筆者の見解
「戦争」ではなく「競争」という距離感
この一連の経緯の核心は、1949年の株式取得が、単なる沿線資産の買い増しではなく、同じ観光地を狙う同業との縄張りをどう線引きするかという問いを70年以上抱え続けた点にある。バス路線の物理的な妨害にまで至った1950〜60年代の対立と、2025年の投資競争を並べると、規模も手段もまるで異なる。小田急は鉄道沿線からの誘客動線を軸に、西武は不動産の売却益を再投資に回すキャピタルリサイクル型の成長を軸に据えており、両社が同じ土俵で殴り合った時代とは競争の形そのものが変わっているとみられる。
もっとも、1968年の決着以来続いてきた"相互不可侵"に近い共存が、投資の規模で優劣を競うこの先の5年間でどこまで保たれるかは、まだ見通せない。両社の社長がそろって"協調"を口にし、互いを共に歩む相手と位置づける姿は、かつての対立の記憶があるからこそ強調される距離感ともとれる。インバウンド需要という新しいパイをめぐる競争が、観光地としての箱根の価値をともに高める方向に働くのか、それとも投資の重複や需要の奪い合いに転じるのか、2025年からの5年間の投資計画が実際にどう回収されるかが、次の判断材料になる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月