筆者の見解
どの市場で戦い、どの市場から退くか
この判断の核心は、競争劣位に置かれた市場に固執せず、競争優位を築ける隣接市場へ人と設備を移し替えた点にある。家電という一般消費市場では、先発の大手に対して富士電機の後発の不利は覆しにくかった。自販機という、当時まだ中規模ながら伸びしろのある業務用の市場を選び、製造から金融・材料まで抱える一貫体制で臨んだことが、遊びかけていた三重工場を稼ぎ手に変え、やがて子会社の独立上場にまで結び付いたと思われる。競争劣位を認めて資源を動かす速さが、この転換を支えていた。
もっとも、自販機もまた安泰ではなかった。清涼飲料の自販機市場はコンビニの成長とともに縮小へ向かい、かつて家電を救った事業自体が次の環境変化に洗われていく。それでも、先発に競争優位を築けない領域を早めに見切り、後発でも競争優位を築ける場所へ移るという1960年代からの判断軸は、変電機器や物流の切り出しに至るまで、富士電機の事業再編に繰り返し現れた。どの市場で戦い、どの市場から退くか——家電での競争劣位から始まったこの問いは、パワー半導体への集中に至る後年の選択にも通じている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月