ソフトバンクグループ 米スプリントの買収 大型買収を足がかりとした北米携帯市場への進出と海外展開の本格化

更新:

時期 2012年10月
当時の社長 孫正義
論点 通信事業の海外展開と規模拡大の是非
何をなぜ決めたか
概要

ソフトバンクが2012年10月15日にスプリントとの合併契約を締結し、2013年7月10日に支配を獲得した買収。投資総額は約216億米ドルで、取得原価は2兆1,886億円、取得した持分は完全希薄化ベースで約78%であった。国内キャリアから北米の巨大市場へ進出した経営判断である。

背景

2006年のボーダフォン日本買収で通信キャリアとなったソフトバンクは、基地局投資で国内3位を固めたが、国内市場は成熟へ向かっていた。有報は本取引の目的として、両社を合計した顧客基盤が日米市場で最大規模になり、世界最大級のモバイルインターネットカンパニーとしての事業基盤を確立できる点を挙げている。

内容

米国子会社を通じて185億米ドルを追加出資し、2012年10月に引き受けていた転換社債31億米ドルと合わせて総額216億米ドルを投じた。うち約166億米ドルが既存株主への対価、50億米ドルがスプリントの財務体質の強化などに充てられた。既存株主は1株7.65米ドルの現金か新会社株式を選べた。

含意

支配獲得日以降の9か月弱でスプリント事業は売上高2兆6,010億円を積み増した一方、純損失は1,883億円に上った。2020年4月1日のTモバイルとの合併完了で子会社から外れ、支配喪失利益7,208億円を計上している。通信キャリアから投資持株会社への転換を加速する一里塚となった。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

買収で規模は得ても、日本の手法は通じたか

この買収の核心は、成功体験の移植がどこまで通じるかという問いにある。ソフトバンクは日本で、基地局への集中投資と料金競争という明確な手法でキャリア事業を立て直した実績を持っていた。有報が掲げた目的も、スマートフォンと次世代モバイルネットワークに関する知見、成熟市場で競合してきた経験をスプリントの競争力強化に活用するというものであった。約216億米ドルで規模は即座に買えたが、支配獲得日以降の9か月弱で純損失1,883億円という数字が示すとおり、赤字体質という中身までは金額では変えられなかった。

もっとも、結果として手を離れたことが、ソフトバンクにとって失敗だけを意味したわけではない。スプリントはTモバイルとの合併で存続の道を得て、ソフトバンクは支配喪失利益7,208億円を計上し、通信キャリアという重い資産を抱え続ける立場から一歩退いた。世界規模の通信への賭けは、キャリアとしての頂点を極める構想とは別に、同社を投資持株会社へと押し出す力としても働いた。規模を追った判断が、皮肉にも別の方向への転換を早めた事例といえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
合併契約の締結日 2012年10月15日 2013年6月11日に投資総額を約201億米ドルから約216億米ドルへ増やす変更に合意した
支配獲得日 2013年7月10日 スプリント株主総会は6月25日(米国東部時間)に承認。契約から約9か月後にあたる
企業結合の法的形式 合併子会社を消滅会社とする吸収合併 米国持株会社の下に新スプリントを置き、スプリントを存続会社として現金と株式を交付した
投資総額 約216億米ドル 約166億米ドルが既存株主へ、50億米ドルがスプリントの財務体質の強化などへ充てられた
既存株主への対価 1株7.65米ドル 現金か新会社株式かの選択制。旧スプリント株式の約72%が現金と交換された
取得原価 2兆1,886億円 現金1兆8,751億円と、保有していた新株予約権付社債の転換分3,135億円の合計
取得した持分比率 約78% 完全希薄化ベース。2013年8月から9月に約2%を5億米ドルで買い増し約80%となった
取得関連費用 121億円 2013年3月期に37億円、2014年3月期に83億円を販売費及び一般管理費へ計上した
受け入れた資産 7兆6,595億円 うち無形資産5兆3,012億円。負債は5兆5,898億円で、純資産は2兆697億円であった
のれん 2,752億円 為替予約の公正価値3,116億円を控除後。支配獲得後の修正で192億円減った額
業績への影響 売上高2兆6,010億円 支配獲得日以降の9か月弱。同期間の純損失は1,883億円であった
支配喪失日 2020年4月1日 Tモバイルとの合併完了で子会社から除外。支配喪失利益7,208億円を計上した

出所:ソフトバンク 有価証券報告書 第33期(2013年3月期)【経営上の重要な契約等】・第34期(2014年3月期)連結財務諸表注記【企業結合】

のれん・無形資産・総資産の推移

ソフトバンクグループ:のれん・無形資産・総資産の推移

(百万円) のれん無形資産総資産 備考
2009年3月期 956,730−4,386,672 日本基準。無形固定資産はのれんを含む表示のため比較できず空欄とした
2010年3月期 900,768−4,462,875
2011年3月期 839,238−4,655,725
2012年3月期 780,242−4,899,705 日本基準最終期。IFRSへの移行日は2012年4月1日
2013年3月期 924,972528,6837,218,172 IFRSで遡及表示した額。転換社債31億米ドルの引き受けで総資産が増えた
2014年3月期 1,532,3056,177,70116,684,997 スプリントの連結で無形資産5兆3,012億円とのれん2,752億円が加わった
2015年3月期 1,663,3636,903,58221,034,169
2016年3月期 1,609,7896,439,14520,707,192
2017年3月期 4,175,4646,946,63924,634,212 アームの子会社化でのれんが2兆円台後半に積み上がった
2018年3月期 4,302,5536,784,55031,180,466
2019年3月期 4,321,4676,892,19536,096,476 スプリントは2019年3月期に20億米ドルの減損を計上したが、連結では減損を認識していない
のれんと無形資産
のれん(百万円)無形資産(百万円)

出所:ソフトバンクグループ 有価証券報告書 第30期〜第40期(連結財政状態計算書・連結貸借対照表)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • ソフトバンク 有価証券報告書 第33期(2013年3月期)【経営上の重要な契約等】
  • ソフトバンク 有価証券報告書 第34期(2014年3月期)連結財務諸表注記【企業結合】
  • ソフトバンクグループ 有価証券報告書 第41期(2021年3月期)連結財務諸表注記【非継続事業】
  • ソフトバンク 有価証券報告書「第33期(2013年3月期)有価証券報告書」
  • ソフトバンク 有価証券報告書「第34期(2014年3月期)有価証券報告書」
  • ソフトバンクグループ 有価証券報告書「第41期(2021年3月期)有価証券報告書」

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