
  • サンゲツ 有価証券報告書「第68期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • サンゲツ 有価証券報告書「第69期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • サンゲツ 有価証券報告書「第73期(2025年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • サンゲツ 統合報告書「SANGETSU REPORT 2020」

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