丸和運輸機関との競合TOBを制したC&Fロジホールディングスの買収

丸和運輸機関が先に仕掛けたコールドチェーン争奪戦に、松本秀一社長はなぜ1株5,740円という高値で対抗したか

更新:

時期 2024年5月
意思決定者 松本秀一 社長
論点 コールドチェーン強化と競合TOBへの対抗
概要
SGホールディングスは2024年5月31日、食品低温物流大手のC&Fロジホールディングスに対し、1株5,740円・総額約1,237億円のTOB(株式公開買付け)を実施すると発表した。丸和運輸機関の持株会社AZ-COM丸和ホールディングスが先行して仕掛けていた1株3,000円のTOBに、松本秀一社長が対抗提案で応じた経営判断であった。
背景
C&Fは2022年、AZ-COM丸和から経営統合を持ちかけられたが、シナジーの限定性と企業文化の相違を理由に検討を打ち切った。その後AZ-COM丸和は2024年3月に単独でTOBへ踏み切り、トラック運転手の残業規制強化「2024年問題」で輸送能力が逼迫するなか、食品低温物流の担い手をめぐる同業間の争奪戦が表面化した。
内容
SGHDのTOBには発行済株式の84.83%にあたる1,828万7,006株が応募し、2024年7月に成立、C&Fは連結子会社となった。同年10月に上場を廃止し、翌2025年4月には低温物流子会社の名糖運輸を存続会社としてC&Fを吸収合併し、両社の物流網とノウハウを一体化した。
含意
公表前株価の2.8倍に当たる買付価格は「高値づかみ」との疑念を招いた一方、SGHDは食品の上流・中流を担うC&Fと佐川急便のラストワンマイル配送を組み合わせ、国内屈指のコールドチェーン構築を狙った。高値で得た資産をどう収益化するかが、統合後の課題として残った。
筆者の見解

高値の攻防が残したもの

この一連の攻防を振り返ると、SGHDが最終的に投じた1,237億円という金額は、先行したAZ-COM丸和の提示のおよそ1.9倍に達し、公表前の株価から見ても3倍近い水準まで積み上がっていた。当のAZ-COM丸和が自らの撤退にあたって「合理的な企業価値の評価に基づく水準とは考えられない」と述べたことは、C&Fという中堅の低温物流企業一社にどこまでの値をつけるべきかという論点が、競り合う双方に重くのしかかっていたことをうかがわせる。

もっとも、買収から半年余りで名糖運輸への吸収合併に踏み切った展開は、SGHDが単に株式を保有するにとどまらず、既存の低温物流基盤へ速やかに組み込む意図を持っていたことを示している。国内屈指のコールドチェーンという構想が実際の収益にどこまで結びつくかは、統合後のロジスティクス事業の採算にかかっており、高値で獲得した資産をどう生かすかという問いは、なお続いているとみることができる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

丸和運輸機関の先行提案とTOBへの転換

2022年10月、Amazonジャパンの配送を主力とする丸和運輸機関の持株会社AZ-COM丸和ホールディングスは、食品低温物流に強みを持つC&Fロジホールディングスへ経営統合を提案した。C&Fの取締役会は検討を重ねたが、2023年10月、シナジーの限定性と企業文化の相違を理由に、この提案の検討を中止するとAZ-COM丸和へ通知した[1]

統合提案を退けられたAZ-COM丸和は検証を重ねたうえで2024年1月にTOBへ方針を転換し、3月21日、C&F株1株につき3,000円、下限を発行済株式の過半にあたる1,084万8,304株とするTOBの実施を表明した。完全子会社化によって国内低温物流でのシェア上位を目指す考えを示した[2]

コールドチェーンをめぐる同業間の争奪

物流各社の背景には、トラック運転手の時間外労働規制が強化された「2024年問題」があった。輸送能力の逼迫が強まるなか、同業他社による買収合戦が起きる構図が生まれつつあり、C&Fのような食品低温物流に強みを持つ企業は、複数の物流会社にとって争奪の対象になっていた[3]

先に動いたAZ-COM丸和自身も、冷凍食品向けの低温物流倉庫に約850億円を投じる計画を掲げており、低温物流への布石を重ねていた。C&Fの獲得は、丸和運輸機関にとってAmazonジャパンの配送網に食品低温物流の機能を組み込む機会であり、単独でのTOBに踏み切る動機になっていたとみられる[4]

決断

SGホールディングスの対抗TOB

2024年5月31日、SGホールディングスは記者会見を開き、C&Fロジホールディングスに対して1株5,740円、全株式取得時の買付代金約1,237億円とするTOBを実施すると発表した。公表前の株価2,041円の2.8倍に当たる水準で、先行するAZ-COM丸和の3,000円提示を大きく上回る提案であった。買付期間は6月3日から7月12日までの30営業日とされた[5][6]

SGHDの松本秀一社長は、「異なる事業領域を補完し国内屈指のコールドチェーンをつくれる」と述べ、上流・中流を担うC&Fの物流網と、下流のラストワンマイル配送を担う佐川急便の物流網を組み合わせる考えを示した。C&Fの綾宏将社長も、「買付価格が最も高額であり、中長期的な成長を見据えるうえで優れている」としてSGHDの提案に賛同の意向を表明した[7][8]

AZ-COM丸和の撤退

対抗提案を受けたAZ-COM丸和は、買付価格の引き上げを検討したものの、2024年6月6日、1株3,000円のまま据え置いてTOBを断念すると発表した。同社は、SGHDの提示額が合理的な企業価値の評価に基づく水準とは考えられないとの結論に至ったとの見解を示した[9]

C&F側も大口顧客の離反を招くリスクを懸念し、複数の対抗提案を募っていた経緯があった。最終的に、より高い価格を提示したSGHDとの統合へ交渉は収れんし、丸和運輸機関によるコールドチェーン参入の企図は、このTOB合戦では実らなかった[10]

結果

TOB成立と完全子会社化

買付期間は2024年7月12日に終了し、応募株式数は発行済株式の84.83%にあたる1,828万7,006株で、成立の下限を上回った。買付総額は約1,050億円に達し、SGHDは同月22日付でC&Fロジホールディングスを連結子会社とした[11]

C&Fは同年9月、500万株を1株に併合する株式併合を決議し、10月9日付で東京証券取引所スタンダード市場の上場を廃止した。もっとも公表前株価の2.8倍という買付価格には、「明らかに高値づかみだ」(業界関係者)との疑念も付きまとった[12][13]

名糖運輸への吸収合併

2025年2月21日、SGHDは連結子会社の名糖運輸を存続会社として、C&Fロジホールディングスを吸収合併すると発表した。合併予定日は同年4月1日とされ、食品低温物流の上流から中流を得意とするC&Fと、非食品分野の常温物流やサプライチェーンの中流から下流を担う名糖運輸グループの相互補完を狙った再編であった[14]

SGHDは2025年4月に始まる新中期経営計画で低温物流ソリューションの拡大を重点分野に位置づけ、名糖運輸とヒューテックノオリンが培ってきた食品低温物流のノウハウに、佐川急便の持つ顧客接点を組み合わせ、付加価値の高い低温物流サービスの提供を早期化・最大化する方針を掲げた。買収から半年余りでC&Fの法人格を解消し、既存の低温物流子会社へ統合する再編にまで踏み込んだ[15]

出典・参考