アマゾンジャパンとの宅配取引縮小と配送単価維持戦略
荷物の量を追うか、単価を守るか——佐川急便はなぜ最大級の荷主と距離を置いたか
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- 概要
- 2013年、SGホールディングス傘下の佐川急便が、ネット通販最大手アマゾンジャパンとの宅配契約について取扱個数を絞り込み、4月から実質的に取引を中止した経営判断。荷物量を追う数量至上主義から距離を置き、同時期に進めた法人向け配送単価の引き上げ交渉と一体で進めた収益構造改革であった。
- 背景
- 飛脚宅配便は取扱個数の拡大を追うあまり、平均単価がヤマト運輸以上に下落していた。とりわけアマゾンの荷物は、配達を下請けに委ねる変動費型の事業構造と相性が悪く、荷物量が増えるほど採算を圧迫する関係にあった。
- 内容
- 2012年に荷物サイズの上限を縮小して非効率な大型荷物を排除したうえで個別荷主への値上げ交渉に踏み切り、2013年初めにアマゾンジャパンとの取引継続を断念、4月から取引を中止した。以降は企業間物流(BtoB)の拡充へ経営資源を振り向けた。
- 含意
- 取扱個数は一時的に前年同期比11%減という2桁の落ち込みとなったが、配送単価は上昇に転じ、その後数年をかけて回復した。佐川急便は量を追う競争から離れ、採算を優先する経営へと方針を変えた。
量を追わない物流会社という輪郭
この決断の核心にあったのは、荷物の量を追うか、単価を守るかという単純な二択であった。数量至上主義から距離を置き、採算に合わない大口取引を切り離す判断は、短期的には取扱個数の急減という痛みを伴った。それでも佐川急便は、BtoB小口配送という創業以来の立ち位置に立ち返ることで、単価の回復という応えを得たとみることができる。
もっとも、この選択がその後も安定した収益力につながった背景には、ネット通販市場そのものの拡大という追い風があったことも見過ごせない。荷主を選ぶ余地があったのは市場全体が伸び続けていたためであり、縮小する市場で同じ決断ができたかは別の問題であろう。量を追わない物流会社という佐川急便の輪郭は、この2013年の決断以降に定まっていったとうかがえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
数量至上主義がもたらした単価下落
飛脚宅配便は、取扱個数を増やし続ける一方で、競合のヤマト運輸以上に平均単価が下落していた。現場のセールスドライバーには、採算を度外視してでもダンピング受注し、荷物の数量を追う傾向が根強く残っていた。企業間取引(BtoB)を出自とする佐川急便にとって、量を追う競争は自らの強みであった単価の高さを掘り崩す方向に働いていた[1]。
宅配便事業は集荷・幹線輸送・配達の3段階からなるが、佐川急便では配達の多くを軽貨物業者などの下請け(アンダー)に委ねており、配達コストは変動費に近い性質を持っていた。アマゾンは自社センターから宅配業者の集約拠点へ直接持ち込むため、佐川が担うのは配達の部分だけで、荷物量が増えるほど下請けへの支払いである用車費がかさむ関係にあった。値引き幅が用車費の下落を上回らなければ、取引はたちまち不採算に転じる構造であった[2]。
収益改善の号令と値上げ交渉
2012年春、SGホールディングスの経営陣は収益改善を最優先課題に据えた。まず着手したのが、飛脚宅配便で扱う荷物サイズの上限見直しである。従来の60キログラム以内・三辺合計450センチメートル以内という上限を、50キログラム以内・260センチメートル以内へと縮小し、物流センターの稼働を止めて作業するような非効率な大型荷物を排除する対応を取った。大型の配送業務は、グループ内のSGムービングに集約した[3]。
第2弾として2012年後半から、個別の荷主企業への値上げ交渉を本格化させた。値上げ幅は1〜2割程度に及び、交渉が決裂して契約を打ち切られた荷主の多くは、ヤマト運輸や地場の運送業者へ流れていった。とりわけ保管コストのかさむ冷凍冷蔵貨物を扱う中小荷主には、強気の交渉を崩さなかったとされる。この値上げは業界の常識を破るものとして「佐川ショック」と呼ばれた[4]。
決断
アマゾンとの決別
2013年初め、SGホールディングスはアマゾンジャパンとの取引継続を断念する方針を固め、佐川急便は4月から実際の取引を中止した。理由は、荷物量の変動が大きく時間指定などの要求水準が厳しい一方で、見合う利潤を確保できなかったことにあった。和田潔SGホールディングス取締役は「品質と採算の両面に課題があった」と説明していた[5][6]。
交渉決裂に伴う荷主の流出を見込んでもなお、佐川急便は企業間物流(BtoB)への回帰を選んだ。荒木秀夫社長は「調達物流なども含めて、今後は企業間物流を強化する。ただ、今の宅配の部隊から人を移すようなことは考えていない」と述べ、宅配の現有戦力を維持したまま企業向け事業を伸ばす方針を明確にした。佐川はこの年、9年間の長期経営ビジョンの最終3カ年に入っており、BtoB基盤拡充・宅配収益性向上・海外強化の3本柱を掲げていた[7][8]。
取扱個数計画の下方修正
通期の取扱個数見通しにも修正が及んだ。SGホールディングスは2013年度通期の取扱個数を前年度比10%減の12億2000万個へ下方修正し、1998年の宅配便本格参入以来、初めてのマイナス予想となった。和田潔取締役は「2桁減は想定外だった」と、アマゾン離脱の影響がそれほど大きかったことを認めた[9][10]。
実際、2013年4〜9月期の取扱個数は前年同期比11%減の約6億625万個にとどまり、失った約7,700万個のうちおよそ3,000万個がアマゾン分とみられた。一方で単価は481円と前年同期から約5%(約22円)上昇した。同時期のヤマト運輸は取扱個数が11%増の約7億9,400万個に伸びた半面、単価は591円から3%(17円)下落しており、両社の戦略の違いが数字にはっきりと表れていた[11][12]。
結果
単価の回復と、脱アマゾン戦略の成果
有価証券報告書の記載によれば、2013年以前に460円台にとどまっていた配送単価は、その後511円まで回復した(本文未確認[13])。ヤマト運輸が宅急便を軸に個人向け配送のシェアを伸ばす一方、佐川急便はBtoBの法人小口を主戦場とする立ち位置を変えず、単価維持によって利益率を守る選択を続けた。
脱アマゾンから6年を経た2019年10月末、SGホールディングスは2019年4〜9月期の連結営業利益が前年同期比14%増の371億円となり、会社計画を20億円あまり上回ったと発表した。外部委託を需要に合わせて調整しながら荷物量を伸ばした結果であり、特定の大口顧客への依存を薄めた収益構造が、この時期の業績の安定度を高めたとみられていた[14]。
- 週刊東洋経済 2013年9月20日号「アマゾン震源の物流大革命 宅配便から企業間物流へ"先祖返り" アマゾンとあえて決別 佐川急便が背水の再出発」
- 日本経済新聞(2013年10月30日)「佐川急便、取扱11%減 4~9月、脱アマゾンが影響」
- 日本経済新聞(2019年11月12日)「佐川急便、脱アマゾンで磨いた強み」
- SGホールディングス 有価証券報告書 第10期(2018年3月期)【沿革】
- SGホールディングス 有価証券報告書(2014年3月期・単体)